2022年11月、ロシアのインターネット検閲機関がハッキングされ、大量の情報が漏洩した。ベラルーシのハッカー集団が、文書やEメールのやりとりを独立系メディアに暴露した。ロシア当局がSNSを大規模に監視・検閲していることが明らかになった。
ハッキングされたのは、ロシア連邦通信・情報技術・マスコミ監督庁(通称「ロスコムナゾル」)の下部組織である。
『ノーヴァヤ・ガゼータ・ヨーロッパ』は、「ロスコムナゾルはいかにロシア人を監視しているか?」と題するビデオをYouTubeに投稿した。
https://www.youtube.com/watch?v=FHlnad2GR5M
ビデオでは、独立系メディア(ロシア国外で活動中)のジャーナリスト2人が、ハッキングして得た内部情報から分ったことを説明する。その抄訳を2回に分けて掲載する。
本件は多くの独立系メディアでも取り上げられている。
『メディアゾナ』
https://zona.media/article/2023/02/08/rkn-files
『重要なストーリー』
https://istories.media/stories/2023/02/08/oko-gosudarevoi-tsenzuri/
『現在』
https://www.currenttime.tv/a/russia-leak-internet-censorship/32262160.html
『アゲンストヴァ』
https://www.agents.media/tsenzura/
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マクシム・リタブリン(『メディアゾナ』のジャーナリスト)が語る
2022年11月、ベラルーシのハッカー集団「サイバー・パルチザン」は、ロスコムナゾルの下部組織の内部ネットワークにアクセスできた。
その下部組織とは、「ラジオ周波数総局」(英語名称:General Radio Frequency Center、以下「GRFC」と略記)と呼ばれる。GRFCは、ラジオ周波数の管理の機関とされているが、インターネットの監視にも従事していることが分った。
GRFCウェブサイト
https://grfc.ru/grfc/
「サイバー・パルチザン」は、(GRFCがやりとりした)約150万通のEメールにアクセスし、文書なども合わせて約2テラバイト分の情報を得た。そして全ての情報を、『メディアゾナ』を含むジャーナリストに提供した。
△ ロスコムナゾルはいかにインターネットの監視をしているか?
監視には多くの分野がある。
第1の分野は、ニューラル・ネットワーク(訳注:脳の神経回路の一部を模した数理モデル)にネットの監視を教え込むことだ。
第2の分野は、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)の監視だ。
その際、Brand Analytics(分析ツール)を使っている。彼らは。Excel表を使って、数百件もの報告をしている。
彼らはキーワードで、SNSでの言葉を検索する。たとえば最近は「核戦争」、「動員」、「大統領の健康」、「プーチンの侮辱」を検索していた。
調査の結果は、表にまとめられる。その表がその後どのように利用されているのかは分らない。しかしGRFCとロスコムナゾルがロシアの警察と協力していることは分っている。
彼らは自社サイトをテレグラムにもっており、そこでリンクや運用データなどを警察と交換する。
彼らのSNSでのデータ収集方法の詳細に関する情報はないものの、彼らは例えば「プーチンの転覆」という表現をBrand Analyticsを通じて調べる。あなたがSNSでしたコメントも、表に記述された何千ものデータの1つになる。その後、この表はどうなるのだろうか?もしかしたら警察に渡されるし、あるいは渡されないかもしれない。
△ ロスコムナゾルの監視システム
ロスコムナゾルは、「クリーン・インターネット」、「イノシシ」、「オクルス」という名前のインターネット監視自動システムを開発している。
それぞれは、開発の様々な段階にある。
「クリーン・インターネット」は既に稼働している。私(リタブリン)の記憶が正しければ、2020年の秋までの時点で、関連するEメールのやりとりがあった。「クリーン・インターネット」は2023年までに開発されることになっていた。それがフル稼働しているかどうかは定かではないが、おそらくフル稼働しているだろう。
「クリーン・インターネット」はとても簡単なシステムだ。それはYandexの検索システムを使用している。
(訳注:Yandexは、ロシアのネット検索システム。Googleのようなもの。Yandexの所有者はオランダに登録されている投資会社Yandex N.V.。2022年末からZenという名称を使っている。)
SNSの情報を集めるクローラー(訳注:検索エンジンがインターネット上のWebサイトや画像情報を収集し、検索データベースに保存するプログラム)に関わっている誰か(あるいはどこかの会社)が、彼ら(GRFC)にEメールを書いた。
彼らはデータを収集している。彼らは「コア分析」と呼ぶ、いくつかのプログラム、いくつかのニューラル・ネットワークを持っている。
「クリーン・インターネット」は、サイトを検索してそのサイトをブロックするために使われる。
△ Yandexは、ロシアの検閲にいかに関与しているか?
