金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮委員長の「健康異常説」が再び浮上している。
米国のCNN放送は21日、「米政府は金正恩委員長についての情報を監視している」とし、「北朝鮮情勢に通じた政府高官によると金正恩は手術後に重体となっている」と報道した。 さらにブルームバーグ通信も米政府筋の話として、正恩委員長の健康に深刻な問題があると報道するなど、米国発「金正恩危篤説」が全世界に広がった。
ニュースは韓国内でも直ちに報道され、株価が急落し、為替レートが急騰するなど大きな波紋を呼んだ。しかし、韓国政府が「特異な動向はない」と鎮火に乗り出し、騒動は徐々に静まっている。
韓国大統領府の幹部は 事実確認を求める韓国の記者らに対し、「韓国政府は金正恩委員長が側近とともに現在地方にいると把握している」「正常に活動しているものとみられる」と答えたそうだ。
統一部関係者もこの日、記者らと会い「現時点では特にコメントはない」「CNNの記事は金委員長が手術後に健康異常があるという情報について米国が注視しているという内容」と説明した。外交部も記者の質問に「特別な動向はないとみられる」という立場を明らかにした。
韓国内で金委員長の健康悪化説がメディアに本格的に登場したのは、北朝鮮で「民族最大の祝日」とされる「太陽節」(4月15日の金日成主席の誕生日)に、金委員長が錦繍山の太陽宮殿に参拝しなかったことが伝えられた直後だ。
民間の外交安保研究機関の世宗研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)博士はメディア各社に送った北朝鮮についての論評で、金委員長の不参加を巡って「状況がどの程度深刻なのか判断しがたいが、金正恩委員長の健康や身辺に少なくとも一時的な異常が発生した可能性がある」と分析した。
鄭博士は、4月14日に北朝鮮が巡航ミサイルを発射した事実や写真を北朝鮮メディアが一切公開していないことを根拠に、ミサイル発射の際に事故が発生した可能性や、現場にいた金総書記がけがをした可能性があると主張した。
しかし、「金委員長の軍事関連公開活動に随行している李秉哲(リ・ビョンチョル)党中央委員会副委員長が4月15日の錦繍山太陽宮殿に参拝した事実から考えると、たとえミサイル発射実験当時に事故が発生したとしても、大きな事故ではなかっただろう」と付け加えた。
20日には北朝鮮専門メディア「デイリーNK」が北朝鮮内部の消息筋の話として、「金委員長が4月12日、平安北道妙香山地区内に位置する金氏一家の専用病院である香山診療所で心血管手術を受け、近くの香山特別病院で治療を受けている」と報じた。
脱北者の人権活動家で、野党の未来統合党の比例議員として第21代国会議員になった池 成浩(チ・ソンホ)氏は、韓国メディアのインタビューで「1月末から2月初めごろ、金正恩氏は心臓血管問題で医師が必要な状態だった」「最近手術したとみられ、現在北朝鮮は『摂政体制』に入っている」などと主張し、波紋を呼んだ。
一方、韓国有数の北朝鮮専門家である李ヨンジョン中央日報記者は、CNNの金正恩委員長の危篤説が誤報の可能性が高いと分析した。李氏はユーチューブを通じて、北朝鮮の官営メディアと北朝鮮軍の動向に異常はなく、平壌の姿も普段と変わらないなど、特異な兆候は見られないという韓国情報機関の主張をその根拠に挙げた。
また李氏は、正恩氏が韓国の総選挙直後から、4月15日の錦繍山太陽宮殿参拝まで姿を見せなかったことから、脱北者たちと対北朝鮮団体の間で「金正恩死亡説」が広まり、それが増幅されて米国へまで流れ、CNNを通じて報道されたようだと分析した。
身長約170センチに体重約130キロと推定される金正恩委員長の健康異常説はこれまで何回も出てきた。超肥満の体で心臓病を家族歴として持ちながら、ヘビースモーカーである金委員長の健康状態について、韓国国情院は「糖尿や高血圧などの心血管疾患がある」と分析したことがある。
2014年には、10月10日の北朝鮮労働党創建記念日に錦繍山太陽宮殿を参拝しなかった金委員長を巡って、危篤説や脳死説が急激に広がった。当時、金委員長は足首の筋肉を損傷し、海外専門医を招待して施術を受けていたことが、後で明らかになった。
4月12日から9日間も姿が見えない金正恩委員長を巡って、深刻な健康異常や北朝鮮の有事事態を予見することは性急かもしれない。
しかし、自分の権力を正当化するために、祖父の金日成(キム・イルソン)主席や父親の金正日(キム・ジョンイル)総書記の誕生日や命日には、必ず錦繍山太陽宮殿を参拝し、忠誠心を誇示してきた金正恩委員長が、北朝鮮の最大の祝日である太陽節に錦繍山太陽宮殿の参拝に姿を現さなかった背景については、注視する必要があるというのが、韓国の北朝鮮専門家の意見だ。