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露核弾頭「アヴァンガルド」 利権まみれで役立たず

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【ノーベル賞の『ノーヴァヤ・ガゼータ』から(25)】開発失敗の証左 開発者を反逆罪で続々と逮捕

公開日: 2023/04/13 (ワールド)

アヴァンガルドの試射はプーチン大統領が観閲=ccbyKremlin.ru アヴァンガルドの試射はプーチン大統領が観閲=ccbyKremlin.ru

村木 洸太郎 (翻訳者)

 ロシアの戦略核兵器に関する連載第3回は、極超音速で滑空する核弾頭「アヴァンガルド」について。

 この開発は不調かつ利権まみれで、2019年の配備開始以来まだ僅か6発しか配備されていない、しかも開発関係者が反逆罪で続々と逮捕されていると、ロシアの軍事専門家、米国タフツ大学フレッチャー・スクールの客員研究員のパベル・ルジンが説明する。

 『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』のインタビュー。聞き手は反プーチンの立場で知られるジャーナリストのユリア・ラティーニナ。

*******************

原文ロシア語
https://novayagazeta.eu/articles/2023/03/23/medvedev-i-satana

(質問)「アヴァンガルド」を搭載するICBMのSS-19「スティレット」(UR-100N UTTKh)とはどのようなものか。

(訳注:「アヴァンガルド」は単体で発射されるのではなく、ICBMに搭載される。)

(ルジン)SS-19「スティレット」は、かなり成功したソ連のミサイルだ。1980年代に多く生産された。しかし液体燃料方式なので、基本的に全て配備から外された。燃料の注入・排出を繰り返すため、すぐに使用できなくなる。

 1990年代、ロシアはウクライナから約30基を入手し、燃料抜きで保管していた。今日、これが「アヴァンガルド」搭載のため使用されている。

 このミサイルは「ヤルス」より強力だが、「サタン」ほど強力ではない。その投射重量は4トンだ。「サタン」は10トンだ。

 いわゆる極超音速で滑空する物体は非常に重く、断熱材が特に重い。そのため1基のミサイルに1発の「アヴァンガルド」しか搭載できない。現在「アヴァンガルド」6発を、ミサイル6基を配備している。

(質問)プーチンのお気に入りの「ヤルス」に「アヴァンガルド」を搭載しないのは、「ヤルス」が重さに耐えられないからか?だから、かつてウクライナで生産され、現在は生産されていないミサイルに搭載しているのか?

(ルジン)その通り。

 「ヤルス」は、「アヴァンガルド」搭載には向いていない。しかし「スティレット」は「アヴァンガルド」搭載に問題ない。

 核弾頭そのものは小さく、スペースを取らない。しかし極超音速滑空体は、過負荷や高温などに耐えるために扁平な形にしている。これは断熱材の巨大な塊だ。米国のスペース・シャトルと同様だ。

 滑空体は大気圏突入で燃え尽きないように、セラミックで覆われる。セラミックが全重量のかなりを占める。

(質問)「アヴァンガルド」を「サタン」に搭載しないのは、「サタン」が実際には機能しないことを意味するのか?

(ルジン)おそらくそうだろう。

 また「サタン」には、多くの「アヴァンガルド」を搭載できない。もし「アヴァンガルド」1発を「サタン」に搭載するとすれば、「サタン」に搭載していた10発の核弾頭を取り外す必要がある。

 そうなると、米国との核の均衡の計算がおかしくなってしまう。

 紙に10発の核弾頭があると書いてあるので、ロシアは米国人に対して「ロシアは米国を破壊できる」と言える。

 したがって、「サタン」に「アヴァンガルド」を搭載するのは馬鹿げたことだ。

(質問)「アヴァンガルド」の優れた点は何か?マッハ20以上の速度で大気圏に突入するというのは、どういう意味か?核弾頭はいずれもマッハ20を超える速度で大気圏に突入するのではないのか?プーチンは、「アヴァンガルド」が米国のミサイル防衛を突破できると言っている。だが、他のICBMも米国のミサイル防衛システムを突破できるのではないのか?

(ルジン)「アヴァンガルド」の意義も、ロシアの組織に関わるものだ。

 「サタン」が、ロシア国内の3つの工場に利益をもたらすことを述べた(第1回)。

 同様に「アヴァンガルド」について、企業「戦術ミサイル兵器」が多額の資金を受け取っている。

 滑空体開発に数百億ルーブル(数百億円~1千億円超)をかけたのに、配備は僅か6発だけだ。

 つまり、これらの滑空体は、非常に高価だ。関連する工場、企業、経営者が得るものも巨大だ。

 「アヴァンガルド」の制御システムのため、新しいジャイロスコープ(回転儀)を開発したが、噂によればあまり成功していない。

(質問)つまり「アヴァンガルド」は制御不能なのか?

(ルジン)公式には制御可能だが、実際には非常に大きな問題があるようだ。

 公開情報でも、極超音速機が大気圏に突入し、プラズマの雲に入ると、極超音速体の制御に問題が生じると言われている。

 この物体は、いわば盲目で耳も聞こえず、連絡がつかず、材料には膨大な負荷がかかる。どうしたらよいか、誰にも分らない。

 極超音速体が、クレムリンが言う程バラ色ではないという最も明確な兆候は、この開発に関与した科学者、学者、エンジニアが反逆罪で続々と逮捕されていることだ。2010年代後半から逮捕され、今も逮捕が続いている。モスクワ、サンクトペテルブルク、ノヴォシビルスクの何人もが拘留され、既に判決を受けた者もいる。

(質問)米国も1960~70年代に極超音速滑空体の開発を試みたが、やる価値がないという結論になったのか?

