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「幻のデノミ宣言」 変動相場制への移行の裏で 

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【けいざい温故知新】あの夏からちょうど50年、佐藤首相の反対でお蔵入り

公開日: 2021/08/23 (ワールド)

ニクソン大統領(右)、佐藤首相=PD ニクソン大統領(右)、佐藤首相=PD

 50年前の1971年8月、「ニクソン・ショック」の余波で「円」は、22年続いた1ドル=360円の固定レート(平価)からの決別を余儀なくされた。

 それに合わせ、100円を新1円とするデノミネーションを宣言する案を、大蔵省(現・財務省)が練り、実現寸前だったことは、あまり知られていない。以下は「幻のデノミ宣言」の顛末だ。

 8月15日は日曜日だった。米国東部時間の午後9時からニクソン大統領のテレビ演説が始まった時、日本は16日午前10時で、週明けの東京外為市場は、すでに開いていた。

 金とドルの交換を停止する、という演説内容が伝わると、円切り上げを見越して市場にドル売り・円買いが殺到した。

 大蔵省内には市場閉鎖論もあったが、市場は当面開け続け、前財務官で同省きっての国際金融専門家の柏木雄介顧問を欧米に派遣し、動向を探らせることになった。

 外為市場は連日、ドル売りに見舞われ、日銀がドル買い介入で応じ、外貨準備高はみるみる膨らんだ。柏木からは、米国の意図が通貨レートの再調整にあると伝えられ、円切り上げが不可避の状況になった。

 そのどさくさに、デノミが急浮上したのは、大蔵省首脳部を、熱心なデノミ論者が占めていたからだ。

 大蔵大臣は水田三喜男。党人派では有数の政策通で、池田勇人内閣と、第1
、2次佐藤栄作内閣で蔵相経験があり、前月の第3次佐藤内閣の改造で3度目の蔵相に就いていた。

 事務次官は鳩山威一郎。鳩山一郎元首相の長男で、鳩山由紀夫元首相の父。退官後、参院議員になり、福田赳夫内閣で外相を務めた。次官就任は2か月前だったが、在任中に何とかデノミの目途をつけたい、という思いを強めていた。

 この大臣、次官コンビが、デノミの早期実施にこだわったのは、あくまで想像だが、明治4年(1871年)に公布された新貨条例で「円」が誕生して100年目の年だったから、かもしれない。

 すでにデノミの下準備は水面下で進んでいた。当時の主計局長で次官を経て政界に転じ「デノミ促進議員連盟」の会長も務めた相沢英之が書き残している。

 相沢によれば、ドゴール大統領時代のフランスが1960年に実施した100分の1デノミに範をとり、デノミ宣言後、一定の準備期間をとること、新旧紙幣・貨幣の並行流通、自販機を考慮して、新1円玉は旧100円と形状、量目など全く同一にすることなどの一応の成案ができていた。

 デノミは理財局・国庫課の管轄で、相沢は主計局長の前は理財局長だった。

 71年8月当時、大臣官房調査企画課長だった佐上武弘(元財務官)が、19日の朝、文京区西片町の大臣私邸で水田本人が話した内容を書き留めていた。水田は翌20日に昭和天皇に、通貨問題などを御進講する予定で、佐上は、その原稿を持参方々、水田の真意を探る意図もあった。

 「円切り上げは、かなり大幅なものになると考えたい。その際、デノミも併行してやる。前の大蔵大臣のとき、デノミを断行するつもりでいたが、佐藤総理の反対でできなかった。今度は、総理をねじ伏せても、デノミをやるつもりだ」。

 大蔵省事務方は、変動相場制への移行を発表する際に出す「大蔵大臣談話」の後段に、73年1月1日から100分の1デノミを実施する目途で準備を進める、という趣旨の一文を加えることにして談話の原案を用意した。

 変動相場制移行(事実上の円切り上げ)は28日(土)からに内定し、27日(金)の市場が閉まってから、水田蔵相が記者会見で発表する手はずになっていた。

 デノミは、法的には大蔵大臣限りで可能だが、事前に首相の了解を得ないわけにはいかない。26日午後、使者として首相官邸に向かったのは田中敬文書課長だった。

 田中が選ばれたのは、4年近く首相秘書官として佐藤に仕え気心が知れていたこと、大臣、次官、局長クラスが訪ねれば、プレスに内容を勘ぐられかねないこと、などを考慮したのだろう。

 佐藤は首をタテに振らなかった。「田中敬大蔵総務課長(文書課長の誤り)がやって来て、土曜日に為替をフロートにする、大体の巾は7%の上下として、これを超過する際は日銀が調整の役をすると云ふもの。同時にデノミをと云ふ事だが、これには賛成せず、為替問題だけ許す」(8月26日付け「佐藤栄作日記」)。

 27日に発表された水田蔵相談話からは、デフレ宣言に当たる後段は削除されていた。50年前の8月は、日本がもっともデノミに近づいた瞬間と言えるかもしれない。

 その後もしばらく、デノミ説は間欠泉的に浮上したが、ここ久しく耳にしない。デフレ期にデノミはタブーとされる。所有金額が少なくなる錯覚が、消費者の財布のヒモを固くしかねないから、と言われる。

 かつて、デノミ論者は、1円玉が吹けば飛ぶようなアルミ貨で、主要国で対ドル3ケタなのは日本円だけ、は恥ずかしいと言った。だが、中央銀行がデジタル通貨発行を検討する、ご時世。そんなことは、もう、どうでも良いのかもしれない。

土谷 英夫 (ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)

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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)
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