よって世の批判にさらされないまま“温存”されてきた古くて新しいこの問題に、解決を目指す動きが起きている。
11月1日、東京・永田町の衆議院第二議員会館で「押し紙を考える全国集会」と銘打った勉強会が開かれた。押し紙の廃止を議員活動の一つとしている福岡県行橋市の小坪慎也市議や、20年以上にわたってこの問題を取材しているジャーナリスト、黒薮哲哉さんらが中心になって開催に漕ぎつけた勉強会で、会議室に約50人が集まった。
現職国会議員では木原稔・衆院議員(自民党)が参加、地方議員は全国各地から来ており、他にも国会議員秘書や元秘書など政治にかかわる立場の人々が集まった。
新聞をテーマとする集会や勉強会などは、政治的な方向性の違いから特定の新聞社を批判する目的という印象を持たれがちだが、この勉強会でマイクを握った小坪市議は「私は右派の思想だが、黒薮さんは左派の考え方。でも押し紙を無くさなければいけないという点で一致している。この問題にイデオロギーは関係ない。(販売店関係者の)人権問題であり、新聞社のモラルの問題だ」と述べた。
参加者はいずれも「超党派で取り組もう」という思いを共有しており、押し紙に関してこのような政治的まとまりが生まれるのは新しい動きと言っていい。

衆院議員会館で開かれた押し紙に関する勉強会(幸田氏提供)
勉強会では佐賀新聞社と訴訟を係争中の元販売店主も発言した。「販売店は正しい商売がしたい。誰にでも堂々と言える仕事がしたいだけだ」と。
この発言の背景には、押し紙の損害を薄めるため販売店もやましいことをしなくてはならないジレンマがある。新聞に折り込んで配布される「折り込み広告」の手数料である。
スーパーや学習塾や不動産などの広告を新聞に折り込む手数料は販売店の潤沢な収入となるため、販売店は罪悪感を抱きながらも押し紙も含めた部数を広告クライアントに申告するのが一般的だ。
押し紙は販売店から古紙回収業者に引き取られていくが、余った折り込み広告も同様の運命だ。これは広告クライアントからすれば、廃棄される折り込み広告の手数料を詐取されていることになる。
新聞社は各販売店の折り込み広告による収入を把握し、押し紙の負担がどれぐらい相殺できるか勘案したうえで“押し具合”をコントロールしている。勉強会に参加した木原議員も「これは詐欺です」と指摘した。
衆院議員会館での勉強会を感慨深く受け止めた元新聞販売店主がいる。大阪府内で毎日新聞社の販売店をしていたが、読者の数の倍ほどの新聞を買わされ、経営不能になって2016年に廃業。その後、毎日新聞社を相手取って訴訟を起こした。
「新聞社に押し紙を止めさせ、業界の正常化に貢献する裁判にしたい」との一心で戦ってきた訴訟は、今年の夏、今までにない内容で和解した。原告の元販売店主は「いい和解ができたと思うが、口外禁止条項があるため私から内容を明らかにできない」とのことだったので、大阪地裁で記録を閲覧した。
和解調書には「毎日新聞社は、販売店の販売部数を大幅に超えるような取引状況が、今後とも発生しないよう留意し、万一、かかる状況が発生する恐れが生じた場合には、当該販売店との取引について必要な実態把握を努めるとともに、当該販売店と協議の上、その解消に努めるものとする」と書かれていた。毎日新聞社に今後は押し紙をしないと約束させたうえで、さらに200万円を支払うことになっている。
「押し紙」という言葉が使われていないのは、販売店に必要のない新聞を山ほど買わせておいて「押し紙ではなく、販売店が自ら進んで購入している」という新聞社の詭弁を許さないためだと解せられる。
また、原告と被告は和解内容を外部に公表しないと約束する口外禁止条項も、「和解の内容について、みだりに、正当な理由なく開示を行わない」となっており、全面的に禁止するものではない。現在、新聞社の押し紙に苦しんでいる販売店主らがこの和解内容にアクセスできる余地を残しており、押し紙という新聞業界の悪習を断ち切らせたいという原告の思いが反映されている。
原告の元販売店主は「議員会館で集会が開かれるまでになったのは、販売現場の抱える矛盾がもう限界に達しているからだと思う。新聞を読者に届けるために、販売店を犠牲にするやり方を新聞社は一刻も早く止めてほしい」と話している。