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日経はなぜコラムを削除したのか 問われる多様な意見の自己封殺

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【メディアが危ない】日経新聞は「削除理由答えられない」

公開日: 2021/03/10 (IT/メディア)

【メディアが危ない】日経新聞は「削除理由答えられない」

河原 仁志 (ジャーナリスト)

 日本経済新聞は3月2日に電子版で配信した外部執筆コラムについて「不適切な表現があった」として一部を削除した。

 執筆者はIT大手インターネットイニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一会長。コラムは「重要な仕事、『家事』を忘れている」と題して主婦業の価値を説き、形式主義に走る女性の社会進出論を難じた内容だ。

 鈴木氏は、審議会委員の4割以上を女性にするとした東京都の方針を「変な話」と批判。以下次のように記し、この部分が削除された。

 「男女を問わず、にわか知識で言葉をはさむような審議会の委員に指名されるより、女性が昔ながらの主婦業を徹底して追求したほうが、難しい仕事だし、人間としての価値も高いし、日本の将来にとっても、はるかに重要なことではないかと、そんなことを思うのだが、口にしようものなら、徹底批判されそうである。本当の男女差別をなくそうということであれば、目先の形だけを追求していても仕方がない気もするのだが」

 私はこの鈴木氏の指摘には賛成できない。この論考には、日本社会にはびこる「女性=家事」という堅牢な“常識”がどれだけ女性の生き方を制約してきたかという視点が欠けているからだ。家事は大切な仕事だが、すべての女性が率先して選び取ったものではなく、また女性しかできない仕事でもない。

 それは男社会が押し付けたものであり、米欧や日本の若者たちをみれば男でも立派に家事をこなす家庭がごまんとある。にわか知識の審議会委員との対比で女性に主婦業を勧めるのは、やはり説得力を欠く。

 とはいえ、である。私はそのこと以上に、この論考を削除した日経新聞の姿勢に疑問を持つ。

 メディア、とりわけ新聞社は報道機関であると同時に言論機関でもある。言論機関はさまざまな意見や反論を闘わせて世論を磨く場を提供する役割を担っている。

 もちろん公の場で論を展開するには逸脱してはならないルールがある。例えば、記事の構成が事実に基づき論理的であること。個人攻撃(公人を除く)をしないこと。そのルールに従えば、鈴木氏の論考は少なくとも事実誤認や個人への中傷はない。

 ではなぜ削除されたのだろう。日経にその理由を問うたが、広報室から「答えられない」という回答が来た。不思議だったのは「編集判断に関する質問には答えられない」としている点だが、一度公開したものを削除した理由を説明できないのでは言論機関としての姿勢が問われる。

 もし、日経が森喜朗氏のような女性蔑視の論考を載せたとして“炎上”を恐れたとしたら、その対応は一般の事業会社と同じであり、言論機関としての自覚がないのではないかと私は思う。

 ウケを狙って「女性がいる会議は時間がかかる」と決めつけた森氏と違って、形式的な女性登用よりは主婦業専念の方がよいと説く鈴木氏には少なくとも問題の本質に迫ろうとする真摯さがあり、その姿勢に一定の支持もあるはずだ。世間の大勢には疎んじられるような論考でも、ある程度の支持者が想定され一定の理があるものについては果敢に取り上げるのが言論機関の役割ではないか。

 彼らがどういう理屈で、どのような思考回路でそうした意見を発するかを知ることは、男女が無用な差別に苦しまずにすむ社会をつくるための欠かせないプロセスだ。“炎上”しそうだからといって、それを封じて公の場から消してしまっても問題は何ら解決しない。

 引用文にもあるように、鈴木氏は持論に“炎上”する火種があることを承知の上で書いている。それなりの覚悟で一石を投じたのだ(後に一部削除に同意はしている)。

 その鈴木氏に問うべきは、女性を主婦業に専念させることで何が解決されるのか、東京都のような数値目標が形式論であるなら他にどのような策があるのか、ということだろう。日経新聞の削除は、こうした議論の往還を封殺してしまったことになる。

 日本のメディア社会は往々にして読者の批判や“炎上”をおそれ、事なかれ主義に走る傾向がある。それは読者の多くが表層的な言葉狩りに走りがちなせいでもあるだろう。しかしメディアが世の中の風向きに従っているだけでは、この国に本物の言論空間は生まれない。

 きれいごとや正論ばかり並べるのが論壇ではない。異論や「ええっ?」と感じる意見があるからこそ気付きが生まれ、論は深まる。メディアはもっとたくましくあってほしい。
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河原 仁志(ジャーナリスト)
1982年に共同通信入社。福島、さいたま支局、ニューヨーク支局、経済部長、編集局長などを経て2019年退社。「沖縄50年の憂鬱」(光文社新書)を4月に出版。ほかに「沖縄をめぐる言葉たち」(毎日新聞出版)、「『西武王国』崩壊」(東洋経済新報社:共著)などがある。
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