自民党がNHKとテレビ朝日の幹部を呼び出し、報道内容について事情を聞いた。政治権力によるメディア管理の動きにも見える。どう考え、応じてゆけばよいのか。テレビでの報道番組の司会やインタビュアーなどを務める田原総一朗さんに聞いた。(聞き手はニュースソクラ編集長・土屋直也)
――自民党の情報通信戦略調査会がNHKとテレビ朝日の幹部を呼び出しましたが。
どう考えても政治権力による報道機関に対する介入だ。NHKは自身で調査中であり、それを見守るべき。テレビ朝日は古賀茂明さんの発言であり、テレ朝が政権の圧力があったとしているわけではない。いずれも報道機関が自ら対応すべき問題で、政治介入はありえない。だが、マスコミ側にも問題がある。非常に弱腰だ。萎縮して付け込むスキを与えている。昨年末の衆議院選挙の際に、自民党から在京テレビ局に送られた「中立公平に報道すべき」という要望書など典型だ。
報道局長が集まって協議し、抗議すべき。そして報道すべき。僕は「朝まで生テレビ」 でそれを伝えたが、ほとんどの局が報じなかった。
――自民党の「圧力」のきっかけになったのが、テレビ朝日の報道ステーションでの古賀茂明氏の発言です。コメンテーターの古賀氏が自身の降板に関し内幕を暴露しました。官邸の圧力があったような印象を与えていますが。これも、メディアが権力に対峙できていないということでしょうか。
古賀さんが計算づくで(暴露に及んだわけで)はなかったと思う。月に1回か出演させるというような「約束」があったのに、それが反故になって怒ったのでしょう。
――官邸、具体的には菅官房長官が伝わるように彼に対する不快感を漏らしていた、それが圧力だと古賀さんは主張しているわけですが。
それは事実ではないでしょう。毎日新聞の夕刊は、私は毎日の夕刊が夕刊としては各紙のなかで一番おもしろいと思っていますが、2面でかなりの安倍政権批判を繰り返している。ですが、菅長官からも安倍首相からも圧力はかかっていない。毎日に対してないのに、テレ朝に対して圧力がかかるわけがない。圧力にみえるのは、ほとんどが自主規制です。
――なぜ、自主規制をしてしまうのですか。
どのメディアにも政治部記者がいて、自民党担当、総理に張り付く総理番、官房長官をカバーする長官番がいる。彼らがしゃべっていることを伝えることはある。菅氏が古賀氏に怒っていたと社内メモの形で伝わるかもしれない。が、それは圧力とはいえない。菅長官は「辞めさせろ」なんて言うという下手なことはしない。そんなことしたら大問題になってしまう。
――自主規制してなんの得があるでしょう。
どのメディアも自主規制をしている。たとえば、昨年7月に自民、公明による集団的自衛権に関する閣議決定があった。あの内容でなぜ、個別的自衛権でなく集団的自衛権という表現になるのか。わからない。そこを突いている、解説しているメディアはない。自主規制だとう思う。
――それは、目先のことにとらわれていて、分析力が弱いのであって、自主規制とは違うのでは。
いやいや取材しやすいと思っているからでしょう。たとえば、小沢一郎さんが民主党の代表だったとき、大久保秘書が逮捕された。私はサンデープロジェクトで元検察官の宗像さんと郷原さんにでてもらった。反検察の郷原さんを出演させたのは、私の番組だけ。ふたりは、これは収賄につなげるため、虚偽記載で調べているのだと読んでいたが、結局、収賄にはならなかった。そこを突く報道はまったくない。 むしろ、検察の漏らす情報をもとに報じているのに、検察関係者によると、とは書かない。担当したことがある記者に聞いてみたら、そんなことしたら、出入り禁止になって仕事にならないという。それが大きい。
――それをかいくぐるのが取材の醍醐味で、対立していても義があると協力してくれる人が現れるのでは。
協力者はあらわれないと思っているのでしょう。摩擦があるほど取材は難しくなると思っている。別にメディア批判がしたいわけではないが、権力側からの圧力なんてない。ほとんどは自主規制ですね。
――NHKの会長問題はどうみますか。会長の不祥事や、会長の現場への介入が次々と漏れでていますが。
情報が流れるのは、裏返して言えば、NHKが健全な証拠ではないか。世間一般が(会長のことを)仕様もない奴と思っているのは、おもしろいじゃないですか。
――しかし、そんな認識が一般化しているのに、辞めない、辞めさせられないというような中途半端な状態で、(会長に)反抗する人が段々、立場が悪くなっている。
(放送局から番組制作の依頼を受ける)プロダクションの連中は、一番仕事がしやすいのはNHKだと言っています。民放はバラエティばかりだしね。
――だからこそ、健全なNHKを残す必要があるのでは 。
そこはNHKの人たちが、がんばらないとね。
――やっぱり、田原さんは組織ジャーナリズムがだらしないと思っているのでしょう。
大メディアが頑張らないから、僕らが生きていける。あなたの出る幕があるのは、大メディアががんばらないからでしょう。
――確かにそうです。朝日新聞の慰安婦報道に関する報道の検証委員会メンバーとして、報告書のなかで、池上彰さんのコラムが不掲載になったとき、社内で体を張ってでもおかしいというひとがいなかったと指摘していますね。
新聞社はおもしろい。(今回、改めて修正をした慰安婦問題に関する)吉田証言の虚偽性については1990年代にはわかっていて、1997年3月に朝日は総括報道をしている。しかし、この時も本人に会って話を聞いていない。また、社会部、政治部の対立があり、政治部のひとは「オレたちはしっかりしろと言っていたが、社会部がちゃんとしなかった」という。だが、なぜか、当時は社内でガンガンぶつかりあおうとはしなかった。
――誰かがきちんとまとめないといけなかったのでしょうね
まとめようとすると渡辺主筆の意見でまとめている読売新聞といっしょになってしまう。無理にまとめない良さもある。
――正確な情報を伝え、民主主義を守るためコンセンサスを作り出せる環境をつくるのがメディアの仕事。その機能が落ちていないですか。
そう簡単ではない。たとえば、普天間移設はどうだろう。朝日、毎日は辺野古での作業をやめて話し合えと言っているが、どのくらいの期間、作業を止めるべきかをいわない。日経は社説すら書いていない。どれも一種の自主規制だ。
アジア・インフラ投資銀行への出資問題もそうだ。あの英国が出資するというのに、日本が出資しないのはなぜなのか。大事なことになると自主規制が働く。バカなことを言うのは得にならない、と思っているのでしょう。
――本当のことを言った方がいいはずなのに。だから田原さんのファンがおおいのでしょうし。
いやいや、大メディアは相手にしてくれない。いつも無視です。宮沢喜一さんも橋本竜太郎さんも僕がサンデープロジェクトに呼んで、総理発言を引き出して失脚させているのだが、メディアはけっして私がしたとは言及しない。
――それはフェアではない。田原さんは、(メディアにとって)重要なことはなんだと思いますか。
自由、報道の自由ですね 。
――それに関連してうかがうなら、ヘイトスピーチをする自由も認めるのですか。
いいたい奴を止めることはできない。(ヘイトスピーチには)ちゃんと対抗すればいいのです。
――最後に、イスラム国にジャーナリストの後藤さんが捕らえられ、戦場ジャーナリズムを規制しようとしたり、自己責任だと突き放す声があった。外務省はジャーナリストからパスポートを取り上げたが。
イスラム国の被害を受けている難民が何万人もいる。それを取材するのはジャーナリズムの当然の使命でしょう。