太陽光など再生可能エネルギー(以下再エネ)の新規受け入れを九州電力など一部の電力会社が中断したことに対して批判が高まっている。だが、批判されるべきは電力会社ではなく、政府(経済産業省)の設計ミスにこそ原因があったことを指摘したい。
政府は再エネの普及を図るため、12年7月に固定価格買い取り制度(FIT)をスタートさせた。この制度は太陽光や風力など再エネで発電した電力を通常の価格よりも割高な価格で電力会社に全量買い取ることを義務づけている。
発電コストよりも高い価格で買い取ってくれるため、新規参入する新エネ業者が急増した。特に太陽光発電の場合は初期投資がそれほどかからず、設備があれば簡単に始められることから人気が高い。国が認定した発電容量に占める割合は9割以上を占め、FITといえば太陽光発電といわれるほどになっている。
ところが想定外の問題が起こってきた。地価が安く日照時間の長い九州地方に太陽光発電が集中的に設置されたことだ。その結果、太陽光、風力などの設備認定発電量は合計すると1787万キロワットに達し、九州の年間ピーク需要1600万キロリットルを大きく上回ってしまった。
当然、太陽光などの新エネ事業者は、発電電力の購入を九州電力に求めたが、発電量が多くなり過ぎ、既存の送電網では対応できなくなってしまった。
既存の送電網だと昼夜や季節、天候状態で発電量が異なる再エネ電力を受け入れる場合、その割合割が約3割を超えるようになると送配電機器などが故障を起こしやすくなり、最悪の場合停電の恐れがある。
このような事態に陥ってしまったのは、FITをスタートさせる際の政府(経済産業省)の設計ミスと将来展望の欠如に原因がある。たとえば買い取り価格が申し込み時点価格で、しかも高過ぎたことだ。このため、実際には工事に踏み切らず、申し込み時点の高い価格で発電権利を得た業者がその権利を他人に売買するなど好ましくない行為を誘発させてしまった。
さらに配慮を欠いたのが、再エネの受け入れ可能量を過小評価していたこと。具体的には、既存の送電網で十分対応できると高をくくっていたこと、また地域間連携についても特別の配慮を講じてこなかったことだ。
政府が送電網の増強や地域間連携などの制度的改革を軽視した理由としては、どうせ再エネには限界があり、火力発電や原発に取って代わるような基幹電源にはなりえないという強い思い込みがあったように思われる。
だが、今回のような問題が発生したことは、逆に言えば、再エネが基幹電源になりうることを示している。
再エネを基幹電源として育て、普及させるために送電網の増強、九州のように余剰電力が見込まれる地域から、不足している他地域に送電できるよう送電網の地域間連携など電力系統システムの全面的な再編成、再構築こそ大切だ。
既存の受け入れ容量の狭い送電網の枠内で新エネの受け入れ容量を割り振りするような縮小均衡型のやり方は、再エネの普及にブレーキをかけるだけである。
太陽光受け入れ中止、政府の設計ミスに問題 |
あとで読む |
【緑の最前線】再生エネ基幹電源になりえる。縮小均衡に陥らせるな 三橋規宏
公開日:
(気象/科学)
![]() |
三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。
|
![]() |
三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授) の 最新の記事(全て見る)
|