韓国の元慰安婦ら12人が日本国を相手取って韓国裁判所に起こした損害賠償請求裁判で、初の原告勝訴の判決が出た。2021年1月8日、韓国・ソウル中央地裁は原告側の請求をすべて受け入れつつ、日本側に原告1人当たり1億ウォン(約950万円)ずつの賠償命令を下した。
日本政府はこれまで、「国際法上の国家(ないしはその主権的行為)は他国の裁判対象にならない」という国家免除論を主張してきた。しかし、韓国の1審裁判所は「日本軍'慰安婦'制度運営は日本帝国によって計画的、組織的、かつ広範囲に行われた反人道的犯罪行為であり、国際強行規範を違反したもの」と見なし、「国家免除は適用できない、例外的に韓国の裁判所に被告に対する裁判権がある」と判断した。
また、「韓日間の1965年の請求権協定や、2015年の慰安婦合意の適用対象に原告らの損害賠償請求権が含まれていると見ることはできない」と付け加えた。韓国裁判所は、元徴用工への賠償判決で1965年の日韓協定を無効化し、今回の慰安婦賠償判決で2015年の慰安婦合意を無効化させたものであろう。
この判決に対し、日本政府は直ちに南官杓(ナム・カンピョ)韓国大使を呼んで抗議するなど、強く反発している。日本の主要メディアも批判の声を高めている。
一方、韓国のメディアの論調は日本とは全く違う。主要日刊紙は進歩系が社説を通じて裁判所の判断を高く評価し、日本側の反省を強く促した。
京郷新聞 「‘人権が主権の上にある’という勝訴判決の響き」
「韓国社会や政府は左顧右眄(べんご)せず、日本の謝罪を受けてほしいという慰安婦被害者らの一生をかけた訴えに応えなければならない。日本軍'慰安婦'被害は韓日紛争ではなく、無惨な戦時性的暴力という点を、さらに積極的に国際社会に知らせ、世界市民たちの良心を起こして歴史の真実を明らかにしなければならない」
ハンギョレ 「日本政府に'慰安婦'賠償責任を問うは歴史的な判決」
「(韓国裁判所の判決は)人類普遍の人権を規定した世界人権宣言をはじめとする現代の国際法的根拠から導き出した極めて常識的な法解釈だ」
「このまま判決内容が確定すれば、執行段階に移ることになるが、これはより大きな外交的対立要因にならざるを得ない。韓国政府は司法の決定を尊重しなければならない立場だ。日本政府は過去の反人道的犯罪に対して歴史的·法的責任を認める態度なしには、未来志向的な韓日関係がさらに困難になったという点を明確に認識しなければならないだろう」
韓国日報 「元慰安婦に初の賠償判決。日本政府は心からの謝罪を(求める声を)無視してはいけない」
「日本は、心からの謝罪や反省が先だという国際世論に耳を傾けるのが当然だ」
「日本政府が未来志向的な韓日関係のために、これ以上被害者たちの絶叫に背を向けないことを期待する」
ソウル新聞 「日本政府、慰安婦被害者の賠償判決を厳重に受け止めるべき」
「日本政府は韓日請求権協定や2015年韓日慰安婦合意を'伝家の宝刀'のように持ち出しているが、被害者らが排除された政府間の約束は正当性や実効性の面で致命的な欠点を持っていることを明確に認識しなければならない。今からでも裁判所の判決を厳重に受け入れ、先代の過ちを心から謝罪し、被害者の傷を癒すのが日本政府の道理であろう」
以上、日本の反省を強く求める社説を出した進歩系と中道系新聞と違い、保守系や経済紙は関連社説を出さなかった。唯一「東亜日報」だけが、「“日本に慰安婦賠償責任"判決… 韓日両国が外交で解決策を模索せよ」という社説を通じて、両国の外交的解決策を求めた。
「韓日間に絡んだ糸巻きを解くには、日本政府がまず歴史問題に対する態度を変えて積極的な解決意志を見せなければならない」
「韓国政府も裁判所の判決だけに頼らず、能動的に解決策を見出さなければならない。文在寅(ムン・ジェイン)政府は、韓日両国の慰安婦合意を認めないだけで、慰安婦問題の解決に向けた代案は提示してこなかった」
「過去史問題を越え、未来志向的な韓日関係を構築するために、(両国が)外交力を集中しなければならない時期だ」
韓国内での裁判自体を認めていない日本側は控訴しないと予想されるため、2週間の公示後に一審判決が確定するとみられる。判決が確定されれば、原告側が日本政府の財産売却への手続きを進めることができる。慰安婦問題をめぐり、韓日関係に再び大きな波紋が予想される。