自動運転車はまだ開発が始まったばかりだが、将来いったいどういうものになるのだろうか。自動運転の定義には米国の「自動車技術会」(SAE)による定義が使われることが多い。
現在目標とされているのは「レベル3(緊急時以外は自動運転)」あるいは「レベル4(限定区域内での完全自動運転)」だが、そう遠くない将来には「レベル5(全ての場所で完全自動運転)」が技術的には実現可能となるだろう。
完全自動運転としてまず想像するのは、現在は人間のドライバーが行っている機能をセンサーやAIなどの機械が代替して自動車を運転する姿だ。つまり個々の自動車が単体の機械として走行することは現在と変わらない形だ。
しかし自動車の運転を機械に代替させることには、単に個々の自動車を自動走行させることよりもはるかに大きな可能性がある。つまり自動運転は究極的には自動車交通のネットワーク化に進むだろう。
簡単な例で言えば、前を走る車のブレーキランプをカメラで捉えてブレーキを掛けるよりも、前を走る車との間で通信を行い、前の車がブレーキを掛けるという情報を受け取って適切なタイミングで追随してブレーキを掛けた方が効率的だ。
信号機にしても、その情報をカメラで捉えるのではなく、信号機そのものから通信で情報を受け取った方が効率的だ。さらには周囲や目的地までに関するあらゆる交通情報を通信で受け取って走行路を決めたり、速度を調整したりすることが出来れば社会全体での自動車交通の最適化を図ることも夢ではなくなる。
実際、こういった自動車交通のネットワーク化については、様々な手法やレベルに関して、日本企業も含めた世界の企業で研究が行われている。将来の自動運転の下では、何らかの形あるいはレベルでのネットワーク化が行われることになるだろう。
それは自動車が単体としての移動機械であったものから、社会全体でネットワーク化された自動車交通インフラとなることを意味している。
しかし便利になること、効率的になることの裏側には必ず代償が伴うものだ。この場合は、事故が広域化し自然災害と同等の社会的影響を持つものになる可能性だ。
個々の自動車が単体として自動走行するようになった場合でも、機械である限り故障の可能性は必ずあり、個別の事故がゼロになることは無いだろう。例えば、航空機では自動操縦がかなり発達しているが、最近ではボーイングの航空機で自動操縦が原因とみられる事故が起きている。
自動車を人間が運転している現在は、もちろん多くの交通事故が起きている。昨年の日本の交通事故死者数は約3500人で、昭和の高度成長期に交通戦争とまで言われた時代から比べればかなり減ったとはいえ、地震や水害といった自然災害と比べても、相当に多いと言わざるを得ない。
ところが現在は、これだけの交通事故死者が出ていてもよほどの大事故でない限りニュースで大きく取り上げられることは無い。一方で自然災害は、死者数がそれほどでなくても大きく報道される。
この違いは、一つには一回の事故での死者数が、交通事故では一人とか二人とかが大半であるのに対して、自然災害では一度に大勢の人が亡くなるからという違いがあるだろう。
また、交通事故では個別の家族という社会の最小の構成単位に対してだけ、その生活に影響が出るのに対して、大きな自然災害の場合は町や村といったコミュニティーという社会の単位、つまり個別の家族よりもずっと大きな一定の範囲の社会や社会インフラ全体に対して大きな影響が出るという違いがあるだろう。
自動車交通がネットワーク化され自動車交通ネットワーク自体が社会インフラとなると、交通事故には個別の事故の可能性以外に、社会インフラであるネットワークそのものが破壊されるという、大きな自然災害に匹敵するような事故が起きる可能性が出てくる。
例えば、何らかのシステム異常が同時多発に広域で事故を引き起こす可能性が出てくる。その原因にはプログラムミスや機器の故障以外にも様々な要因が考えられる。例えば太陽からの巨大な磁気嵐が地球を襲った場合には、電子機器は広範囲で甚大な影響を受けるだろうと言われている。
また火山の噴火があれば、噴煙に伴う微細な粒子が電子機器を麻痺させるだろうとも言われている。さらには自動車交通ネットワークがサイバー攻撃の対象になることも考えられる。
自動運転車のメリットは大きく夢は広がるが、一方で現在とは全く違ったリスクが生じることになる。将来、自動運転ネットワークの下で「想定外でした」などという言い訳が使われることのないよう、あらゆる事故を想定した安全対策が肝要だ。
ネットワーク化された自動運転 事故は広域化する |
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【自動運転の未来(中)】事故は自然災害に匹敵する大規模なものに
ウーバーの自動運転の事故車=Reuters
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中島 敏(ライター)
東京大学卒業後、旧国家公務員上級職として勤務。米国ブラウン大学経済学大学院留学。その後、米国ワシントンD.C.にて現地コンサルタント会社勤務。約12年間米国に滞在。日本帰国後は米系の経済分析コンサルティング会社にて裁判支援コンサルティングに従事。現在はフリーライターとして活動中。
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