国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、地球温暖化に関する第5次報告書の仕上げとなる統合報告書を昨年11月、コペンハーゲンで開かれた総会で承認、発表した。
それによると、温暖化リスクを避けるためには、50年までにGHG(グリーン・ハウス・ガス)の排出量を現在(2010年)と比べ40〜70%減らし、今世紀末にはゼロかそれ以下にすることが必要だと指摘している。 GHGの排出量削減を目指した国際的枠組み、京都議定書の約束期間は12年末で終わったが、13年以降の国際的枠組みは、各国の利害が対立してまだ合意できないでいる。
危機感を強めた国連のCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)は、09年12月にコペンハーゲンで開いたCOP12で次善の対策として、20年のGHGの排出削減目標は主要排出国が自発的に提示し、その達成に努力するよう呼びかけ、各国も受け入れた(コペンハーゲン合意)。もちろん紳士協定であり、法的拘束力がないため、達成できなくても罰則を課せられるわけではない。あくまでそれぞれの国の品位、名誉に関わる問題だ。
当時、日本は民主党政権だったが、「90年比25%削減」の目標を提出した。この削減目標は、20年までに新たに原発を11基新設して達成する計画だった。ところが11年3月の深刻な福島原発事故の発生で計画は白紙に戻ってしまった。目標達成が難しくなった政府は13年11月にポーランドのワルシャワで開かれたCOP19で、「90年比25%削減」を撤回し、新たに「05年比3.8%減(90年比3.1%増)を提出した。あまりに低い目標値に対し、COP参加国の多くから批判の声が投げかけられた。
20年以降については、法的拘束力のある新しい国際的枠組みを発足させる方針で、今年(15年)末、パリで開かれるCOP21で決定をすることになっている。
京都議定書の時と違って、今回は温暖化対策に消極的だったアメリカや中国が新枠組みへの参加に積極的な姿勢を見せている。
温暖化対策に熱心なEUは早くも昨年10月のEU首脳会議で2030年までにGHG排出量を90年比40%削減することで合意したと発表した。続いて11月には、北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議で、オバマ米大統領と中国の習近平国家主席が会談し、温室効果ガスの新たな目標で合意した。
米国は25年までに05年比でGHGを26〜28%減らすと公表、中国も30年頃をCO2排出のピークとし、国内の消費エネルギーに占める化石燃料以外の比率を約20%にするとの目標を明らかにした。
EU、アメリカ、中国など主要排出国が20年以降の目標値を相次ぎ打ち出すなかで、日本はいまだに目標値を発表できないでいる。なんとか原発を稼働させ、それによって排出削減目標値を引き上げたいという下心が見え見えである。だが原発稼働については国民の厳しい批判の目が光っている。この際、たとえば原発依存なしで30年に「90年比25%削減」といった野心的な削減目標値を公表し、「日本もやるじゃあない」と世界にサプライズを与えるような発信をして欲しいものだ。
温暖化ガスの削減目標、示せぬ日本 |
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【緑の最前線②】温暖化ガスの主要排出国 2020年以降の削減目標を相次ぎ打ち出す
公開日:
(気象/科学)
COP20会場前でデモ行進する環境活動家(Reuters)
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三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
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