韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が北朝鮮発の危機を迎えた。脱北者団体が散布した対北朝鮮ビラを理由に韓国を連日強く非難してきた北朝鮮が、南北間のすべての通信チャンネルを遮断すると警告し、南北間の緊張が高まっている。
北朝鮮の金与正第1副部長は4日、労働新聞に「自ら禍を求めるな」というタイトルの個人談話を載せ、脱北者団体のビラ散布とこれを傍観する文政権を強く非難した。
金第1副部長は、脱北者たちが北朝鮮向けにビラを散布する報道を見たとし、「南朝鮮当局がこれを放置すれば、近い将来、最悪の局面を見越さなければならない」と警告した。
具体的には「開城工業地区の完全撤去になるのか、騒々しいだけの北南共同連絡事務所の閉鎖になるのか、またはあってもなくても同じの北南軍事合意破棄になるのか、しっかり覚悟しておくがいい」とし、北朝鮮へのビラ散布に対する報復に乗り出すことを予告した。
北朝鮮は5日と8日にも南北関係破綻まで取り上げ、文在寅政権を脅迫した。5日には対南政策を総括する統一戦線部のスポークスマン名義の談話を通じ、「対決の悪循環の中、行くところまで行こうじゃないかというのが私たちの決心だ」「韓国側が大変困りそうなことを準備しており、苦しませようとしている」と警告した。
8日には労働新聞を通じ、「(北朝鮮へのビラ散布が)北南関係破局の導火線になった」「南朝鮮当局は近い将来、最悪の局面まで見通さなければならない」「北南関係がすべて破綻する可能性もある」と伝えた。
9日には、ついに直接行動に出た。朝鮮中央通信は「対南事業を徹底的に対敵事業に転換しなければならないという点を強調し、裏切り者とゴミ野郎が犯した罪の代価を正確に計算するための段階別な敵対事業計画を審議した」とし、その第一の手順で南北間のすべての直通連絡線を完全に遮断すると報じた。
つまり、金与正第1副部長が談話で予告した南北共同連絡事務所の廃棄を最初のカードとして切ったものだ。
2018年の4・27板門店南北首脳会談の合意事項の一つとして開城工業団地内に設置された南北連絡事務所には、南北の関係者が常駐し、南北関係改善の象徴とされてきた。しかし、2019年のハノイ米朝首脳会談が成果なく終わった後、北朝鮮側が人員を撤収し、韓国側も今年1月にコロナ事態で人員の撤収を決定した。
以後、毎日午前と午後の2回、南北間で連絡を交わす用途にのみ使われる場所となった。
北朝鮮が電撃的に南北チャンネルの断絶を実行すると、韓国内では南北関係が2018年の平昌(ピョンチャン)五輪以前に回帰するだろうという否定的な展望が相次いだ。金第1副部長の予告通り、開城工業地区の完全撤去や9・19軍事合意破棄宣言までの措置が続く可能性もあった。
一番慌てたのは韓国政府だ。文在寅政権が「最高の功績」と称賛している南北関係改善が水泡に帰す危機に直面したからだ。特に9・19軍事合意の破棄は休戦ラインやNLL一帯での「挑発」につながりかねないだけに、南北関係が一気に重大な状況が陥ってしまったのだ。
そこで、統一部は10日、北朝鮮へのビラ散布を主導した脱北者団体を南北交流法違反の疑いで告発する方針を決めた。これらの団体の法人取り消しに向けた作業にも着手した。
「南北首脳間の合意に真っ向から違反することで、南北間の緊張を醸成し、国境地域住民の生命・安全に対する危険を招くなど公益を侵害したと判断した」というのが統一部の主張だ。
与党の「共に民主党」は、国会でビラ散布禁止法を作るという方針を決めた。しかし、文政権の努力にもかかわらず、北朝鮮の敵対的な態度が変わるかについては否定的な意見が多い。
韓国の北朝鮮専門家たちは、今回の北朝鮮の反発は文政権の対北朝鮮アプローチに対する強い不満に根差していると指摘した。キム・ジュンヒョン国立外交院長は、ラジオ放送で、「北朝鮮は韓国に対する不満が累積しているが、北朝鮮へのビラが一種の弁明の種になった」「経済難が深刻化する状況で、韓国が米国の顔色ばかり伺って動かないという不満が積もり、これを機に爆発した」と指摘した。
東国大学北朝鮮学科のキム・ヨンヒョン教授は連合ニューステレビの取材に、「韓国の対北政策に対する不満と不信が凝縮して表れた」「ハノイ会談以降、南北関係の新たな進展や突破口を見出せずにいるのが事実だ。(北朝鮮は)韓国側が積極的に動かなければならないと考えている。十分なプレゼントを与え、(南北関係を)解決するのか、中途半端なままにいるのか、選択せよと求めている」と分析した。
米国の専門家も同じ分析を出した。VOA(ヴォイスオブアメリカ)によると、米国の元官僚たちは、北朝鮮の行動は、韓国から南北経済協力措置を引き出し、韓米同盟の亀裂を引き起こそうとする試みだと分析した。
北朝鮮の強い脅しの中、韓米同盟と南北関係との間で、板挟みになってしまった文政権の次の選択はどうなるのだろうか。