(ルジン)米国は2000年代と2010年代に開発しようとし、テストも実施した。太平洋でも極超音速機を実験した。

 しかし機体が耐えきれなかった。制御された極超音速飛行の実現は不可能だ。

(質問)不可能というのは、当面の話か?

(ルジン)当面の話だ。永遠に不可能とは言っていない。

 飛行機のように飛ばすことが試みられてきた。30~40分で世界のどこにでも飛んで打撃を与える。しかしどうしても機体そのものが壊れてしまう。

 現在、「ツィルコン」の後、彼らは極超音速滑空体を備えた巡航ミサイルに別のアプローチを行っている。これまでの試験の結果は満足できるものではない。

(訳注:「ツィルコン」は、ロシアの超音速ミサイルで、艦船に搭載される。)

(質問)どのようなミサイルを開発しようとしているのか?

(ルジン)空中発射即応武器(ARRW、Air-Launched Rapid Response Weapon)だ。それは爆撃機から発射される。米国が開発に取り組んでいる。

(質問)つまり、プーチンは地球の他の誰よりも進んでいると言うが、誰もそれを検証できないということか?

(ルジン)プーチンは基本的にそのように言っている。米国人はそれをまともに受け止めた。

(米国人の反応は、)「もしロシア人が(そのような兵器を)持っているなら、私たちは持つことになるだろう。」これまでのところ、特に何かが起きたということもない。(訳注:米国の開発も前進がないとの趣旨。)

(質問)まとめると、「アヴァンガルド」は存在するが、実際には翼のある弾頭にすぎない。従来の弾頭とは異なり、セラミックで防護されているため、遙かに重たい。飛行が不安定になる恐れもある。超高速飛行は予測不可能で制御できない。結局利点はなく、欠点ばかりだ。そういうことか?

(ルジン)その通り。理論上は自動制御だ。慣性システム、光学ジャイロスコープなどがある。

 しかし、ジャイロスコープにも問題山積だ。仕様書の通りに機能しない。コースからの逸脱という問題ではなく、ジャイロスコープが機能しないために飛行を制御できないのだ。

(質問)最も単純なものが最も信頼できると言われている。ミサイルが幾何学的にあるべき形のものならば、計算通りの場所に飛ぶだろう。しかし翼を付けたり、色々いじったりすれば、うまくいかない。

(ルジン)問題は翼だけではない。

 普通の弾頭は円錐形だが、「アヴァンガルド」は扁平で玉石のようだ。

 そこでは、制御は翼によるものではなく、爆薬、あるいは何らかの動力よるのだが、このためシステムが更に複雑になる。動力の起動、軌道の修正等の課題が追加的に出てくることを意味する。

 これはすべて、このおもちゃを非常に高価でまったく意味のないものにする。

 第1に、発射する人にとってさえ、軌道が予測不可能だ。

 第2に、操作しようとすれば速度が低下するため、操作の余地が殆どない。

(質問)軌道が予測不可能ということの意味は何か?ミサイルがワシントンの米国議会を狙って発射されたとしよう。それはホワイトハウスで爆発するのか、それとも大西洋で爆発するのか?

(ルジン)ミサイル防衛システムでは、弾頭を捉えると、その軌道を計算する。

 この滑空兵器は、水平と垂直の両方の方向で動くので、軌道が予測できない。ミサイル防衛システムのコンピューターに、過剰な負荷がかかる。これが、この兵器の狙いだ。

 しかし紙の上では機能しても、現実には膨大な問題がある。

(質問)(「サタン」や「ヤルス」がミサイル防衛システムを突破できるのなら、)そもそもなぜ「アヴァンガルド」が必要なのか?

(ルジン)工場を維持するためだ。それ以外の理由はない。

(質問)液体燃料の「サタン」は廃棄されることになり、「サルマート」はまだ実用化されておらず、固体燃料「トーポリ」と「トーポリM」も最早利用できない。他方、成功している「ヤルス」、そして「アヴァンガルド」の運搬手段である「スティレット」はある。このような理解で正しいか?

(ルジン)概してその通り。「サルマート」が戦闘任務に配備されれば、「スティレット」は退役するだろう。或いは、保管している30基の「スティレット」を利用し、「アヴァンガルド」を搭載し配備するかもしれない。

 米国との新しい交渉が始まった場合、それらを静かに配備から外すこともできる。善意のジェスチャーとして、それらを廃棄するかもしれない。いずれにせよ資金は出され、どこかで使われる。

(質問)300基以上あると言われるICBMは、実際には約200基ということか?

(ルジン)その通りだ。

(訳注:連載第1回での指摘の通り、『ミリタリーバランス2023』によれば、ロシアには339基のICBMがあるが、その内の127基(「サタン」約40基、「トーポリM」60基、「トーポリ」9基、移動型「トーポリM」18基)は古く、既に耐用年数を超えているとされる。)

(続く。次回は潜水艦発射ミサイルについて。)

2023年3月24日発表(翻訳:村木洸太郎)
©Novaya gazeta Europe(無断転載を禁じる)

(訳注:『Novaya gazeta』はロシア国内で活動できないが、一部のスタッフがラトビア共和国に移り、『Novaya gazeta Europe』を運営している。2つの組織は別個のものだが、独立報道機関としての前者の精神を後者が引き継いでいる。)
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