30日に放送で公表予定だった外部スタッフの新型コロナ感染を差し止めたフジテレビジョンの遠藤龍之介社長(64)は、人柄の良さでは評判の人。だが、今回の間が抜けた放送差し止めにもあらわれているように、局内でも判断の優れた人という評判はあまり聞こえてこない。
第一報でお伝えしたとおりだが、遠藤社長の差し止めの経緯をまとめてみよう。30日午後に昼時間帯の情報バラエティ番組バイキングで、本社常駐スタッフの感染が判明し、午後5時台の番組での公表を決めていた。しかし、それに気づいた遠藤社長が直接、強く放送での公表を拒み、ホームページで番組名を伏せてお知らせを載せた。
遠藤社長とはどんな方なのか。慶応の小学校部門にあたる幼稚舎から一貫して慶応系列校を歩み、慶応大学文学部卒業。作家の遠藤周作さんの子息で、その縁で入社したと見る人が多い。ドラマなどの番組ディレクターを務め、若いころは父親の遠藤周作氏と二人でチョイ役でドラマ共演したこともある。ユーモアのある穏やかな人だ。
ホリエモンこと、堀江貴文氏が率いるライブドアにフジテレビの資本上の親会社であるニッポン放送が買い占められそうになった際には広報部長で活躍した。番組編成を決める局内で最右翼の部長ポスト、編成部長も務めたが、成果は上がらなかったとされている。
視聴率競争では低迷するフジテレビの再生を託されて1年前に社長に就いた。就任会見でもにこやかに「私の仕事は業績を上げること」と言い切っていた。遠藤周作さんの息子という「知名度」を生かして、自らバラエティ番組にも登場、アナウンサーや芸人にいじられるのも厭わない「活躍」を見せたが、業績はまったく上向かなかった。
そこに新型コロナウイルスの問題が持ち上がり、企業の広告はスポットを中心に激減している。この逆風は遠藤社長が原因ではなく、民放各社に共通だが、もともと相対的に業績は悪かっただけに、社長交代が取りざたされかねないほどの状況だった。
今回のように感染者を隠そうとしてしまったのは、業績低迷への焦りと受け取る関係者も少なくない。また、一度は常駐スタッフの感染は、社員でなくとも放送で公表するとコンプライアンス委員会で決め、それを事前に遠藤社長は了解していた。
それを覆しての差し止め指示だっただけに、会長など社長の「上司」の意向を踏まえての強引な指示になったのではないか、推測する人もいる。社長といえども中間管理職だったとの同情論なのだが、そんな同情をされるのでは情けない。
今回の件は次々と広告がキャンセルされるような経営的には深刻な影響がでる話ではなく、似たような話を抱える他の放送局が取り上げることもないだろう。だが、報道機関でもある民放のトップとしては判断力と姿勢を問われる内容だ。頬かむりを続ければ、局内外にジワジワとしらけた空気が広がるだろう。事実を公表し誤りを認める度量が示せないと社内での求心力は落ちてしまう。
まして、視聴者の共感は得られない。「どうせメディアは自分本位に判断する」という、すでにあるイメージはさらに強くなってしまう。トップが率先してイメージダウンを引き起こすのでは、働いている人たちが気の毒だ。
フジテレビ、失態の対応で社長の度量が問われる |
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フジテレビ、自社感染の放送を止めた遠藤龍之介社長とは
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(IT/メディア)
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土屋 直也(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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