「二の線」への転向なるか、中畑DeNA |
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【立見席】選手が育ち、スタンドにお客が戻り始めた。本当のゲームが始まる 東風田邦夫
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(スポーツ/芸術)
DeNA 中畑監督=共同通信
中畑清監督(61)のパフォーマンスばかりが目立っていたDeNAだが、今季は一味違う。6日のヤクルト戦で両リーグを通じて20勝一番乗りを果たし、開幕ダッシュに成功した。この勢い、春の椿事か、本物か。
ベイスターズの親会社がTBSからDeNAに代わって今季で4シーズン目。新体制となった2012年当時から中畑監督が指揮を執っているが、成績は最下位、5位、5位。今季も4月半ばに7連敗を喫し「やっぱりだめか」というにおいを漂わせたものの、そこから巻き返し、5月5日には今季初登板となった三浦大輔(41)の力投で首位に立った。
本命の巨人のもたつきがすべて、といえばそれまでだが、抑えに抜擢した新人、山崎康晃が大当たりで、1点差を勝ち切る試合ができている。久保康友、山口俊、井納翔一、三嶋一輝らの先発も安定し、大崩れしない陣容になってきた。
前回優勝した1998年の雰囲気に似てきた感じもある。あの時の売りはマシンガン打線だった。
今季は成長著しい4番筒香嘉智の前を石川雄洋、梶谷隆幸という、打っても走ってもピカ一の身体能力に優れた選手が打つ。この構図は4番のボビー・ローズの前で石井琢朗、波留敏夫という野性的な選手が暴れていた当時をほうふつさせる。
先をみれば、新人の山崎康が1年持つかどうか、けがの多い筒香が大過なく過ごせるかと、心配の種は尽きない。
慣れない〝貯金生活〟に中畑監督自身、戸惑っているようでもある。三枚目路線から二枚目路線へ、バラエティーからシリアス路線へ。ここで「さあ優勝」などと力瘤が入って我を忘れるようだと、勝ちなれないチームが変調を来す恐れはある。
ここでも98年の優勝を思い出すべきかもしれない。放任主義の権藤博監督が「馬なり」の指揮の冴えをみせ、選手の勢いを保ったまま1年を駆け抜けたのだった。
今季のDeNAも勢いはついた。あとはいい時も苦しい時も中畑監督が泰然自若としていられるか。三の線から二の線への転換のカギは監督の落ち着きということになるかもしれない。
これは球団の運営にもいえること。親会社がDeNAに代わってからの球団は旧態依然とした経営を打破すべく、様々な集客作戦にチャレンジしてきた。その最たるものが「試合に満足できなければ入場料をお返しします」という試みだった。
お金を取って見せるというプロの原則から踏み出す〝暴走〟ではあったが、一方ではファンの目を振り向かせたい、閑古鳥鳴く球場に何とか人を呼びたい、という思いは伝わってきたものだった。
舞台俳優は人にみられてうまくなるという。プロ野球選手も同じで、スタンドの眼差しによって鍛えられ、強くなる。その点「まずは注目を集めなくては」と、三の線を辞さず、リップサービスとパフォーマンスに努めてきた中畑監督の〝采配〟も、お門違いではなかったわけである。
選手が育ち、スタンドにお客が戻り始めた今。もうあざとい営業も惹句も要らない。求められるのはグラウンド上のパフォーマンス。「横浜DeNAベイスターズ」となって以来初めて、本当のゲームが始まるのだ。