新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。大阪府を中心とする関西、首都圏のみならず、北海道、福岡県も急拡大でる。
さらに、秋田県、石川県、岡山県、鹿児島県など、これまでは比較的感染者数が少なかった地方でも、軒並み過去最多の感染者が出ている。5月2日の全国の感染者は5900人である。まさに、燎原の火の如く感染が日本列島に蔓延している。危機的な状況である。
しかし、ゴールデンウィークの連休中ということもあり、緊急事態宣言が発令されているにもかかわらず、人出はあまり減っていない。とくに若い世代がそうであり、深夜のテレビ出演の帰りに通過した六本木や渋谷では多くの若者がマスクもせずに遊びほうけていた。これでは、感染が拡大するのは当然である。
1年前の初回の緊急事態宣言のときは、東京もゴーストタウンのようになっていたし、高速道路も走る車はほとんどいなかった。ところが、今回は全く違う。盛り場には多くの人がでかけ、高速道路は渋滞している。この違いはどこから来るのか。
一つは、長引くパンデミックに疲れ切っているし、ストレスの溜まる自粛にも飽き飽きしているからである。また、新型コロナウイルスに関する過去1年間の経験や知識の集積から、このウイルスとの付き合い方が分かってきたこともある。さらには、様々な治療法が開発され、救命される患者も増えたことも安心材料につながってる。
ワクチン接種が進んでいるイギリスやイスラエルで、日常生活が戻りつつあることも、先の展望を明るくしている。日本はG7で接種が最も遅れており、その点での不満は高まっているが、それが自粛を促進させることにはつながっていない。
そのような状況下で気になるのが、変異株の蔓延である。関西、福岡、北海道は、いずれも変異株が8割を占めている。東京は、検査数が少ないので半分程度が変異株だとされているが、検査を徹底すればもっと比率が上がるのかもしれない。
問題は、変異ウイルスは感染力が強く、しかも重症化するようである。大阪の医療現場が逼迫し、崩壊状態になっているのは、感染者、とりわけ重症者が急増しているからである。死者の数も増えている。しかも、若者にも容易に感染する。
5月2日の新型コロナ重症者は1050人で過去最多であり、この40日で3倍に拡大している。この傾向が続けば、各地で医療資源が不足してしまう。東京も大阪の後を追っていると言ってよい。
小池都知事は、思いつきで気軽に「大阪の患者をヘリコプターで運んで、都で引き受ける」と述べたが、首都が炎上し始めているときに大阪の患者を受け入れる余裕などないはずである。国政復帰を狙う彼女は、大阪の有権者にも媚びを売るパフォーマンスをしたのかもしれない。
世界に目を転じると、インドの感染爆発が凄まじい。一日の感染者が40万人を超え、死者が3千人超という日が続いている。二重変異であるインド株がどれくらい影響しているかの細かい調査はまだないが、それも一要因かもしれない。
インドの感染症専門家たちは、政府に対して変異株の危険性について3月初めに警告したが、それが無視されたことが今の感染大爆発につながったという。政府が、必要な規制をしなかったからである。しかし、変異株の感染拡大が予想以上のものだったので、一方的には政府を責められないという専門家もいる。変異株の感染力の強さや重症化傾向には注目すべきであろう。
日本でも、すでに20例以上、インド株が確認されているが、水際対策などを講じて、これ以上の流入を阻止せねばならない。アメリカなど各国は、インドからの入国禁止措置を決めている。この変異株に対しては、全く新しい病原体が現れたという認識で対応しなければならない。
そのような状況下で、日本では相変わらず東京五輪優先で全てが進んでいる。
札幌市は五輪のマラソン・テスト大会を5日に予定通り開催するという。同じ日の市民マラソンは中止である。札幌の感染状況は緊急事態宣言レベルであり、これはどう考えても非常識である。こういう無理を積み重ねていくと、国民は五輪に対して嫌悪の感情を持つことになってしまう。
2日の岡山のコロナ感染者は114人で過去最多である。お隣の広島は87人で過去2番目、山口も29人で過去5番目の多さである。IOCのバッハ会長は、17日に来日し、広島で聖火リレーを視察する。この感染状況で聖火リレーは予定通り行えるのだろうか。日本国民の感情を逆なでするような行為となりそうである。IOCに対する反感も強まるであろう。
5月11日に緊急事態宣言を解除する条件が整うのだろうか。感染状況、ワクチン接種状況を冷静に観察すれば、公衆衛生学的観点からは、東京五輪は中止するほうが賢明である。あとは、政治がどう判断するかである。
東京五輪は中止する方が賢明だ |
あとで読む |
【舛添要一が語る世界と日本(88)】変異株が猛威 相変わらずの五輪優先では国民に嫌悪感情
Reuters
![]() |
舛添 要一(国際政治学者)
|
![]() |
舛添 要一(国際政治学者) の 最新の記事(全て見る)
|