ワクチン大規模接種会場を巡り、小池知事の迷走ぶりが加速している。
各自治体でも大規模会場を設置してほしいとの国の呼びかけに、小池知事は当初、NOを突きつけていた。ところが2日も経たないうちに、「築地市場跡地でやります」と突然、前言を翻した。一般住民との差別化を図るため、警視庁や東京消防庁の職員向けだと言い訳を付け加えるのを忘れなかったが、苦しい言い訳にしか聞こえなかった。
そもそも築地跡地では、五輪のためのデポ(大規模車両基地)としての整備が進められている。ワクチン接種会場との整合性はどうなるのか、多くの都民が疑問に思ったことだろう。案の定、築地跡地の活用は6月末まで修了させる必要があり、代わりに代々木公園のパブリックビューイング会場を使用すると、これまた唐突に言い出した。しかも、都議会の所信表明においてである。
▽所信表明ににじみ出る本音
6月1日、令和3年第二回都議会定例会が開会し、冒頭、小池知事は所信表明を読み上げた。五輪開催か中止かで注目が集まる中、知事は「関係機関と連携し、開催に向けた総仕上げを着実に行う」との考えを述べた。
この文言、開催に前向きとも受け取れるが、実は違う。準備を進めると言ったに過ぎず、大会を開催し成功に導きたいと決意表明したわけでは決してない。ここがミソだ。開会まで50日という段階になっても、主催都市のトップとして及び腰なのだ。開催推進の言質を取られることを極度に恐れているように見えて仕方がない。
その裏返しと言っては何だが、所信表明の最初の部分で小池知事は、ゲームチェンジャーであるワクチンに言及した。ワクチンの確保と普及の遅れが問題だと暗に国に責任を押しつけて、自分の逃げ道をちゃっかり確保したのである。
▽批判をかわす魂胆が見え見え
今回の所信表明は、緊急事態宣言再延長と五輪開催直前の時期としては、極めてテンションの低い、メッセージ性の乏しい凡庸なものだった。そんな中で唯一のサプライズが、代々木活用案だったのだ。
だがこれも、行き当たりばったりの弥縫策でしかない。パブリックビューイングそのものに対しては、自粛を都民に要求しておきながらオリンピックなら大人数で集まっても構わないとするダブルスタンダードへの批判が根強くある。なかでも代々木会場は、会場整備のために貴重な樹木を伐採する事への反発が沸き起こっていた。様々な批判をひとまとめにして逃げだそうとする魂胆が見え見えなのだ。
所信表明は知事の都政運営の基本的な考えを都議会に明らかにする重要な役割を持っている。そんな場で、代々木活用案をぶち上げるからには、事前準備は万端でなければならない。ところが、代々木会場は土むき出しの屋外である。
そこにテントを張って炎天下にワクチン接種をしようとすること自体、ナンセンス極まりない。代々木公園を使うくらいなら、未使用の都有施設が都内にはいくらでもあるだろう。
結局のところ、代々木活用案は都民等へのワクチン接種を推進するために考案されたまっとうな政策ではない。あくまで小池知事の自己保身、責任回避、帳尻合わせのためにひねり出された身勝手な策でしかないのである。
こんな自分本位の都政運営が続けられるのであれば、小池知事にコロナ対策を進める資格があるのかを厳しく問う必要が出てきそうだ。6月25日に告示される都議会議員選挙は、民意を測るまたとない機会になるのではないか。
小池都知事、大規模接種会場で右往左往 |
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【都政を考える】前言撤回 築地・代々木公園とくるくる変わる
Reuters
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澤 章(都政ウォッチャー)
1958年、長崎生まれ。一橋大学経済学部卒、1986年、東京都庁入都。総務局人事部人事課長、知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長、選挙管理委員会事務局長などを歴任。(公)東京都環境公社前理事長。2020年3月に『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)を上梓。著書に『軍艦防波堤へ』(栄光出版社)、『ワン・ディケイド・ボーイ』(パレードブックス)、最新作に「ハダカの東京都庁」(文藝春秋)、「自治体係長のきほん 係長スイッチ」(公職研)。
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