大衆意識において、軍国主義とますます区別がつかなくなっている。子供にも軍服を着せたり、軍隊風組織に入隊させたりする。
かつて「ソヴィエト社会主義共和国連邦」(ロシア語略称CCCP)と呼ばれた国は、今や北朝鮮化し、「北朝鮮よりも北にある国」(CCCК=Страна Севернее Северной Кореи)に変貌しつつある。
▽一変した「ロシアの日」の風景
1990年6月12日、ロシアは国家主権を宣言した。
その日は、いわばロシアがソ連邦からの独立を宣言した日であり、今では「ロシアの日」として祝われている。
誰もが知っている祝日であるが、ロシア人の約半数は、この日が何を祝っているのか知らない。これは、レバダ世論調査センターが毎年行っている調査の結果である。
レバダ世論調査センターのサイト:https://www.levada.ru/tag/den-rossii/
1990年、ロシアが主権をもつ国として世界に登場した時、「赤い帝国」ソ連の象徴であった赤い旗は、歴史的な白青赤の三色旗に変わった。この同じ1990年、モスクワに当時欧米の象徴であったマクドナルドの第1号店がオープンした。

ロシアのマクドナルド1号店=CC BY /Artem Svetlov
2月からのウクライナ戦争を背景に、公式プロパガンダは戦争を「祝日」として描き、“勝利”の報道にロシア人が熱狂する様(“パベドベシエ”)は、大きな広がりを見せている。
「ロシアの日」には、街は「ロシアのために」、「私たちは共に」などのスローガンを掲げた旗や看板で飾られた。
6月9日、プーチンはピョートル大帝(1672~1725)の生誕350周年を記念するイベントに出席し、また自分をピョートル大帝になぞらえる発言をした。ピョートル大帝が大北方戦争(1700~1721)に勝利した際、スウェーデンから土地を「奪った」のではなく、ロシアの土地を「取り戻した」ように、今の自分の任務も「領土を取り戻し、国を強くすること」だと言ったのだ。
モスクワのロシア政府庁舎では、106×55メートルものロシア国旗を掲げた光のショーが行われ、ポクロンナヤの丘(モスクワ西部)の戦勝記念公園では33×60メートルの世界最大の戦勝旗が歩道と芝生に敷きつめられた。モスクワの中心部では、軍服に身を包んだ軍国主義の祭典の参加者が歩き、第二次世界大戦時の軍用車両などが展示された。
その日、モスクワでは駐車場が無料になり、ロシアから撤退したマクドナルドの代わりの店が開店した。その店の名前は「フクースナ・イ・トーチカ」(「おいしい、ただそれだけ」)というものだが、「出されたものを食え!」と言われているように感じさせる。
エルブルス山(コーカサスにある、ロシア最高峰の山)の頂上では、登山家たちが戦勝旗、ロシア国旗、ロシア国防省旗を立てた。
占領下のクリミアでは、「3人のダイバーが水深約10メートルまで潜り、ロシア連邦の国旗とクリミア共和国の旗を黒海の底に立てた」(クリミア非常事態省の発表による)。これは「ロシアの日(Днёмドニョーム)おめでとう!」ではなく、「ロシアの“底”(Дномドノーム)おめでとう!」という挨拶のようだ。
6月12日、金正恩はプーチンに「全面的な支持」を表明する電報を打って祝辞を述べた。これは注目すべきことだ。ロシアは今や「СССР」(ソ連)どころか、“СССК=Страна Севернее Северной Кореи” “北朝鮮よりも北に位置する国”へと変貌を遂げつつある。
「ロシアの日」に、ロシア政府は学校用に、国旗と国章を10億ルーブルで購入することを決定した。今後、学校では毎朝、国旗が掲揚される。これはソ連時代にすらなかったことだ。
▽高まる軍国主義と青少年軍隊組織「ユナルミヤ(若者の軍)」
近年、過去へと退行が甚だしいロシアでは、“力と武器”への崇拝がますますひどくなっている。
社会の団結力を高める歴史的なイベント、その発想の主な柱は、77年前のドイツに対する勝利である。長年にわたるロシアの“偉大さ”に関するプロパガンダの結果、ロシア人は精神異常に陥っている。
「祖父の勝利に感謝!」「ベルリンへ!」、ウクライナでの“特別作戦”に賛同する証としての「Z」の文字など、ステッカーを車に貼り、また車や頭に旗を付け、自ら軍服を着て、更に子供にすら軍服を着せる。
軍服のコスプレをするのは男の子だけではない。「ソルダートチカ(女兵士ちゃん)」といった女の子用の軍服がネット・ショップで販売されている。
幼稚園でも軍の祭が行われ、8歳からは「ユナルミヤ(若者の軍)」という青少年の軍の隊員になることができる。
「ユナルミヤ」のサイト:https://yunarmy.ru/
この組織への入会が義務づけられているひともいる。
例えば、ほとんどの孤児達が「ユナルミヤ」に入会する。誰も彼らの希望は尋ねない。目的は、子供たちを戦死する覚悟のある英雄に育てることだ。
現在、「ユナルミヤ」には8歳から18歳までの約100万人の隊員が所属している。それに比べ、“大人”のロシア軍は、約200万人である。
ところで、国旗、Tシャツ、帽子、軍服、カーステッカーなどは、ほとんどが中国製で、AliExpress(中国アリババ・グループが運営する越境通信販売サイト)で購入できる。
「私たちの勝利のために!」という商品名のウォッカと「パルチザンスカヤ」という商品名のトイレットペーパーは、ロシアで生産されている。(パルチザン:他国の軍隊または反乱軍等による占領支配に抵抗するために結成された非正規軍の構成員)
▽国旗の“血の色”を拒否する人々
ロシアのウクライナ侵攻以来、ロシア国旗は軍事的侵略の象徴となり、プーチン政権と戦争と血を連想させる。
「ロシアの日」に、モスクワのアーティスト2名がロシア国防省の前で「今日は私の日ではない」と書いた反戦の垂れ幕を掲げた。彼らは逮捕され、15日間拘留される。
今年3月初めから、各国の反戦集会やコンサートで、白青赤の旗に代わって、白青白の旗が使われるようになった。白青赤の旗からは、血色のストライプが消された。

ウクライナ侵攻に抗議する在チェコのロシア人(2022年)=CC BY-SA /Jan Beránek
白青白の旗は、期せずして、モンゴル帝国の侵略を免れた中世のノヴゴロド共和国の旗に似ている。この旗は、ロシア軍によるウクライナ侵攻に反対するオンライン・コミュニティで考案された。
(ノヴゴロド共和国:12世紀~15世紀に現在のロシアの北西部にあった国家。「民会(ヴェーチェ)」が国政を決定する共和制をとっていた。1478年、モスクワ大公国のイヴァン3世(大帝)により征服された)
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西側には侵略にしか見えないロシアのウクライナ侵攻をロシアは正当化し、街には熱狂があふれています。これほどのギャップを正確に知らなければどちらのサイドにも未来はないでしょう。愛国が軍国と同義になりかけているロシアの実相をロシア人の文芸評論家に描いてもらう連載「ウクライナ侵略とロシア」を始めます。