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資本主義はだいじょうぶか 経済の病巣を探る

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【深読み時事鼎談(2)】中国型資本主義にも疑問

公開日: 2021/03/14 (ワールド, マーケット, ビジネス, IT/メディア)

主要国サミットで資本主義のほころびを修正してきたが(伊勢志摩サミット=Reuters) 主要国サミットで資本主義のほころびを修正してきたが(伊勢志摩サミット=Reuters)

 自民党が政権を奪還して8年。平均株価はほぼ一貫して上昇し、今年に入ってからはコロナ禍にもかかわらず30年ぶりに一時3万円台に乗せた。でも、何かおかしい。企業業績とは裏腹に実質賃金は低下を続け、グローバリズムが人々の職を奪う。冷戦に打ち勝った資本主義に何が起きているのか。ベテラン経済記者2人とビジネスの最前線にいる大手企業役員が現状を検証した。
 
 解けぬ成長神話の背景

記者A 資本主義は競争による「成長」が原動力だ。でも一定の生活水準まで達した国はなかなか成長が難しいと言われる。加えて、もう一つの柱である「分配」がうまく機能しなくなった。これはどういうことなのか。

役員 いくつかの原因があるが、中でも1980年代後半からの新自由主義(注1)の台頭が資本主義をおかしくした大きな要因だと私は考えている。当時は米国との経済摩擦を背景に、株式の持ち合いや排他的な系列取引、官による統制など日本的な資本主義の在り方が問われた。世界的に見て、ちょっと異質なんじゃないかと。

記者A 米国が「年次改革要望書」(注2)などを通じて持ち込んできたのが新自由主義だ。市場の力や透明性を重視したこの思考は、ちょうど日本の急所を突いていた。

役員 そう。米国の日本市場開放策の一環だ。国内でも官の規制や国鉄・電電・専売公社、郵政・道路公団を中心にした既得権益が強すぎて新規参入が果たせない、つまり自由な市場競争ができないという声があった。だから当時、新自由主義は古い体質の日本経済を外科手術する、もってこいのメスで世論も期待した。規制緩和、参入障壁打破などのキーワードは、それ自体否定することが難しかった。しかし現状をみると、新自由主義は結局勝ち組の米国がもっと勝つためのルールの組み換えであり、日本経済の強みでもあった官や大手企業による分配機能を大きく阻害した。これがその後の分断と格差の温床になったのだと思う。

記者A 市場以外の機能に重点を置いて安定した社会を築いたのが日本型の資本主義だった。一方で新自由主義は、高度成長を終えた日本にとって、次のエンジンだという意識もあったのではないか。

エズラ・ボーゲル氏の「ジャパンアズナンバーワン」

役員 問題は当時の日本が成長期を終えて経済構造が変化しているという実態を十分に分析せず、「Japan As No.1」の延長線上で成長を追い求めたことだろう。日本型資本主義の何を残し、何を改めるか。冷静な検証と分析のないまま次のエンジンとして新自由主義に飛びついてしまった。

記者B すでに大きな成長が見込めなくなっているのに、無理して体に合わないエンジンを載せたような面もあった。問題は選挙の際の公約だ。日本の政界には、経済成長を掲げないと選挙に勝てないという成長神話の罠がある。理屈というより政治的な観念があって、冷静な議論を欠いていた。先進国に成長は可能か否かという議論があるが、私はある程度の成長自体は否定しない。重要なのは体に合った成長を考えることだ。安倍政権は3%を目標(注3)としたが、それは無理。過去の幻想を追いすぎている。そんな無理な目標を立てるから無駄な借金を背負うし、市場もゆがむ。
 
 「グリーン戦略」は毒饅頭

記者A 経済成長を国の最大目標に掲げて国民全体が幸せを享受できる「大きな物語」の時代は終わったという認識は、世の中に少しずつ浸透しつつある。でも一方で成長に代わる国家目標が先進国の資本主義にあるのか。ここが最大の問題ではないか。最近では環境対策が経済の大きな課題だが、菅義偉首相は環境対策も「新たな成長エンジン」と指摘している。

