7月23日、東京五輪が開幕した。
無観客であったが、開会式の会場となった新国立競技場周辺には大勢の人が集まり、お祭り気分を満喫していた。4度目の緊急事態宣言が発令されている東京で、異例の五輪開催となったのである。
菅政権としては、コロナを収束させ、五輪を成功させて、支持率を上げ、解散総選挙を行い、圧勝したいところであるが、その思惑通りになるかどうかは分からない。
各種の世論調査で菅内閣支持率は下げ続けており、直近の日経新聞世論調査(23~25日)でも、内閣支持率は34(-9)%と、政権発足以来最低を記録した。
また不支持率は57(+7)%で、この数字は単に菅内閣のみならず、2012年12月以降で最も高い。極めて厳しい評価である。
政府のコロナ対応については、「評価する」は36%と前回より3%減っており、「評価しない」は横ばいの58%であった。また、ワクチン接種計画に関しては、「順調だと思う」が29%と前回より9%減らしており、「順調だとは思わない」が65%で6%増えている。
4度目の緊急事態宣言については、効果が「ある」が25%、「ない」が70%である。五輪の無観客開催は、「妥当」が37%、「観客制限で」が25%、「通常通りで」が31%であった。
五輪競技が始まった段階での調査なので、今後日本選手の活躍で明るい話題が続出すれば、菅首相が期待するように支持率はアップするかもしれない。しかし。五輪強行開催の可否については、世論は二分されており、読売新聞の世論調査(7月9~11日)では東京都民の半分は中止すべきだと答えていたのである。
二週間続く競技の熱狂が世論を大きく変えることになるのかどうか不明であるが、強行開催問題の背景には、五輪をめぐる政治指導者の発言の軽さがある。
五輪を誘致したときには、「東日本大震災からの復興の証として」というスローガンが掲げられた。しかし、東北の現状は、福島第一原発事故の処理も続いており、まだ完全な復興とはほど遠い状況にある。
さらに、昨年3月に東京五輪を1年延期した際には、安倍首相は「完全な形で」実施するためだと理由を述べている。しかし、コロナ感染は止むどころか拡大し、無観客という極めて不完全な形になってしまっている。
しかも、コロナ陽性が判明して競技に棄権せざるをえない海外の選手も出てきている。これでは、フェアな大会とは言いがたい。
いずれも、安倍首相の見通しが極めて甘く、希望的観測を述べたにすぎなかったと言わざるをえない。
そして、極めつけは、「人類がコロナに打ち勝った証として」という謳い文句である。東京都に4度目の緊急事態宣言を発令せざるを得ず、首都圏を中心に感染が拡大している。日本のみならず、世界でデルタ株の感染が拡大し、パンデミックの収束とはほど遠い状況である。
幸いに今回は、新技術の導入でワクチン開発が迅速に進み、その恩恵で、欧米を中心に感染対策規制を緩和できるようになっている。しかし、日本では接種が遅れており、猛暑の中でもマスク着用が必要であり、「コロナに打ち勝った」などとは言えない惨状にある。
菅首相は、もはや東京五輪を特色づける言葉を失ったと言ってもよい。
「安全・安心」というスローガンを繰り返すだけでは、今回の東京大会開催の意義を誰にも分からないことになる。不完全な形でしか開催できなかったことは、新型コロナウイルスに敗退したことを意味すると言ってもよい。
政治家の言葉の軽さのみが印象に残る後味の悪い大会である。1964年の東京大会は新幹線という遺産を残したが、今大会は何をレガシーとして残すのであろうか。
五輪が始まってからも、コロナ感染の拡大は止まらない。
25日の東京都のコロナ感染者1763人で、前週の日曜日の1008人と比べると755人も増えている。日曜日としては、過去最多である。26日は1429人と先週の月曜日(727人)の倍増となっており、これまた月曜日としては過去最多である。
残念ながら緊急事態宣言の効果が出ていないようで、猛暑にもかかわらず、東京の人出は減っていない。しかも、ここに来てワクチンの供給不足からか、接種のスピードが落ちている。1日100万回という菅首相の約束も、実現しないのならば、言葉の重みは失われてしまう。
政治指導者の言葉が行動と責任を伴わないならば、国民の信頼を得ることはできないであろう。
五輪は「コロナに打ち勝った証」という、政治家の言葉の軽さ |
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【舛添要一が語る世界と日本(100)】菅政権への国民の不信感、五輪開催でも変わらず
CC BY /Dick Thomas Johnson
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舛添 要一(国際政治学者)
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