北朝鮮が1月6日に「水爆実験に成功した」と発表して3週間近く過ぎたが、国連安全保障理事会での制裁論議は停滞しており、見通しが立っていない。中国が予想以上に慎重な姿勢を見せているためだ。
決議採択まで長期戦となるのは間違いない。中国は、北朝鮮の核実験に不快感を表明しているものの、この問題を契機とした日米韓3カ国の結束強化にも警戒している。
韓国政府筋が韓国・聯合ニュースに語ったところによれば、中国は、米国主導でまとめられた安保理制裁決議の草案を受け取っているものの、「検討中」との姿勢を続けている。このため、草案は決議採択に向けた手続きに回せないままになっている。
国連安保理のメンバー国は、20日過ぎから予定されていたアフリカ視察を行った。このため決議案作りは小休止状態に入っている。
米国の国連大使は、中国大使に働きかけを試みたが、進展はなかったと視察先で認めた。
安保理はこれまで、北朝鮮の1次核実験では5日、2次核実験では18日、3次核実験では23日で決議を採択している。今回は最も時間がかかりそうだ。
制裁内容は、散発的に報道されている。骨子は北朝鮮に対する原油輸出禁止、北朝鮮からの鉱物資源輸入禁止、北朝鮮・高麗航空が他国の領空を通過することを禁止する措置だ。
この他、中国銀行の北朝鮮関連口座の凍結、中国内港湾・空港などで徹底した貨物検査なども検討されているという。
中国東北部の大連では、中国側が北朝鮮籍の船に対して無償で給油しているほか、北朝鮮の海産物を大連港で下ろして、中国産として再出荷しているという指摘があった。
北朝鮮は原油輸入の99%、貿易の90%を中国に依存しており、今回の制裁に中国が加われば、北朝鮮にとってはかなりなダメージになる。
しかし中国の姿勢は煮え切らない。このため、関係国はあの手この手を使っている。
韓国の朴槿恵大統領は、1月13日の記者会見で国の安全・利益に鑑み、終末高高度防衛(THAAD)ミサイルの導入を検討していると明らかにした。これは「自国への影響が大きい」として中国が最もいやがっている。
さらに1月22日の記者会見では、北朝鮮の核問題をめぐる6者会談枠組みを生かし、北朝鮮を除いた5者会談を開こうと提案した。これも中国を制裁に協力させようという狙いだ。米国は、この提案にさっそく賛成を表明したが、
中国政府は否定的だった。
北朝鮮の過去3回の核実験後、中国は国連の制裁とは別に独自の制裁を行ったと伝えられる。中朝国境での貨物検査の厳格化などだ。
今回も貨物検査の厳格化が一時実施されたと中朝国境の関係者は筆者に話しているが、すでに正常に戻っているようだ。
また中国国内に就労ビザなしで派遣されている北朝鮮労働者も、摘発を受けず、核実験前と変わらず就労している。
中国のこの「甘い姿勢」は何を物語るのだろうか。
まず考えられるのは、核実験を契機として日米韓3カ国の結束が強くなることへの警戒だろう。北朝鮮の次には、南シナ海問題で批判を浴びている中国が、この3カ国のターゲットにされる可能性が高いからだ。
2つ目は北朝鮮の現体制への不信感だ。中国の指導部は、金正恩体制に不安定な部分があると感じており、刺激を避けたいと判断しているのかもしれない。
経済制裁への消極姿勢は、単なるポーズの可能性もある。北朝鮮側を怒らせないように徹底的に引き延ばしを図った上で、最後は国連安保理の他国に同調し、北朝鮮側には「拒否できなかった」と説明する。
27日にはジョン・ケリー米国務長官が中国を訪問する。中国メディアはケリー氏が、南シナ海問題を絡め、中国側に対北朝鮮での協調を求める方針だという。この会談を通じ、中国側の「本音」が、ある程度見えてくるだろう。
金正恩体制に不安を感じる中国指導部 |
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「水爆実験」北朝鮮制裁は長期化避けられず 中国が消極的な理由とは
公開日:
(ワールド)
Reuters
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五味 洋治(東京新聞論説委員)
1958年生まれ。中日新聞社入社後、韓国延世大学留学。ソウル支局、中国総局勤務を経て、米ジョージタウン大学にフルブライトフェローとして在籍。著書に「父・金正日と私ー金正男独占告白」など。
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