役員  成長エンジンかどうかは別として、環境対策は経済活動の重要なインフラだ。菅政権の本気度が試されるのはこれからだが、昨年末に発表された「グリーン成長戦略」はやっとスタートラインに立とうとしているな、というのが実感だ。原発政策に足を引っ張られて欧州諸国に2周回遅れになっていたのを一気に挽回しようという戦略で、グリーンニューディールの考え方自体は悪くないが、急加速していくには様々な法規制の改正や電力会社などの既得権益の壁も崩していかないといけない。

記者B 同感だ。鉄鋼だって今すぐ炭素税をかけられたら大変だ。だからルールを変える際には飲みやすい薬にして負荷を抑え、経済社会全般に行き渡らせなければいけない。環境対策は短期的には経済成長の足を引っ張る。そこをはき違えてはいけない。カーボンニュートラルやSDGsは確かに重要な政策目標だが、経済成長と結び付ける安易な議論は失望を招きかねない。あくまで人類が生きていくための社会政策と割り切るべきだ。

高浜原発

記者A グリーン成長戦略やエネルギー基本計画の中では原発の復権が見え隠れしている。原発は確かにカーボンニュートラルだが、核のゴミや事故防止策にかかるコストを考えると決して効率の良いエネルギーではない。

役員  再び原発に依存するとなると、再生エネを中心とした本来のカーボンニュートラル戦略がまた後回しになる。ただでさえ遅れている再生エネ対策がさらに遅れることになる。

記者B グリーン成長戦略を打ち出した以上、菅政権は国際社会に対しても責任あるコミットメントをしていかなければならない。環境サミットや国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)などの場ですぐにも具体的な計画を出すことになるが、即効性のあるのは原発再稼働。原発推進派はそこに期待をかけているのだろう。

記者A だから菅政権の環境対策は毒饅頭のようなところがある。だれも反対できないような「環境」という包装紙にくるんで、原発ムラに住むひとたちの意向も入れ込んだ厄介な代物だ。その点はメディアがしっかりウオッチしていかなければならない。

 経済指標を見直せ

記者A 身の丈に合った1%程度のほどほど成長を目標にして、経済政策の力点を分配に置く。税制改革(注4)や賃金政策を中心として、新たな中間層を築くことを主眼とした経済運営に切り替える。そうすることによって、経済社会の景色もがらっと変わってくるのではないか。
 まず着手すべきは経済指標の重心を「成長」から「分配」に移すことだろう。歴代政権はGDPや株価を重視してきたが、平成期以降はこれらの指標が人々の暮らし向きとは別個に動いているという実感が強い。格差が広がる社会ではもはやこうしたマクロの平均値的な指標では実感との乖離が広がるばかりだ。生活実態に合った指標を政治目標に据えるべきだと思うが。

記者B 企業中心の指標を重視するのは昭和の時代もそうだったが、新自由主義がそれを増幅した。しかも、四半期決算やROE(注5)といった指標は経営者の短期志向を強め、安易なリストラや株価至上の経営に走らせた。決算の開示は半期で十分だ。

役員  株価がクローズアップされたのは安倍政権以降。それが緩和マネーによる株価バブルを招いた。株価がいいと経済運営が一見うまくいっているように見えるので有権者もだまされる。これは昭和時代の幻想だ。実態はトリクルダウンどころか企業の内部留保(注6)が増えてカネが世の中に回らない仕組みをつくっている。
 トヨタの豊田章男社長が「私の教科書」と称賛する伊那市の寒天業者がいる。「年輪経営」(注7)と称して大きな成長を戒めているのが特徴だ。一気に稼ごうとしない。永続的に少しずつ成長し、利益が出たら社会福祉や研究開発に回し、内部にため込まない。「会社はすべての人を幸せのためにある」という公益資本主義の考え方が基本にある。要は、経済を安定的に持続させるには時間軸を長くとる経営が大事だということだ。

記者A トヨタがそれに倣っているかは疑問だが、長期的な視座を持つ経営は4~6年で交代するサラリーマン社長にはなかなか難しい。経営の時間軸を長くするような動機付けを市場制度の中にどう組み込むかも現代の資本主義には問われる。動機付け、あるいは世論形成に絡めていえば、これまでの大手メディアの経済報道も、成長信仰や新自由主義を後押しするのに一枚噛んできたのではないか。日本のメディアはとかく「改革」という言葉に弱い(注8)。

