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北京冬季五輪、招致ソングにパクリ疑惑

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【中国をよむ】「レット・イット・ゴー」にそっくり。祝賀ムードに冷や水

公開日: 2015/08/05 (ワールド)

招致決定を報じる新京報 招致決定を報じる新京報

鈴木 暁彦 (関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)

2022年冬季五輪の開催地に、北京市と河北省張家口市が7月31日選ばれた。習近平氏は国家主席の任期(最長2023年3月まで)が切れる1年前に、世界が注目する晴れ舞台を約束された。

 そんな祝賀ムードに冷や水を浴びせたのが、招致ソングに対するパクリ疑惑だ。ディズニーのアニメ「アナと雪の女王」の主題歌「レット・イット・ゴー」にそっくり、とインターネット上で指摘され、台湾や香港メディアが報じ始めた。「模倣大国」とも言われる中国の「面目躍如」といった皮肉な見方もできそうだ。

 北京冬季五輪の会期は、2022年2月4日から2月20日まで。この年は2月1日から中国の旧正月(春節)の連休が始まり、4日は「立春」に当たる。大会は、いわゆる「お屠蘇気分」の中で繰り広げられる。

 北京とともに開催地となった河北省張家口市は、北京市と内モンゴル自治区に挟まれた交通の要衝。万里の長城が走り、古くから北京の防衛拠点としての役割を担ってきた。今も第65集団軍(北京軍区所属)の司令部がある。気候は乾燥しており、雪が少なく、競技場は人工雪で対応する、という。しかし、地表、地下の水資源も枯渇していると言われ、無理に水を集めることによる自然破壊の拡大が懸念されている。

 パクリ疑惑が出ている歌は、「氷雪舞動」(雪が舞う、という意味)。軍出身の演出家、王平久氏が作詞を手がけ、音楽家の趙兆氏が作曲した。歌っているのは軍専属のソプラノ譚晶氏と男性実力派歌手といわれる孫楠氏。4人とも、北京夏季五輪に携わった経験があり、当局としては、その顔ぶれに不満はないと思われる。冬季五輪の招致ソングには「氷雪舞動」を含めて10曲が選ばれ、5月27日に発表されていた。

 ディズニーの「アナと雪の女王」は、中国語で「氷雪奇縁」(香港では「魔雪奇縁」)と訳されている。主題歌の「レット・イット・ゴー」は、香港・広東語版が「氷心鎖」、台湾・中国語版が「放開手」、大陸・中国語版が「随它吧」の名で歌われた。5月に「氷雪舞動」が招致ソングに選ばれ、インターネット上で聴取できるようになると、「レット・イット・ゴー」にそっくりではないか、といった書き込みが始まった。

 冬季五輪開催が決まると、ネット上での騒ぎは一気に拡大し、中国本土以外の中国語メディアが取り上げ始めた。台湾の中央通信社が8月2日に配信した記事は、招致ソングと「レット・イット・ゴー」(英語版)がインターネット上で聴き比べられるようになっている。また、ドイチェ・ヴェレ中国語版(8月4日付)の記事は、ディズニーの原曲にパクリ疑惑の歌を重ね合わせたユーチューブ動画が視聴できるよう、工夫されている。

 パクリの状況を分析した投稿(筆名・土醤Elapse)によると、「パクリか、そうでないかを判断する自信はないが、類似度は80%」と指摘。前奏や主旋律などを比較した上で、「作曲の際、他の歌のコードを参考にすることは一般的だし、メロディーの一部が似通ってしまったとしても許容範囲だ。しかし、伴奏用の楽器や編曲、テンポも同じとなれば、少し行き過ぎだ」と記している。

 パクリ疑惑といえば、2010年の上海万博の際、PRソング「2010等你来」(2010年、あなたが来るのを待っている、という意味)のことが思い起こされる。シンガーソングライター岡本真夜さんの歌「そのままの君でいて」にそっくりだと指摘され、万博事務局は、疑問符がついた歌の使用を停止。その後、事務局は岡本真夜さん側に、楽曲の使用を申請し、岡本さん側が受諾する、という展開となった。

 疑惑のPRソングは、中国の音楽家、繆森氏が「作曲した」と主張していた。歌を収録したビデオには、ジャッキー・チェンやバスケットボールの姚明ら有名人が多数登場している。繆森氏はパクリを認めず、別の歌だと言い続け、結果はうやむやになっている。

 中国は1978年の改革開放後、アパレル、靴、日用雑貨、家電からパソコン、スマホ、タブレットに至るまで、あらゆるモノづくりを手がけ、「世界の工場」となっている。

 その過程で身につけたものは「優れた模倣技術」。外資系企業が中国に工場を建てると、すぐ隣の工場で、模倣品の生産が間もなく始まる、と言われたものだ。パクリや偽ブランドによる被害に遭っても、外資系企業は基本的に孤立無援。地元政府も警察も裁判所も、周りの何もかもが「ぐる」に見えてくる。

 北京の中央当局に掛け合っても、「中国では、それを地方保護主義といって、中央政府も頭を抱えているのですよ」といった客観的な「解説」が聞こえてくるのが関の山で、知的財産保護は長期的な課題となってきた。

 共産党内にしっかりした後ろ盾があれば、公然と「偽ブランド」に手を染めても、重い「罰」を受ける可能性が低いから、模倣や盗作は、有効な金儲け手段となっている。模倣や盗作を許容する空気は、文化・芸術・研究分野も同様で、「共産党の誰かが後ろ盾になってくれれば怖いものはない」といった風潮。中国社会はモラルが高い、とはとても言えない。

 冬季五輪の招致ソングにパクリ疑惑が生じても、「中国のことだから」という点では驚きは少ない。むしろ、今回は、この醜聞が習主席の顔に泥を塗るのではないか、と関係者を緊張させているのかもしれない。パクリ疑惑の情報は、中国本土では統制されているようだが、実態はよく分からない。しかし、誰にとっても、檜舞台を心待ちにしている習主席の逆鱗が怖いことだけは間違いない。
















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以下の記事がお勧めです

  • 台湾の中央通信社の記事

  • ドイチェ・ヴェレ中国語版の記事

  • パクリの状況を分析した記事

  • パクリ疑惑の上海万博PRソング

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鈴木 暁彦(関西学院大学非常勤講師、元朝日新聞北京特派員)
早大法卒、放送大院修士課程修了。1985年朝日新聞入社、東京経済部、北京支局(中国総局)、大阪経済部次長、広州支局長などを経て、2011年より現職。調査研究報告「中国の報道規制とチベット取材」(朝日総研リポート08年7月号)、共著に「奔流中国 21世紀の中華世界」、「奔流中国21 新世紀大国の素顔」(いずれも朝日新聞社)
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