Yandexは、mail.ru(訳注:ロシアの検索サイト、Eメール。ガスプロムの傘下にある)やVKontakte(訳注:「フ・コンタクチェ」。ロシア最大のSNS。略称「VK」。本部サンクトペテルブルグ)よりも、よくできている。Yandexは誰でも利用できる。ただし、Yandexが検閲システムの構築に直接役立つとは言えない。また処理能力は1日あたり1万件までとあまり大きくなく、制限がある。
ロスコムナゾルは、Yandexのこの処理能力の制限は「クリーン・インターネット」の活動のために十分ではないので、Yandexに処理能力を増強するように依頼した。このことは、彼らの間のEメールのやりとりから分った。
Yandexはこの要求を、形式的な理由をもって拒否した。彼らはそのようなことに巻き込まれたくなかったのだ。そのことは明らかだ。
しかしその後Yandexは同意し、処理能力を30万件まで増やした。しかしこれがどのように実現したのかを言うことはできない。それは、Eメールのやりとりから不明だ。
ロスコムナゾルは、Yandex Toloka(訳注:Yandexが運営するクラウドソーシングのプラットフォーム)を利用して、ニューラル・ネットワークを教育した。しかし、ロスコムナゾルがYandexと具体的にどのような協力関係を構築したのか詳細は不明だ。
△ 検閲に協力する他のロシアの組織
E-SOFTは、禁止サイトのレジストリを構築した。ロスコムナゾルと協力し、数十億ドルの契約を結んでいる。
レニングラード物理工科大学(訳注:以前からLFTIの略称で呼ばれており、それが今でも使われる。正確にはロシア科学アカデミー・A.F.ヨッフェ名称物理技術研究所)が関与していることも分った。彼らは2つのシステム「オクルス」と「イノシシ」の開発案件を落札した。
「イノシシ」は「クリーン・インターネット」よりも複雑なシステムだ。情報の集中と流れを突き止める必要がある。
このシステムとは、会話ができる。
「プーチンが打倒されるという内容のSNS上の記述を教えて。」
するとシステムはネット検索を行い、何らかの答えを出す。
「オクルス」は、コンピューターの画像に関するものだ。禁止される写真などを自動検索する。
LFTIが開発したのは、これら2つのシステムのコンセプトだけである。
ロスコムナゾルは、Brand Analyticsに、月500万回のリクエストをし、高額を払っている。Brand Analyticsは、ロスコムナゾルにシステムの使い方を教えた。それに関するやりとりもEメールでなされていた。説明ビデオもあった。Brand Analyticsはロスコムナゾルのために多くの参考のリンクを含む膨大な情報を提供して、支援した。
「クリーン・インターネット」の枠組み内でのGRFCのもう一つの有望な開発はボット(自動的なシステム)だ。
閉じたコミュニティに入り、ネットワークをより適切に監視するために多くのアカウントが作成される。
技術的課題としては、これらのアカウントを生成するプログラムが必要である。
ニューラル・ネットワークを使用して(実在しない人物の)“顔”を生成するかどうかはまだ明らかではない。おそらくそうではないと思う。彼らはインターネット上の写真を使用するだろう。
GRFCには部門、専門分野がある。
ロシアによる対ウクライナ戦争の開戦後、検索の対象は変化した。以前は第1に児童ポルノ、第2に自殺の写真であった。麻薬問題の方が重要だとも思うが、そういう順番だった。
開戦後は変化して、「大統領への侮辱」、「当局への侮辱」などが検索されている。このように政治的な話題に関する要求が強くなった。
△ ロスコムナゾルは、治安当局のロシア人監視をいかに支援しているか?
彼らは「運用上の協力の部屋」を持っている。リンクを交換するためのテレグラム・メッセンジャーがある。彼らはEメールも利用している。彼らは検察庁に連絡したり、何かのサイトのブロックについて大統領府と調整したりもしている。
△ ロスコムナゾルについて、何か新しいことが分ったのか?
非常に大規模にSNSを監視していることが分った。すべてを自動化しようとしており、そのために大変な労力を費やしていることも分かった。調査実施や、写真に印をつけるための担当当番表も見つかった。自動化を学ばせるために、15万枚の写真にまず手作業で印をつけていたのだ。
(続く)
2023年2月11日発表(翻訳:村木洸太郎)
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