役員 たしかに経済報道はワンパターンの印象が強い。米国をモデルにして新規性を競い、収益率や時価総額などの日米比較をしては米国型の市場経済を称賛してきた。「日本型経営」などという言葉は、たいがいネガティブに使われていた。

記者B 現場の記者は取材先とつるむ。相手が喜ぶ記事をつくろうとする。いきおい取材先と価値観を共にしがちだ。

REUTERS

記者A ターニングポイントは小泉純一郎政権だろう。私は財務省担当だったが、あの時、新自由主義の旗を振った竹中平蔵経済財政相(注9)の「改革」論に対して、その危うさを冷静に説いた記事はほとんどなかった。ジャーナリズムは世の中の大きな流れに対して、その視界から外れる点を冷静に問題提起していくのが重要な役割だと思う。反省を込めて言うと、日本のメディア社会の中で少数意見を提示し続けるのはなかなか勇気のいること。しかもそうした勉強をしている記者も少ない。経済の現状は、これまでの経済ジャーナリズムの質の低さを表している面もあるだろう。
 
 グローバリズムの制御を

記者A 資本主義を混乱させているもう一つの要因であるグローバリズムについてはどうか。これも米国が自らのスタンダードを世界市場に広めるための戦略だったと言われるが、いまや米国自身がその返り血を浴びている。

記者B グローバル化すれば交易の面で比較優位が進む(注10)というのは資本主義経済の自然な流れであり、その意味ではグローバリズムは必然だろう。ただ問題はそれを野放図にやると失業が増え、格差が拡大するという点だ。急激な変化ではなく、いかに時間をかけるかという視点が大事になってくる。

役員  グローバル化で生じた負の面は一国の政府では背負いきれない。対抗する思想を鍛えることが求められる。グローバリズムそのものを制御する国際的な枠組みが必要ではないか。

記者B 同感だ。グローバル化で生じた格差を調整する政策、例えば企業課税の強化や富裕税だが、これらは一国でやると企業や個人の海外逃避が起きる。ローカルな視点をどう入れ込むか。最近、英国が法人税の引き上げを打ち出したが、ここは国際協調が必要だ。税制は一国の専権だなどという時代ではない。グローバルな問題はグローバルな視野で解決する。あるいはグローバルな機関に託す。そうしないとグローバリズムの負の面はますます拡大する。

記者A グローバリズムは企業淘汰を促す。よくゾンビ企業をつぶして新しい分野に人材を、などと言うが、デジタル化の時代は専門性が高くなり昔ほど転職は容易ではない。

記者B だからこそ時間の概念が大事になってくる。技能習得や資格取得のための時間を国がしっかり確保する。つまり資金面の支援だけでなく、グローバル化の勢いを馴らす防波堤の役割を担う。そうした時間の管理を国が意識すべきだ。

役員  GAFAに代表されるIT企業の台頭も、かつての資本主義のルールは想定していなかった。

記者B 彼らは資本主義の中に生きていない。設備投資がほとんどいらないから初期費用はゼロに近い。ライバルになりそうな企業を早期に買収し、事実上の寡占化を進める。データを独占して市場を支配する。こうしたモンスター企業を制御するのは独禁政策しかないが、従来の法律はGAFAのような経済行動を想定していない。ここも制度の刷新が必要だろう。
 バイデン政権は反GAFAの戦士とも呼ばれるコロンビア大学のウー教授を大統領補佐官に起用する。独禁法を中心にIT大手規制を強化することになるだろう。

 中国資本主義の中に「答え」はない

記者B 最後に世界経済で存在感を増す中国の話に移ろう。中国は

REUTERS

社会主義的市場経済で急成長してきたが、習近平体制で独裁型資本主義に変わった。
 市場のIT化が進む中でプライバシーに配慮せず効率的な経済運営で統治を強化しているように見える。コロナ対策ひとつ取ってみてもそうだ。欧米のような国内論争を招かないという点でデータドリブンの経済競争では有利に見える。

役員  社会主義の硬直した仕組みの中ではデータが取れなかったが、独裁体制がIT技術を駆使すればそれができるようになった。特に決済手段を確立したのは大きい。ただ成長が続いている間はよいが、減速するとどうなるか。

