リオデジャネイロ・オリンピックでは、日本選手が大活躍した。取得したメダル数は金、銀、銅合わせて41個、史上最多の快挙だった。
早くも2020年の東京オリンピックへの期待が高まっている。政府も主催都市東京都も環境に配慮したオリンピックを大きく掲げている。その目玉のひとつとして、都市鉱山から取り出した金属(リサイクル資源)で東京オリンピック・パラリンピックのメダルをつくる構想が政府、東京都、環境NPOなどの間で急浮上している。
オリンピック憲章によると、オリンピック・メダルの基準は、少なくとも直径60ミリ、厚さ3ミリ、二位のメダルは銀製で、少なくとも純度1000分の925でなければならない。一位の金メダルは少なくとも6グラムの純金で金張り(メッキ)がほどこされていなければならないなどと定められている。
直径60ミリ、厚さ3ミリの銀の上に金を6gメッキすると、金メッキの厚さは50マイクロミリ(μm=百万分の1m)になる。メダルの重量はいずれも約500gだ。
ところで、過去のオリンピックでリサイクル原料を使ったメダルの例はあるだろうか。ロンドン・オリンピックでは一時期、リサイクルでメダルをつくることが検討されたようだ。最終的には、金は資源メジャーからの寄付で賄った。ブラジル政府によると、リオでは、銀と銅には30%のリサイクル原料が含まれているとのことだ。金は水銀などを使用しない持続可能なプロセスで採掘されたものを使っているが、リサイクル原料とは言っていない。リサイクルで取り出した金メダルをつくれば、東京オリンピックが最初になる。
それだけの金をリサイクルで取り出すことができるのだろうか。
情報産業を支える携帯電話(スマホなど含む)、パソコン、CD、DVD、電子部品、プリント基板、ロボットなどには金、銀、銅などの貴重な資源が大量に使われている。使用済みとなって廃棄される電子機器類に含まれる資源のことを「都市鉱山」と呼んでいる。都市鉱山から採掘される資源は天然のバージンの鉱山で採掘する資源と比べ環境破壊は極端に低く、品位も高い。例えば、携帯電話1万個(約1トン)を集めると、300〜400gの金が回収できる。一方金を大規模に露天掘りで採掘している鉱山の鉱脈中の品位は1トン当たり0・3gから1g程度に過ぎない。都市鉱山がいかに「宝の山」かが分かる。
政府は都市鉱山のリサイクルを推進するため、2013年4月に小型家電リサイクル法を施行した。環境省資料によると、14年の小型家電リサイクル法に基づく金の回収は約143kg、銀は1566kg、銅は1112トンだった。
一方、リオ五輪のメダルは金、銀、銅合わせて約2500個と発表されている。大雑把にとらえて、その約3分の1、800個が金メダルとすれば、4・8kgの金が必要だ。またパラリンピックの金メダル数が同程度だと仮定すれば、約10kgの金が必要になる。計算上は都市鉱山から回収された金で十分賄える。
だが、安心は禁物。実際には難問が立ちふさがっている。最大の問題は都市鉱山から回収された金の多くが再びスマホなどの小型家電や電子部品に使われていることだ。ICT(情報通信技術)革命がさらに進めば、金への需要はさらに膨らみ、メダルに回せる分を確保できるかは微妙になる。
この壁を乗り越えるためには、小型廃家電のリサイクルを徹底させることである。経産省などによると、年間約65万トンの小型廃家電が発生するが、小型家電リサイクル法による回収は10万トンにも満たない。振り返って見ると、私たち個人の家庭にも使わなくなった携帯電話やパソコン、その関連電子部品などが押し入れや机の引き出しにゴロゴロあるのではないか。この際、政府、地方自治体もより多様な回収方法を導入し、私たち消費者も使わなくなった小型家電をルールに従ってさらに積極的にリサイクルさせる努力が求められる。
回収された小型廃家電は製錬工場に運ばれ解体・分解され、様々な金属資源に生まれ変わる。たとえば、非鉄金属のDOWA(旧同和鉱業)は、秋田県にある小坂製錬工場で多くの廃家電の中から、金、銀、銅、亜鉛、鉛など16種類の非鉄金属を取り出している。DOWAに限らず、日本の非鉄金属メーカーは世界に誇れる最高水準の製錬技術を所有している。
政府、地方自治体、消費者、メーカーがしっかりスクラムを組み、小型廃家電の製錬、リサイクルに乗り出せば、金メダルだけではなく、銀、銅メダルを100%リサイクル資源で賄うことができるだろう。この構想が実現すれば、環境立国、日本を世界に知ってもらうよい機会になる。
(参照:一般社団法人サステナビリティ技術設計機構のウエブサイト)
東京五輪のメダルを都市鉱山資源でつくろう |
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【 緑の最前線(26)】 小型廃家電リサイクルの徹底を
公開日:
(スポーツ/芸術)
リオ五輪、金藤選手の金メダル=Reuters
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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