フィンテックとは金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語である。金融業界と技術の親和性はもともとが高い。その典型例は、故ボルカーFRB議長が断言したように「金融業界で最大の技術革新たるATM」である。さらに期日管理、元利金払いといったバックオフィス事務もシステム化が進んでいる。しかし、対顧客サービスといったフロント事務は十年一日のごとくであり顧客ニーズに応えているとは言いにくい。
現在のフィンテックは2008~2009年の世界的金融危機後の金融機関に対する信頼低下を横眼に見ながら、ベンチャー企業が顧客ニーズを的確につかんで発展させてきた。例えば、個人向けとしては個人財務管理がある。銀行口座、クレジットカードをリンクさせ、現金で払った領収書も読み込んで、家計簿を作っていくソフトプログラムを提供する。その際に科目振り分けも自動的にプログラムが行ってくれる。さらにこの家計簿作成を発展させて、財務諸表を作成して個人事業主などによる税務申告を行うことも可能になった。
融資関係をみると、フィンテックを利用した融資は個人向けないし中小企業向けに向いていると言えよう。銀行における融資の審査はテレビドラマの「半沢直樹」ではないが、銀行の審査部が時間をかけて財務諸表を分析して適格審査をする、というのが相場であった。しかし、中小企業向け融資では損益計算書や貸借対照表などの分析にあたっては素早く行き届いた審査が進んでいる。JPモルガンでは中小企業向けの審査をフィンテック企業のシステムによって行うようになっている。
米国で隆盛をみているP2P(ピアトゥピア)レンディングでは仲介に立つ会社が迅速に融資審査を行って借り手には素早くかつ銀行の融資金利より低く、貸し手には銀行の金利を上回る利回りを提供している。わが国でも知られるようになったクラウドファンディングではNPOや映画製作などの資金を調達するのに使われている。
なじみ深いのは決済システムへのフィンテックベンチャーの進出である。テスラの創設者であるイーロン・マスクも創業に加わった米国のPayPal(ペイパル)は全米にユーザーが広がり、株式時価総額もわが国のメガバンク三行の合計を優に上回る急成長ぶりだ。
これに対して、わが国は依然として現金社会であり、キャッシュレス決済比率はお隣の韓国(97.7%)、中国(70.2%)に大きく離されて21%に過ぎない。欧米諸国が40~60%であるので半分程度である。しかし、着実にキャッシュレスのウエイトは高まっている。そういう意味ではわが国も、中国のアリペイのような決済機能を中核としてMMF(余額宝)も買える、といったスマホ決済アプリのビジネスがこれから大きく伸びる可能性もある。
最も大きな変革のインパクトをもたらすのはおそらくブロックチェーン技術であろう。ブロックチェーンはネットワークに接続した複数のコンピューターによりデータを共有し、かつデータ改ざんができないため信頼性が高い。ブロックチェーン技術を取り入れたものとしては、ビットコインが有名である。
そのほかにも為替取引、海外送金、資金決済など広範囲に応用できそうである。IT専門家は、2014年に登場したブロックチェーンを利用したビットコインを1975年のパソコン、1993年のインターネットに次ぐ第三の革命と称している。
銀行だけでなく、証券、保険業界でもフィンテック技術が革新をもたらすであろう。米国ではロビンフッドをはじめスマホを通じて少額から投資信託を購入できるアプリが若者を中心に伸びている。そもそも、個人の株式取引はインターネット証券が主流となりつつある。
保険業界では、たとえば自動車保険においてIoT(インターネット・オブ・シィングス:モノにインターネットをつなぐ)を活用して急ブレーキをかける、中央車線を越えるような運転手の保険料を上げていく、あるいは走行しているときだけ保険を掛けることで保険料を下げる、といった保険の開発が進んでいこう。
わが国の銀行業は低金利の長期化、イールドカーブのフラット化で収益力が大きく落ち込んでおり、いわゆるリストラに取り組まざるを得なくなっている。とくに個人を相手とするリテール業務のコスト削減が最重要課題となっている。その際、フィンテック技術を可能な限り取り組む方向性を示している。
たとえば、高齢層でもインターネットバンキングを使えるように音声入力による識別を行うとか、来店時にロボットがカウンターで受け答えする(テラーレス店舗)、などの技術開発が進んでいる。
以上のようにフィンテックの進歩は金融業界の在り方を大きく変えていく可能性に富んでいる。ただ、フィンテックの開発は別会社でやらせるに限るであろう。米国の金融機関がフィンテック企業を買収して自社内開発で拡大させようとしたところ、蜘蛛の子を散らしたように、その会社から来た職員がいなくなった。
髪の毛を切れ、ネクタイを締めろ、と指導したためだ。わが国の金融機関にとっても笑えない話である。