2022年の冬季オリンピックの開催地が北京に決定した。2008年の夏季五輪に続く五輪開催に中国は沸いているが、とりわけ習近平主席ら中国指導部はほっと胸をなでおろしていることだろう。6月中旬以降の株価暴落で中国経済の行き詰まり、破綻リスクが世界に知れ渡るなかで、五輪関連の建設事業、インフラ整備で再びバブルを煽り、成長の押し上げが可能になるからだ。
北京は大陸性の気候のため、夏は40度近い高温になる一方、冬は零下10度以下になることも珍しくない。気温だけとれば冬季五輪の開催も不可能ではないが、降雪は少なくそもそもまともなスキー場すらない土地だ。滑降、回転などのスキー競技施設を建設しようにも適した山すらない。スケートリンクだけはつくれてもとても冬季五輪の開催地にはなりにくい。それを強行する裏には莫大な建設需要への期待がある。
過去5、6年をみれば中国の成長はインフラや不動産開発に依存してきた。その結果、使われないインフラや建物が全国にできあがり、リターンのない投資が負債となって地方政府や国有企業を圧迫している。その行き詰まりから習近平政権は過度な建設依存の成長を見直し、成長率の低下をも容認する「新常態(ニューノーマル)」を昨年から打ち出している。その結果が不動産市況の下落、株価の暴落などを引き起こした。その落ち込みは中国指導部の予想をはるかに上回り、共産党の統治の理屈である「経済成長」を薄れさせ、国民の不満を書き立てている。
習政権としてはもう一度、建設事業などでバブルを再現しなければ、成長鈍化、ハードランディングどころか共産党体制そのものの崩壊につながりかねない。だが、自らがいったん成長メカニズムを正常化すると言ってしまった手前、習主席は建設、インフラ主導の成長を先導するわけにもいかない。
そうした苦境を打破するのが冬季五輪なのだ。開催まであと7年もあるとはいえ、競技用スキー場、ジャンプ競技、ボブスレーなどスライディング競技の施設整備には3~4年はかかるだけに、選手育成も考えればすぐにも施設建設に入らなければならない。習政権にしてみれば開催決定は渡りに船だった。だが、建設プロジェクト依存の成長に戻れば、中国経済の成長メカニズムの正常化はますます遅れる。
北京の冬季五輪は、2020年の夏季五輪を開催する日本に対抗し、ナショナリズムを刺激する格好の材料にはなるだろうが、不健全な成長の延長を容認することで長期的には問題をさらに深刻化させる。加えて、国家主導でスポーツ選手を育成し、国威発揚の道具にするといった冷戦体制以前の社会主義的国家スポーツの時代に戻せば、政治的、社会的にも大きな後遺症を残すだろう。
北京五輪の開催は決して、中国のためにはならない。2018年の平昌冬季五輪の開催で施設整備コストなどに苦しむ韓国の姿は北京冬季五輪の中国とも無関係ということではない。
中国経済の苦境 五輪で打破なるか |
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北京冬季五輪で再び高まる開発志向 五輪も中国の道具に
北京五輪招致決定(2015年7月31日)=Reuters
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五十嵐 渉(ジャーナリスト)
大手新聞記者を30年、アジア特派員など務める。経済にも強い。
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