組織委員会には廃棄物を専管する部署がある。そこには都庁の環境局や関係する外郭団体、さらには都内外の自治体から人が送り込まれている。オリンピックでは大会ごとにリサイクル率の目標値が設定され、大会後に公表される。
ロンドン2012大会では63%の好成績だった。東京2020の目標はさらに上を目指して65%と設定されている。担当者の計算では、達成可能と言うことになっているのだが・・・・。
リサイクルの対象は、主に競技会場内で発生したゴミである。選手村はメインダイニングだけが対象で、選手の宿泊棟のゴミは除外されている。これに限らず、大会を通じて出される廃棄物全体にリサイクル率の網がかかっているのではない。何やら数字を巡る思惑が透けて見える気もするが、それでもリサイクル率65%は意外と高いハードルである。
▽スペースも時間もない
オリンピックの競技会場内は環境に配慮した商品しか扱わないことにはなっている。だが、観客が持ち込んだ様々なゴミの分別をスムーズに行えるか、外国からの観客が分別をきちんと行ってくれるかなど、課題は山積している。イベント会場などでは、閉場後にゴミ箱の中身を一度取り出して広げ、手作業で分別をし直す場合もある。膨大な手間とコストがかかるのは言うまでもないが、こうして分別を徹底すれば、あと処理がスムーズになり、リサイクル率も上がる。
だが、競技会場にはそんなバックヤードはなく、時間的にも早朝から夜遅くまで競技が行われていて隙間はない。しかも、観客は日に何度も入れ替わり、人の流れは常に流動的である。結果、とにかくゴミ箱がいっぱいになったらそのまま次々に搬出するしかないのである。
▽「ベンガラ」問題とは
少し横道にそれるが、プラスチックのリサイクルについて一言述べたい。廃棄物処理業界では、以前から「ベンガラ」が大きな問題になってきた。「ベンガラ」とは、弁当のガラ、つまり弁当容器のゴミである。食べ物の残さが付着し、プラスチック以外のゴミが混入している。こんな状態でリサイクル用の綺麗な原材料を作れと言われても無理である。人海戦術で仕分けして洗浄などの処理を施すが、そこまでエネルギーとコストをかけてまでリサイクルに取り組むことに対しては大きな疑問が呈せられている。
消費者は自分たちの手抜きを棚に上げて、プラスチックのリサイクル大賛成と言うが、ことはそう簡単ではないのである。
▽分別ナビゲーターが集まらない
競技会場での分別問題に戻ろう。東京大会では、現場での分別の徹底を図るため、「分別ナビゲーター」という仕組みが考案されている。分別ボックスの周辺に立ち、ゴミを捨てに来た観客に対して、紙、ペットボトル、プラスチックなどに正しく分別するよう呼び掛ける役割を担うのである。リサイクルに取り組む団体や地元の住民などからボランティアを募ることにしている。
ところが、このボランティア、認知度も低く集まりが悪い。また、炎天下で分別ボックスの周辺に立ち続けるリスクもあることから、屋根のある場所の分別ボックスに限ってナビゲーターを置くことに方針変更された。加えて、新型コロナ対策としてマスクなどをどう扱うかの問題も浮上し、結局、廃棄物の引取り業者は、感染リスクを考慮して引き取ったゴミをそのまま処理することになった。
こんな穴だらけの不十分な態勢で本当にリサイクルが徹底されるのだろうか。分別不十分なゴミがそのままリサイクル施設に搬入されても、真っ当なリサイクルができるとは思われない。リサイクル率65%達成は、まさに菅内閣が掲げる「自助」頼り、各自が分別ボックスにゴミを捨てる時に徹底して分けるしかないとは、いかにも心許ない話である。
オリンピックの開催そのものが危ぶまれる中、準備作業は開催を前提に進められている。だが、業務を請け負うリサイクル業界には、あきらめムードが漂い始めているのである。
ゴミ処理、リサイクル率65%は高すぎるハードル |
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【都政を考える 検証・五輪と都庁③】会場には仕分けするスペースがない
リオ五輪での会場分別ゴミ(環境省報告書から)
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澤 章(都政ウォッチャー)
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。
総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理 委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年3月 に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』( 都政新報社)を上梓。著書に『軍艦防波堤へ』(栄光出版社)、『ワン・ディ ケイド・ボーイ』(パレードブックス)など。 |
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