毎年恒例となる世界大学ランキング2021が先月9月に英国Times Higher Education社から公開された。
上位は従来通り英米両国の名門大学が占め、1位が英国オックスフォード大、2位が米国スタンフォード大、3位が米国ハーバード大となっている。日本の大学では東京大学が前年同様の36位、次の京都大学は54位で、その後は続かず上位200校にはこの二校のみである。
アジアでの最高位は中国清華大学の20位であり、今回アジアの大学として初のトップ20入りを果たしている。中国の大学では他に北京大学が23位、復丹大学が70位と続き、上位200校には全部で七校が入っている。
ランキング評価は教育環境、研究、論文引用、事業収入、国際性、の各項目の総合点から行われ、分野別に各大学の強みや弱みも確認することが出来る。
日本の上位二校に関して項目別に評価すると教育環境や研究の点数は比較的高く、事業収入も過去から改善傾向にある。例えば今回の東京大学の事業収入スコアは2018年版から30ポイントも増加した82.6と検討している。しかし日本の大学の評価が概して低いのは国際性であり、それに伴う国際論文の引用数も低い。
逆に言えばこれらを改善すれば世界的な評価がより高まることは明確であるものの、長らく改善の兆しが見られていない。
一方で中国の上位大学に見られる傾向は国際性と論文引用数の評価が日本よりはやや高いが欧米には劣り、一方で産学連携や事業支援による事業収入は世界的にも非常に高く評価されていることである。世界上位200校に入る中国の大学のうち、清華大学、上海交通大学、浙江大学は事業収入スコアが100点満点であり、北京大学も96点と高い。
これまで筆者がこのコラムで清華大学の例を中心に紹介してきたように、大学を核とした研究開発や創業エコシステムが発展していることを示している。それも国外の団体や企業との連携も活発であり、例えば清華大学は東京都や北海道、愛知県といった日本の地方自治体やトヨタを初めとする各企業との交流関係も広く、今秋も経団連との共同講座をスタートしたところである。
経団連との最初の講座では清華大学金融学院の田副院長が経団連所属の約60人の日本企業の幹部に、中国のイノベーションについて講釈を示した。そこで興味深かったのは、起業に関する日中双方の考え方が垣間見えるやりとりであった。
田副院長が講演の中で「中国の大学生の起業の失敗率は95%」と話したことに対し、日本の出席者から「なぜそんなに成功率が低いのに大学が起業を奨励するのか」との質問が挙がった。田副院長は、「若者の活力や感性に期待している」という理由の他に、「失敗を容認させるため」という理由を挙げた。
大学側は事前に学生に対して失敗してもいいのだと伝え、たとえ失敗したとしても再起を促すようにしているとの事である。大学だけでなく社会や国にもそのような見方がある事を学生達が認識するからこそ挑戦に繋がるとの回答だった。
筆者がこれまで仕組みとして観察してきた、失敗を受容し挑戦を促す創業エコシステムの根底に流れている理念を感じた瞬間であった。
エリート教育というと、日本でも官僚主義に繋がると指摘されたような「なるべく失敗をしない事」を評価する傾向が考えられるが、その場合の弊害として産まれるのは「失敗を恐れる減点主義や前例主義に終始し、他人の失敗を受容できず、自らの失敗も認めない」といった文化であり、これはイノベーションには結びつかないどころか障害にさえなり得る。
田副院長が講演で一貫して主張したのは失敗の重要性であった。
コロナ禍で今後欧米の大学が研究用の収入を減らし、既に米国で見られるような外国人教員や留学生および外国企業を排除する動きが進めば、今回のランキング評価においても中国の大学との差は更に接近すると見られている。
そしてそれは欧米と中国との間の将来のイノベーションの接近をも示唆しており、失敗を受容する創業エコシステムを擁する中国の大学の存在感は数値以上に密かに着実に広がっている。
大学ランク 産学連携の点数高い中国の大学、清華大学は満点 |
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【中国IT事情】大学が失敗恐れず起業支援
公開日:
(IT/メディア)
清華大学=CCbyME
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小池 政就(清華大客員教授)
工学博士、清華大学客員教授。丸紅勤務、東大助教、日大准教授、衆議院議員を経て北京へ。
専門は国際関係、エネルギー、科学技術と幅広く、米国、英国でも留学および勤務歴あり。 現在はブロックチェーン企業の顧問も務める。 |
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