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失敗したEU委員の訪ロ、ロ外相は欧州断絶まで言及

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【ロシアと世界をみる眼】ナヴァリヌイで対立深化、ロシアの中国接近は加速か

公開日: 2021/02/23 (ワールド)

ボレルEU外交委員とラブロフ・ロシア外相 ボレルEU外交委員とラブロフ・ロシア外相

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 ロシアとEU(欧州連合)との関係が一段とぎくしゃくしてきた。今月初めEUの外交責任者であるジョセップ・ボレルがモスクワを訪問したが、セルゲイ・ラブロフ外相から非礼とも受け止められる扱いを受け、ほうほうの体でブリュッセルに戻った。そして22日に開かれたEU外相理事会は予想通りロシアに新たな制裁を科すことを決めた。

 3月25、26日にはEU首脳会議(欧州理事会)が改めて対ロ外交を見直す方針。米ロ関係も欧ロ関係も同様に袋小路に入り込んでおり、ロシアの米欧との関係がよくなる展望はない。

▽ボレル外交代表への仕打ち

 ボレルEU外務・安全保障政策上級代表(兼欧州委員会副委員長)は2月5日訪ロし、ラブロフ外相と会談した。EUの外交責任者の訪ロは前任者の2017年4月以来ほぼ4年振り。ボレル代表はEU域内の今行くべきではないとの声を押しのけて訪問に踏み切ったのだが、さんざんな結果となった。

 何が非礼に近かったか。まず、5日のボレル代表との共同会見でラブロフ外相は、EUが不当な根拠に基づいて一方的に制裁を科してきたと批判、「EUは現時点では信頼のおけないパートナーであることを念頭に対応していく」と述べた。

 さらに同じ日、ロシア外務省は駐サンクトペテルブルグのスウェーデンとポーランドの総領事館員各1人、さらに駐モスクワのドイツ大使館員1人の計3人を「ペルソンノングラータ」として国外退去に処すると発表した。1月23日のそれぞれの都市で実施された反政府デモに3人が参加したことが1961年署名の「外交関係に関するウィーン条約」違反だと批判した。

 ボレル代表にしてみると、関係打開の糸口を探ろうとモスクワにやってきたのに、頭から冷水をかけられたようなものだった。

 ボレル代表が帰ってからもラブロフ外相のEU非難は、収まらなかった。12日、ロシアのネット放送局のインタビューで、EUとの関係断絶の「準備をしていなければならない」と述べた。

 ラブロフ外相はボレル代表との共同記者会見で、EUが今後、建設的に関係を築こうとするなら、ロシアにもその用意はあると付け加えていたし、EUとの関係断絶発言における「断絶」も関係が壊れていく過程を指しているのであって、ある時バッサリと関係を打ち切ることを意味していないのだが、強烈なEU批判であることに変わりはない。

 ここまで関係がぎくしゃくしている最大の理由は、ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナヴァリヌイに対する認識の違いにある。

 ナヴァリヌイは、昨年8月にシベリアのオムスクからモスクワに戻る機内で昏睡状態に陥った後、ドイツに運ばれ治療を受けた。ドイツの分析ではナヴァリヌイに対し神経剤のノビチョクが使用されていた。

 ナヴァリヌイは体調を回復、今年1月17日、約5カ月振りにモスクワに戻ったのだが、ただちに空港で当局に拘束された。

 彼は2014年の詐欺・資金洗浄罪裁判で執行猶予付判決を受け、その間、ロシア当局に定期的に出頭しなければならなかったにもかかわらず、その義務を守らなかったというのが拘束の理由。今月2日、裁判所は執行猶予を取り消し、2年8カ月の実刑が確定、彼は収監された。

 これに対し直ちにシャルル・ミシェルEU大統領も欧州議会も、さらにロシアが加盟する欧州評議会の一機関である欧州人権裁判所もナヴァリヌイの即時釈放をロシア政府に要求した。

 ロシアが応じる気配をみせないことから、22日開いたEU外相理事会は、ナヴァリヌイの逮捕、収監、迫害に関与した人物に「制限措置」、つまり制裁を科すことを決めた。具体的内容は来週にも明らかにされる予定。イーゴリ・クラスノーフ検事総長らが候補だという。ロシアは対抗措置を取るだろう。

 制裁合戦がどんどん高じていく様相だが、従来の制裁、そして今考えられている制裁は基本的には限定的なものに収まっている点にも留意しておきたい。

 米欧にはもっと強烈な追加制裁を科すべきだとの意見があることはある。その一つの案としてSWIFT(国際銀行間通信協会)からの追放がある。あらゆる国際決済がこのスウィフトのシステムを通じて実施されているというから、このシステムを利用できないとなれば、ロシアには大きな痛手となる。米欧がそれに踏み切れば対立は新たな段階に入る。今後の注目点のひとつだ。

 当面の制裁論議では、「ノルドストリーム2」事業の行方も焦点だ。ロシアからドイツに天然ガスを運ぶため建設中のこのパイプラインはほぼ完成間近だが、米国、さらにポーランドやバルト三国などEU諸国のなかからも事業の中止を求める声が強い。

