韓国のソウル市長と釜山(プサン)市長を選ぶ補欠選挙が4月7日投開票と20日後に迫っている。2022年5月に行われる次期大統領選挙にも影響すると思われる今回の地方選挙は、結果によって政権末期に突入した文在寅(ムン・ジェイン)政権の運命が決まるものとみられる。
ソウルと釜山、両方とも野党候補が市長に当選した場合、文在寅政権のレイムダックが顕著となる見通しだ。半面、ソウルだけでも与党候補が勝利すれば文在寅政権は「国民の支持を得た」として世論の反対が根強い検察改革などの各種政策を加速化するものとみられる。
釜山市長職とソウル市長職は共に民主党所属の元市長の強制わいせつ事件によって空席になってしまった。呉巨敦(オ·ゴドン)前釜山市長、朴元淳(パク·ウォンスン)前ソウル市長は、いずれも女性秘書による「強制わいせつを受けた」という警察への告発を受け、呉前市長は自ら辞任、朴前市長は自殺した。
当初、与党所属市長らの不祥事による補欠選挙であるだけに、野党側では与党は候補を出してはならないと主張した。朴槿恵(パク・クネ)政権時代、野党代表だった文在寅大統領は、「党所属の選出職が不正腐敗事件など重大な過失で職位を喪失し、再・補欠選挙が行われる場合、候補を出さない」という党のルールを作った。
当時の与党、セヌリ党が党所属議員の過失で行われる再·補欠選挙で候補を立てたことを非難するために作られた党規だった。ただ、立場が変わり、共に民主党は、「わいせつ行為は重大犯罪に該当しないのではないか?」などと主張し、両選挙とも候補を立てた。
選挙戦の序盤は野党候補が優勢だった。特に釜山市は保守野党の伝統的な支持基盤だったため、「国民の力」の朴亨埈(パク·ヒョンジュン)候補が共に民主党候補を圧倒した。 一方、伝統的に進歩系の支持基盤でであるソウル市も、不動産政策の失敗や経済不況、政権不正を捜査する検察との対立などの影響で、政権支持率が30%台まで下がり、市長選でも劣勢だった。
だが、与党にも風が吹く。「追加コロナ給付金」と「加徳島空港新設公約」だ。2020年12月、文政権はコロナで被害を受けた小商工人や脆弱層を対象にした3次給付金の支給を告知するとともに、第4次コロナ給付金を宣言した。このために19兆ウォン規模の補正予算を編成、選挙前に4次給付金を支給するという内容だった。 2020年4月の総選挙直前に1世帯当たり100万ウォン(4人世帯基準)の給付金を支給し、選挙で大勝を収めたおいしい記憶がよみがえったのだろう。
さらに与党は釜山市加徳島(カドクド)に新空港を建設する公約を発表した。予備妥当性調査を免除する「加徳島空港特別法」を制定、およそ7兆5千億ウォンの費用が必要とされる大規模の建設事業を、事前調査もなしに押し通したのだ。
大衆受けする公約が力を発揮したのだろうか。釜山やソウルでは与党候補が野党候補を猛追撃する。2月以降から選挙戦は混戦の様相を見せると共に、文在寅大統領の支持率も再び40%台へと上がった。
しかし、3月に入って選挙戦は大どんでん返しを迎えることになる。尹錫烈(ユン·ソクヨル)検事総長の辞任とLH職員による不動産不正取得疑惑だ。
法務部長だった曹国氏の疑惑を封切りに、文在寅政権の一連の不正を積極的に捜査してきた検察に対し、文政権や与党は、検察改革に対する抵抗と見なした。秋美愛(チュ·ミエ)前法務長官や与党議員らは露骨に尹錫烈検事総長を侮辱し、辞任を働きかけてきたが、今年7月まで任期が保障された尹総長は辞任を強く拒否してきた。
そこで文政権は、尹総長個人に対する圧迫から検察に対する圧迫へ戦略を修正した。「重大犯罪捜査庁」を新設して検察に代わって捜査権を与え、検察には起訴権だけを残すという新たな検察改革案「中央捜査処法」の制定を予告した。
これは、検察から捜査権を完全に剥奪することで、検察解体を念頭に置いた法案というわけだ。尹総長も同法案に対して強く反論し、メディアとの異例のインタビュー後、3月4日、ついに検事総長を辞任した。
尹総長は自身の検察生活が始まった大邱(テグ)を訪れ、「検察の捜査権を完全剥奪することは腐敗を蔓延させる行為であり、法治主義の破壊だ」と、文政権に辛らつな批判を加えた。大邱は韓国の政治界では「保守の心臓」と呼ばれる場所で、尹総長の大邱訪問は「保守野党候補として政治に飛び込む」というジェスチャーと解釈された。
辞任直後から尹総長は各種世論調査で「次期有力大統領候補」の圧倒的な1位を走っている。保守や中道層の「反文在寅世論」が尹総長を中心に急速に結集されているのだ。すべての与党候補を圧倒する尹総長は、今回の選挙においても大きな影響を与えるとみられる。
韓国土地住宅公社(LH)職員らの不動産不正取得疑惑は、尹総長の辞任よりさらに大きなダメージを与党側に与えている。3月2日、文在寅政権の住宅供給を担当するLH職員たちが内部情報を利用して第3期ニュータウン建設予定地に大規模な農地を買い入れたという疑惑が、進歩派市民団体の民弁(民主社会のための弁護士会)や参与連帯によって提起された。
これら市民団体によると、LH職員10人あまりは、政府のニュータウン建設が予定されている京畿道始興(シフン)や光明(クァンミョン)周辺に、18年から最近まで、計100億ウォン規模の農地を買い付けた。農地取得のために虚偽の農業経営書も提出した。
直後から韓国メディアは同様の手法で土地を不法取得した公務員や政治家たちの疑惑を競うように報道し、国民世論はLHに対する徹底した捜査を要求するに至った。しかし、丁世均(チョン·セギュン)首相が指揮する「政府合同調査班」は、公務員本人名義の土地のみを調査対象にするなど、限界を露呈し、追加でLH職員7人の不正容疑だけを摘発するのにとどまった。
政府の独自調査に対する不信世論や捜査経験が豊かな検察捜査を求める声が高まっている中、政権は警察内部に今年1月に新設された「国家捜査本部」を捜査主体に決め、政府合同調査班からの資料を基に捜査を進めている。
捜査が進行する過程でLH幹部が自殺する事件も発生し、LH社長を歴任した卞彰欽(ビョン・チャンフム)国土部長官は辞任意思を明らかにするなど、LH職員の不動産不法取得事件が選挙を控えた韓国社会の台風の目として浮上した。
特に、文在寅政権の不動産政策の失敗に最大の被害者でもあるソウル市民たちは、文在寅政権に背を向けた。15日に発表されたリアルメーターの世論調査で、文在寅大統領の支持率は37.7%と5週間ぶりに30%台に落ちたが、ソウル地域の支持率32.6%で、全国平均を大きく下回っている。
ソウルは昨年の総選挙で共に民主党が全体49席のうち41議席を独占した地域だ。そんなソウル市民が、文在寅政権に背を向け始めているという点は、ソウル市長選挙を控えている文在寅政権や民主党としては致命的だ。
ただ、選挙直前に4回目のコロナ給付金支給が開始されて、野党候補の国民の党の安哲秀(アン・チョルス)氏や、国民の力の呉世勲(オ・セフン)氏が「候補一本化」に失敗してしまったら、ソウル市長は再び共に民主党に与えられる可能性も十分にある。
約20日後に迫ったソウル市長選挙だが、野党の勝利を予測するにはまだまだ早い。