急落していた文在寅(ムン・ジェイン)政権の支持率が3週間ぶりに反発した。
韓国の世論調査機関の「リアルメーター」の20日の発表によると、文在寅大統領の支持率は45.1%。先週に比べて小幅反発しており、与党の共に民主党の支持率も4%以上持ち直した。
一方、前週に与党より高い支持率を見せた保守派の未来統合党の支持率は下がり、与党と野党の支持率が再び逆転した。
韓国で暮らしている筆者の感覚からすれば、政策で失敗が続いている文政権や与党の支持率が上向いた理由は、二つあると思われる。
一つは8月15日の光復節(独立記念日)を契機に再び激化した、反日・親日の論争だ。
独立有功者と子孫で構成された社団法人「光復会」の金元雄(キム・ウォンウン)会長は、光復節記念式典に出席し、韓国の初代大統領の李承晩(イ・スンマン)元大統領や、韓国の国歌である愛国歌を作曲した安益泰(アン・イクテ)氏を「親日派」と指摘、韓国の初代政府のアイデンティティまで揺るがす演説を行った。
李元大統領は代表的な独立運動家であり、1952年に日韓間の海洋境界線である「李承晩ライン」を奇襲的に発表したことで、韓国が独島(竹島)を実効支配できる基盤を築いた人物だ。
しかし、金会長は、李元大統領が初代政府の内閣構成において一部の親日派を起用したことを根拠に、韓国の国父を「親日派」と責め立てたのだ。
安益泰氏は学生時代、反日運動を主導した疑いで日本留学が挫折し、ドイツへ留学した人物だ。
しかし、彼がドイツ留学時代、在ベルリン公使の江原綱一の家で寝泊りしたことや、日本を称賛するオーケストラ曲を指揮したという理由などで左派陣営から親日派という攻撃を受けている。親日清算を主要政権課題に掲げている文在寅政権では国家を変えなければならないという主張も活発に行われている。
民主党議員らを中心に「国立墓地法改正案」制定のための公聴会も進行中だ。
国や社会のために献身した偉人が埋葬されている顕忠院・国立墓地から、親日行為が疑われる人物の墓を掘らなければならないという主張だ。彼らの「親日」の基準は、左派市民団体の民族問題研究所が作った「親日人名辞典」に登載されているかどうかにある。
文在寅政権下の歴史論争は、韓国社会の主流になった左派勢力が、韓国近代史の主流を右派のものから左派へと変えようとする試みだと考えられる。
韓国の近代史を導いた右派の人物を親日派と規定し、その親日派が清算されていないまま軍事独裁政権に追従、現在の右派政党へと継承されたという論理を提示し続けている。
現在唯一の右派政党の未来統合党は、この論理なら、「親日派の政党」であるわけだ。つまり、「親日」というフレームを作って右派政党をその中に閉じ込めることで、国民に反感を植えつけるという意図だ。
今年の4月15日の総選挙で、共に民主党の候補らが一斉に掲げたこの「親日」フレームは大きく効果を奏した。8月を迎え、再びこの戦略が効を奏しているわけだ。
しかし、政権支持率にもっと大きな影響を及ぼしたのは新型コロナの再拡散の危機が迫っている中、一部の保守勢力らが見せた無責任な行動だ。
8月初からコロナ再拡散の兆しが見えたことで、韓国防疫当局やソウル市は、8月15日に予定されていた保守派団体の反政府集会に対し、集会中止を数回要請した。
しかし、保守団体は集会を強行。集会を主導した人物の一人、チョン·クァンフン・「サラン第一教会」牧師が新型コロナに感染する騒動が起こった。
しかも、チョン牧師は防疫当局から自家隔離の通報を受けても、これを無視して集会に出席した。彼が担任牧師を担っているサラン第一教会(信徒約4000人)では、1週間で累積600人を超える感染者が発生した。
チョン牧師は「政府からコロナテロをされた」「サラン第一教会の信徒は検査を受ければ無条件コロナ感染者にされるので検査を受けてはいけない」など、根拠ないデマを流して防疫当局に全く協力しなかった。
チョン牧師の教会信徒らが連絡を受けずに隠れてしまったり、コロナ感染が確認されて病院に入院していた信徒が病院を脱出してソウル市内を徘徊する騒ぎが起きるなど、2~3月に大邱の新天地教会で発生したコロナ大流行当時の状況がそのまま再現されている。
長い間、文在寅政権の退陣運動の第1線に立って文在寅政権を攻撃してきたチョン牧師の奇行は、政権や与党からすれば、絶好の機会だった。
文大統領はチョン牧師やかれの教会に向って、「国民の生命を脅かす許せない行為」「国家の防疫システムに対する明白な挑戦」という非難メッセージを2度も発表した。
共に民主党は、総選挙前に行われた反政府集会に未来統合党の関係者が参加したことを理由に、チョン牧師と未来統合党が一体だと主張し、「未来統合党は国民に謝罪せよ」と、連日非難している。
潜伏期などを考慮すると、8月15日の集会がコロナ拡散の主犯だと断定することはまだ難しいが、多くの国民は、8月15日の光化門集会がコロナ拡散の主犯だと受け止め、チョン牧師と縁があった未来統合党に対しても強い反感を抱くようになったのだ。
激しい対立と分裂が日常化している韓国社会を「常時的な内戦状態」と規定している専門家もいる。
このような状況では、相手を攻撃することが功を奏する。
文在寅政権が世論分裂を助長しているという非難を受ける理由には、まさにこのような戦略が政策基調に敷かれているためだろう。