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米ロの核交渉 米大統領選控え急進展 

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【ロシアと世界を見る目】実は細部ですれ違いの懸念 先行き楽観できず

公開日: 2020/10/23 (ワールド)

Reuters Reuters

小田 健:ロシアと世界を見る目 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 11月3日の米大統領選を目前に控え、米ロ両国の新START(新戦略核兵器削減条約)をめぐる駆け引きが慌ただしさを増している。今月半ばまでの段階では双方の立場に大きな開きがあり、世界の安全保障に極めて重大な影響を与えるこの条約が来年2月の期限切れで廃棄されるのは必至と思われた。ところが20日に急転直下、条約は少なくとも1年間は生き延びる可能性が高まってきた。

 新STARTは2011年2月5日に発効した米ロの戦略核兵器を削減する条約で、それぞれが長距離戦略ミサイルと重爆撃機を800、ローンチャーを700、配備済み核弾頭を1550以下に制限すること、そして査察体制も定めている。

 現在、米ロ間に残る唯一の核軍縮条約だが、2021年2月5日に失効期限を迎える。そこで、この条約を単純に延長するのか、新たな後継条約を作るのかが問題となる。

 そのための交渉は今年4月、ドナルド・トランプ大統領がマーシャル・ビリングスリーを軍縮特使に任命してから動き出し、ロシアのセルゲイ・リャプコフ外務次官との間で、ウィーンやヘルシンキで会談を重ねてきた。

 条約をどのような形で延長するか、後継条約を作るとして何を対象にするか、中国の参加を促すか、査察体制をどうするか、さらには米大統領選前の基本合意をめざすか--などが中心議題だったが、今月に入っても妥協の見通しはなかった。

 ビリングスリー特使が9月20日、ロシアのコメルサント紙との会見で、米大統領選前に基本合意が得られなければ、トランプ大統領が再選された場合、ロシアにとっての代償は高くなると警告、これにリャプコフ次官が大統領選前に合意できるわけがないと強く反発した。

 10月13日にはビリングスリー特使が、両国首脳の間で「原則的な合意」ができたと発表すると、リャプコフ次官はそんな原則合意などないと反論した。

 次に、ウラジーミル・プーチン大統領が16日の国家安全保障会議で、今の条約を前提条件なしで1年延長、その間に後継条約について交渉するよう提案した。しかし、米ホワイトハウスのロバート・オブライアン国家安全保障補佐官は即日、核弾頭の凍結という条件を付けない延長提案は「話にならないa non-starter」と一蹴した。

 トランプ政権は大統領選を直前に控え、外交の成果として新START交渉での前進を訴えようとしていたことは、ビリングスリー特使の発言からも明らかだった。しかし、それはもう無理と思われた。

 ところが20日、事態は急転した。ロシア外務省が全ての核弾頭の数を凍結して1年間の延長を受け入れると発表、これにミーガン・オルタガス米国務省スポークスウーマンは高く評価すると応えた。核弾頭の凍結という条件は米国が強く主張してきたことで、ロシアが譲歩したと受け止められた。

 この両国の立場の接近は、それぞれの政治的な計算の産物であろう。トランプ大統領は選挙を念頭に、有権者にロシアに弱いとの印象を与えたくないので、この核軍縮交渉でも一定の強硬な姿勢を示してきた。その一方で、ロシアと合意し大きな外交成果をあげたとの印象を与えたいと考えたのだろう。実際、ビリングスリー特使は選挙前の原則合意の必要を強く訴えていた。

 一方、ウラジーミル・プーチン大統領は、米大統領選でトランプ大統領と民主党のジョー・バイデン候補のどちらが勝つかわからない状況の中、どちらが勝っても交渉をできるだけ円滑に進める算段を考えたのだろう。

 プーチン大統領は68歳の誕生日にあたる今月7日、国営テレビとの会見で、トランプ大統領が対ロ関係重視の姿勢を何度か明らかにしてきたことを高く評価すると述べる一方で、バイデン候補については、新STARTの延長、あるいは後継条約締結に意欲的だと言及した。確かにバイデン候補は昨年7月11日、新STARTの延長に努力すると明言している。

 両国の交渉当局者は今後、11月3日前に何らかの基本合意を実現するため接触すると思われるが、基本合意が間違いないと言い切るにはまだ早いという慎重な見方もある。

 外交交渉の分野ではよく「悪魔は詳細に宿る」という慣用句がしばしば登場する。細かな点まで詰めないと全体の合意が崩れる場合があるという意味だが、今回も米ロ双方の声明の文言を細かく点検すると、一抹の不安が残る。

 ロシア外務省の声明には、核弾頭の凍結に関して米国が「一切追加の条件を持ち出さないとの了解の下でのみ」ロシアからの今回の提案は有効だという下りがある。核専門家の間では、追加の条件とは、査察体制の強化を意味すると受け止められている。米国は従来から、後継条約では査察を強化するよう要求、ロシアはこれに難色を示してきた。

 ロシア外務省声明にはもう1つ注意すべき点がある。後継条約の交渉にあたっては、「戦略的安定strategic stabilityに影響を与えるすべての要素」を取り上げなければならないとの言及だ。ここで言う戦略的安定の要素とは要するに、弾道ミサイル防衛(BMD)システムを指すとみられる。 米国はこれまでの交渉で、後継条約にはBMDの制限を入れないよう主張してきた。

 こうして見ると、ロシアは今回、必ずしも米国に一方的に譲歩したわけではないことがわかる。

 一方、米国務省の反応の中には、「米国は検証可能な合意a verifiable agreementを最終的に得るためすぐに交渉する用意がある」との下りがある。問題は「検証可能な合意」という文言だ。

 現条約では査察は配備済みの核弾頭を対象とするが、米国はこれまで、査察対象を配備されていない保管中の核弾頭にも拡大することなど、大幅な強化を求めてきた。「検証可能な合意」がそれを意味するとすれば、ロシアが主張する追加条件なしとの立場と対立する。

 米ロともせっかく新START条約は救えるとの期待を抱かせた以上、当面、特に米大統領選前にこれらの詳細な食い違いの芽をことさら強調することはないだろうが、今後の交渉もこれまで同様、難航することが予想される。

 新START条約は核兵器保有超大国の米ロ間に残る唯一の核軍縮条約だ。冷戦終了の象徴の1つとされた中距離核戦力(INF)全廃条約が昨年8月、消滅したことを考えても、後継条約の作成は両国が人類に対して負う責務と言える。
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小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。

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