記者A その点が大事だ。成長期の資本主義は放っておいてもうまくいく。だが一定の中間層が生まれて成長が減速しだすとさまざまな問題が出てくる。効率と格差、国家と人間、マクロとミクロの相克が激しくなる。そこをどう均衡させるかが日本を含めた先進国資本主義の課題だ。その意味では、成長しているからといって今の中国にその答えはない。

役員  中国も減速期に入り、格差問題が早晩出てくる。

記者B ただ短期的には中国がIT化の中で優位に立っている現実はあるし、そこは大きなポイントだ。ひとつ気になるのは習近平体制がかつては蜜月だったアリババいじめを始めたことだ。
 習政権は国家資本主義の枠組みを強化するために大手企業の国有化を進めているが、アリババはそこに抵抗したため対立が起きていると言われる。アリババ傘下の金融子会社アント・グループの胡CEOは辞任したと12日に発表された。
 政治が介入した企業が効率的な経営ができるわけがない。そこのハンドリングを誤ると中国の国家資本主義体制は大修整を迫られるだろう。

役員 短期的な成長率や効率の良さだけみて中国に過度の脅威を感じる必要はない。大切なのは高度成長が終わった段階で、中国経済のうまくいった点と問題点、課題を冷静に分析することだろう。

(注1)新自由主義:政府の規制を緩和し民間や市場の活力を最大限引き出して成長を促そうとする政策。自己責任を重視し「小さな政府」を掲げる。ミルトン・フリードマン、フリードリヒ・ハイエクらの学者が唱え、レーガン米大統領、サッチャー英首相らが遂行した。
(注2)年次改革要望書:1990年代半ばから日米間で交わされた相手国の制度や規制に関する問題点をまとめた交換文書。米国からは郵政民営化や保険分野の外資参入、派遣労働の規制緩和などが挙げられ、小泉政権以降に次々に実現したことから「米国による日本改造」などと指摘された。
(注3)3%成長:2012年12月に発足した第2次安倍政権は、その経済政策「アベノミクス」の中でGDP実質成長率3%を目標に掲げた。しかし8年近くの政権下で最大の成長率は13年度の2・6%で、目標は一度も達成できなかった。
(注4)税制改革:税制は自民党税制調査会を中心に毎年改革されるが、分配構造を抜本的に見直すような大型改革はしばらく行われていない。民主党政権の末期に自民党と合意した「社会保障と税の一体改革」も実質的には安倍政権下で反故にされた。
(注5)ROE:自己資本利益率。企業が株主から集めた資金をどれだけ効率よく使い利益を出しているかを測る指標。投資家の視点からみた「優れた企業」の物差しで、8%以上が目安とされる。
(注6)内部留保:利益剰余金とも呼ばれ、利益のうち株主配当に回さず会社内に取り置いたものを指す。財務省が2020年10月に発表した法人企業統計によると19年度は前年比2・6%増の475兆円で、8年連続で過去最高を更新した。
(注7)年輪経営:長野県伊那市の伊那食品工業会長・塚越寛氏が打ち出した経営哲学。「年輪は幅の広いところは弱く、狭い部分は堅くて強い。経営も同じで急成長は危うい」などと説く。
(注8)「改革」:日本が低成長時代に入った1980年代後半からは政界やメディアの世界で「改革」がキーワードとなった。橋本政権の7大改革、90年代の選挙制度改革などを経て、「改革なくして成長なし」をスローガンとした小泉政権で改革ブームは最高潮となった。
(注9)竹中平蔵経財相:小泉政権下で金融再編や郵政民営化、道路公団民営化など新自由主義的な“小泉構造改革”の旗振り役となった。実質的な決定機関である内閣府の経済財政諮問会議を担当大臣として取り仕切った。
(注10)交易の比較優位:英国の経済学者デービッド・リカードが提唱した貿易に関する基本原則。それぞれの国が得意な物品の生産に特化することで、世界全体が最も大きな利益が得られるという概念。

参加者プロフィール
役員:大手製造業取締役。インド、中国など海外駐在歴が長く、アジアのビジネス事情に詳しい。1959年生まれ。
記者A:フリーライター。通信社でニューヨーク駐在、財務、農水省取材を経験。1958年生まれ。
記者B:元新聞記者でマクロ経済、金融に精通。ロンドン、ニューヨークに駐在。1961年生まれ。

ニュースソクラ編集部

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