8月3日、激しく降りしきる雨の中、韓国江原道平昌郡(カンウォンド・ピョンチャングン)にある「韓国自生植物園」では、園内に設置されている慰安婦像「永遠の贖罪像」に反対する集会が開かれた。
韓国の市民団体の「反日銅像の真実究明のための共同対策委員会」は同日の集会で、「韓日関係を破綻させている日本軍慰安婦関連造形物を即時撤去せよ」と、植物園側に求めた。
慰安婦の前に1人の男性がひざまずいている姿を形象化した「永遠の贖罪像」は日本では「安倍総理土下座像」として知られている。日本だけでなく、韓国内でもこの慰安婦像が日韓関係でもう一つの懸案として浮上しているという報道が続いていた。
市民団体の抗議に対し、キム·チャンリョル園長は、「現在の韓日両国関係を破綻させているのは日本側だ。日本はいまだに独島(竹島)を自国の領土と主張している。他国の領土を自国のものだと主張することこそが破綻行為だ」と反論した。
市民団体が撤去を求めた「永遠な贖罪像」については、「謝罪する男性が安倍総理だと言ったことはない」という趣旨の主張をした。「私的に作ったものであり、‘(謝罪する男性が)安倍総理ならいい’という言葉を述べただけだ。ただ、少女たちに謝罪しなければならないすべての人を対象にした。この銅像がもし安倍総理なら安倍さんが総理から退けば、また(新しく)作らなければいけないじゃないか!」
永遠の贖罪像の男が安倍総理だと受け取られるようになったきっかけは、韓国の「京郷新聞」の記事(インターネット版7月25日)だった。
<少女像の前にひざまずいて罪を償う「安倍」の造形物が8月に公開される>
<韓国自生植物園は25日、江原道五台山の麓に建てた「永遠の贖罪」(Aheartfeltapology)という名前の造形物を、8月10日に除幕式を開いて一般に公開すると、明らかにした>
<造形物を私費で制作した韓国自生植物園のキム·チャンリョル園長は「国内外の少女像を非難したり嘲弄したりしながら、毀損する実態を見て、単純に立場を表現することに止まらず、贖罪対象をはっきりと形象化する必要があると思い、謝罪する対象を安倍に象徴して造成した」と述べた。>
26日になると、他のメディアからも関連報道が続いた。
「‘少女像の前で謝罪する安倍像’、どう思いますか」(朝鮮日報インターネット版)
「‘少女像の前でひざまずいている安倍総理’に賛否両論」(ソウル経済新聞インターネット版)
「’少女像にひざまずいた安倍総理の銅像‘に非難が殺到している」(ウィキツリー韓国語版)
「‘永遠の贖罪’少女像にひざまずく安倍総理を私費で造成」 (ソウル新聞インターネット版)
ところで、日本政府がこれを「外交的無礼」だとして外交問題を強く提起し、韓国国内でもやりすぎだという非難世論が高まると、キム園長は「そもそも安倍総理だと言ったことはない」と釈明に出た。
<「安倍総理も造形物の男性のように謝罪をしてくれればどんなにいいだろうか」と言ったのが誤解を招いたようだ>
<造形物(制作)には政治的な意図が全くなく、社会的な問題になることも望まない>(韓国経済新聞インターネット版7月29日記事)
キム園長のこの発言を解釈すると、「安倍総理ならいいのに」という彼の言葉を、韓国メディアが「安倍首相」と断定的に報道して誤解を招いたことになる。しかし、韓国人は、いまでは「安倍総理土下座像」という言葉は日本メディアが作り出したもので、支持率下落に苦しむ安倍政権がわざと難癖をつけてきた事件として受け止められている。
某放送の司会者は、金園長のインタビューで次のように主張した。
<私たちが今、この伏せている男性の顔を拡大して撮った写真をお見せしています。皆さん、ちょっと確認してみてください。安倍総理の顔じゃないです。まず、(顔が)全然違います>
<ひとまずファクトチェックをしてみます。作品名が「安倍謝罪像」ではなく、彫刻の男性の顔が安倍総理の顔を真似たことでもなく、しかもこれは民間が作った芸術品です。いや、心の中で安倍総理が本当に謝罪してほしいと思うことまで、文句を言う資格が日本には全くなく、誰にでも(そういう資格が)全くないんじゃないですか>(キム・ヒョンジョンのニュースショー・7月29日放送)
筆者も先日、韓国自生植物園を訪れ、韓国人の反応を聞いてみた。夏休みシーズンにもかかわらず、入園客がほとんどいない静かな園内は、ぽつんぽつんと野生の花が咲いてはいたものの、植物園というよりむしろ野生の芝生という表現が相応しい所だった。これという見どころのない園内で、銅像は最も人気のあるスポットだった。
ちょうど幼い子どもたちと若い夫婦の家族が銅像を見に訪れた。お父さんと思われる男性は雨でぬれている芝生に横になって、銅像に顔を最大限近く寄せつけ、銅像の顔を確認した。男性が立ち上がり、「安倍総理と似ても似つかない」と言うと、子どもたちも一斉に芝生に横になり、銅像の顔を確認するのにおお忙しだった。
家族とみられる入園客一行は「似てもいない銅像を安倍総理だと、日本がまた言いがかりをつけてきた」と非難した。「泥棒は自分の足がしびれる(後ろ暗ければ尻餅つく)ってことだよ」と言った客もいた。
この銅像に対する韓国人の受け止め方は、初めは植物園側を非難する意見が多かった。たとえば、7月26日のウィキツリー韓国語版は、「ネットユーザーは「あれが何の意味があるのか」と非難した。反日に頼って一国の指導者をからかう形は外交的無礼をもたらすだけで、国際的に認められないという意見が多数出た」と報じている。
しかし、日本のメディアが関連報道に熱を上げ始めると、韓国の世論は、「個人で作った銅像を日本が政治的に利用しようとしている」という非難へと変わってきているのだ。次々と新しい慰安部像を作っている韓国で、近々、このようなスタイルの慰安婦像があちらこちらで出現するかもしれない。