中国国家市場監督管理総局は12月14日、アリババグループのアリババインベストメント社、テンセントグループの閲文集団(チャイナ・リテラチュア社)、深圳市豊巣社に対して独占禁止法の違反行為があったとして三社それぞれに50万元(約800万円)の罰金を科す罰則を決定した。
前回に本誌でも紹介したように現在市場監督局は「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン」の策定を進めており、いよいよネット企業大手への規制が強まるのではという観測が流れていた。その流れを受けて今回は実際に罰則が課されたことから国内メディアでも大きく取り上げられている。
罰則の根拠としては、三社が大株主としてそれぞれの業界の企業を買収した際、本体と買収先との事業合計の売上高が「事業者集中宣布基準に関する国家評議会規定」第3条に定める報告基準に達しているにも関わらずいずれも買収前には法律に基づく宣布を実施していなかったとのことで、独占禁止法第48条に基づく罰金の最高額である50万元(約800万円)が科されたとのことである。
各買収先については、ネットEC大手のアリババグループのアリババインベストメント社は卸売りや小売り業のインタイリテール社を、SNSやメディアに強いテンセントグループの閲文集団はメディア企業のニュークラシックメディア社を、ITを使った宅配ロッカーの深圳市豊巣社は宅配便のチャイナポスト社をそれぞれ買収している。
各業界での市場占有率が高まることによる「事業者の集中」が独占禁止法第20条の対象となった。
罰則や罰金は軽いものの、規制当局が数年前の買収時の宣布義務違反をわざわざ取り上げて罰則を課したことからも、インターネット業界や市場への警告としての受け止め方が一般的である。
ネット企業もプラットフォーマーも例外では無く、企業の合併や買収を通して特定の業界を独占することに対して独禁法と市場管理当局の監督下での抑止効果が図られている。
この罰則の発表を受けてアリババ社を含めた対象企業の株価は14日の午後に約2~3%下落している。11月にプラットフォーマーへの規制ガイドラインが発表された際にはネット大手の株価は軒並み約10%超という下落であったことに比べると、今回は市場全体へのシグナルと捉えられたことから、個別企業への影響は比較的抑えられたと思われる。
一方で今回の独禁法違反事件からは、規制当局が警告を発信したという意思は伝わるものの、罰則の根拠も過料からもやや迫力不足の印象が感じられる。インターネット業界では常に新しいビジネスモデルやサービスが生み出されており、これらの新しいものを定義および規制するための法的規則の解釈等について規制当局側もまだ学習段階にある中で捻り出したようにも見受けられる。
11月のガイドライン策定時のように時には業界との意思疎通を通してのルール作りも必要であり、警告は発するものの必ずしも高圧的に強権で致命的な手段を持って規制するという姿勢ではないように察することも出来る。
今回の件についても、国家市場監督局は対象企業に対し、事業の集中に関する違法行為の疑いを自ら解決するよう要請し、自己診断を通してできる限り即座に改善して対処することを望んでいると明らかにしている。企業側も、法律に従って買収による事業の集中宣布を提出し、管轄当局の審査手続きに積極的に協力すると表明している。
これらは前号で紹介したようなインターネット業界の特異性や、雇用と経済成長を重視する地方政府と民間企業の利害の一致なども背景にあるものと考えられる。単純な「政府vsネット大手」のような対立構図ではなく、互いに暗黙の理解が少なからず存在している。
何より国家主席の習近平氏が、現代のイノベーションの拠点である清華大学を卒業しその後も密接な関係を続けており、かつ過去にはアリババ社の拠点である浙江省を発展させた経験からも、インターネット企業やプラットファーマーへの理解と共存共栄への期待が感じられる。
習近平氏は今年の9月11日、北京での科学者との座談会で「0から1」を産み出すイノベーションの重要性を強調しながらこう述べている。
「大量のデータと高度なアルゴリズムを備えたインターネットの巨人は、技術革新においてより多くを担当し、より多くを追求し、そしてより多くの成果をもたらすべきである。 」
共産党政府という従来からの巨人がインターネットの巨人とどのように進んでいけるのか、その歩みは始まったところである。
中国市場当局 アリババなど3社に独禁法違反で罰金 |
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【中国IT事情】罰則は軽微で当局は手探り状態か
Reuters
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小池 政就(清華大客員教授)
工学博士、清華大学客員教授。丸紅勤務、東大助教、日大准教授、衆議院議員を経て北京へ。
専門は国際関係、エネルギー、科学技術と幅広く、米国、英国でも留学および勤務歴あり。 現在はブロックチェーン企業の顧問も務める。 |
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