のど元過ぎれば何とやらで、秋風とともに猛暑の記憶も薄れていく。今夏、東京で最高気温35℃以上の「猛暑日」が連続8日という観測史上最長記録を更新したことも。
米国海洋大気局の発表で、7、8月の世界の平均気温は1880年の観測開始以来の最高だった。温暖化が確実に進んでいるなら、日本の猛暑も例外とは言いきれない。心配なのは5年後、2020年の東京オリンピックだ。
7月24日から8月9日までの17日の開催期間の今夏の記録を調べると、最高気温が32℃~38℃(平均34.6℃)、35℃を超えた日が10日もあった。加えて湿度70%以上も10日。ほぼ赤道直下のシンガポールからの訪日客が「暑い」と驚く高温多湿の日本の盛夏なのだ。
ところが、白紙に戻し再コンペとなった新国立競技場は、安倍首相の裁断で「観客席の冷房なし」となった。屋根も観客席の上部だけ、建設費を1550億円に収めるためだ。5年後が冷夏ならよいが、今夏よりひどい“酷暑のおもてなし”にならぬとも限らない。
本当に冷房は要らないのか。ちなみに2022年のサッカー・ワールドカップ主催国のカタールは、太陽光発電による空調で、スタジアム内を27℃以下に保つと約束している。
新国立には「100年間、大規模修繕なしで使用できる」との条件もつく。温暖化で酷暑日はさらに増えるだろう。国民の高齢者比率も高まる。暑さに弱いシニアの観客が冷房なしに酷暑に耐える未来図は、おぞましい。
「冷房なし」での節約は約100億円という。五輪では観客に冷却グッズを配るなど10億円の暑さ対策を講じるというが、真夏のイベントごとに繰り返すのか。後で「やはり必要だった」と冷房をつければ大規模修繕になる。五輪後も見据えれば、開閉式天井もあった方が、コンサートなど多様な用途で稼働率を高める役に立つ。
ここは発想を変え「1550億円でエコな空調システムつき」を第一条件にしてはどうか。デザインが犠牲になっても仕方がない。
ボツになったザハ・ハディド氏の設計案では、目玉の「キールアーチ」に数百億円かかる計算だった。建築家の自己顕示に巨費を割く必要はない。工期の制約もあり、コストを抑えた機能的でシンプルな造りでよいではないか。旧国立競技場も、何の変哲もない外観だった。
東京には、東京タワーも、スカイツリーもあれば、東京駅、浅草寺、レインボーブリッジなど、ランドマークに事欠かない。奇をてらった新国立で“勝負”することはない。
新国立、本当に「冷房なし」でいいの? |
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五輪開催日程、今夏でみると最高気温平均34.6℃
公開日:
(スポーツ/芸術)
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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版) |
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