 アンジェラ・メルケル独首相は、ノルドストリーム2を政治問題とは切り離し、パイプラインを完成させる方針だ。この基本方針は揺らがないだろう。ただ、メルケル政権はバイデン政権と妥協案を探り始めており、ドイツがパイプラインの運用にあたってはロシアに厳しい条件を付ける可能性がある。

 ロシア政府は、EUや欧州人権裁判所の要求、制裁が内政干渉にあたると反発してきた。特に欧州人権裁判所の即時釈放の審決への怒りは強く、議会などには欧州評議会からの脱退論も出ているようだ。欧州評議会は人権、民主主義、法の支配を擁護する国際機関で47カ国が加盟している。

 しかし、欧州との歴史的、文化的、経済的関係を考えると、ロシアが欧州と全面的に「断絶」するとは到底考えられない。では今後、どう対応するかというと、EUと欧州各国を分けた外交を進めることが想定される。このところラブロフ外相が時々、口にしている。

 欧州諸国の対ロ姿勢は国によって微妙に異なる。EUとしては結束しているようでも、ポーランドやバルト三国など旧ソ連圏、東欧諸国と、フランス、イタリア、オーストリア、スペイン、セルビア、キプロスなどとの間には違いがある。今は、ドイツがロシアに対し強硬だが、従来は首脳レベルでも対話は維持してきた。

 ▽ウクライナ危機が節目

 30年前の1991年12月にソ連が崩壊し、東西冷戦が終わると、欧州、そして米国にも新生ロシアが西側諸国と価値を共有する一員になってくれるとの期待が高まった。1990年代から2000年代初めにかけて欧州とロシアでは、「リスボンからウラジオストクまで」を経済的に統合した「大欧州」構想をはじめ、「パートナーシップ」が語られた。

 しかし、北大西洋条約機構(NATO)が旧ソ連兼諸国を加盟国として迎え(NATO拡大)、2008年にロシア・グルジア(ジョージア)戦争が起きると、ロシアと米欧との間には冷たい風が吹き始めた。

 ロシア外交分析の第一人者であるカーネギー・モスクワ・センターのドミトリー・トレーニンは、冷戦終了後、欧州諸国はロシアがリベラルで民主的な国になり、欧州に倣う、つまり欧州に追随することを期待したとみる。だが、ロシアは歴史的な大国意識を背景に独自の国益をまもるとの観点から米欧とは距離を取り始めた。

 そして2014年のウクライナ政変でロシアと西側との関係は決定的に悪化した。当時、EUとロシアがウクライナをどちらの勢力圏に組み入れるかで駆け引きを展開、ヴィクトル・ヤヌコーヴィッチ大統領がロシアを選択すると、これに反発した運動が強まり、結局、同大統領は命からがらロシアに逃亡、ウクライナには親西側政権が誕生した。

 だが、この政変は、民族としてのロシア人が多いウクライナ東部のドンバス地方やクリミアの親ロ勢力を刺激、結局、ロシアがクリミアを併合、ドンバスでの親ロ勢力を軍事支援した。欧州諸国は米国と足並みをそろえてこれに反発、対ロ制裁を科し始めた。こうしてできた基本構図が今も継続している。

 それでもロシア・欧州関係は米ロ関係に比べるとまだ波風が少なかった。ロシアとEU諸国との貿易額はロシア・米国に比べ約10倍も多く(2019年)、欧州域内には経済分野を中心に対ロ関係重視派が多いからだ。

 しかし、昨年8月以降のナヴァリヌイをめぐる認識の違いで、両者の関係は完全に冷え込んだ。それがラブロフ外相・ボレル代表会談の背景だ。

 旧ソ連圏には休火山のような「凍結された紛争」がいくつか存在する。かつて爆発したが、今は落ち着いている紛争だ。ロシアと米欧との関係悪化が進めば、勢力争いが要因となってこれらの凍結状態が融解しかねない。欧州諸国にとっては米国よりも身近な問題だ。

 ウクライナのドンバス地方では親ロ派勢力がウクライナ政府軍と対峙、ウクライナも米欧もロシアによるクリミア併合を認めていない。

 モルドヴァの一地方であるトランスニストリア、グルジアの一部だったが独立を宣言し事実上ロシア軍に守られているアブハジアと南オセチアの情勢も「凍結された紛争」だ。

 今年9月から11月にはナゴルノカラバフでアゼルバイジャンとアルメニアが激しい戦闘を繰り広げた。ロシア政府が間に入って和解に持ち込んだが、アルメニアにはロシアの対応への不満がある。

 黒海などこれらの地域の周辺でNATO軍とロシア軍の航空機、艦船が異常接近する例もここ数年増えてきた。

▽バイデン政権下でも厳しい米ロ関係

 ロシア・欧州関係はもちろん米ロ関係に大きく影響される。米ロ関係が良くなれば、それに後押しされてロシアと欧州の関係もよくなることが想定されるが、そうはならないだろう。

 ジョー・バイデン政権が発足して米ロはただちに新START条約の5年間延長を決めた。これは米ロの核軍備管理上、極めて重要な成果だ。米ロ間に残る唯一の核軍縮条約が廃棄されなかった意義を強調してもしすぎることはない。

 こうしてバイデン政権ができて、米ロ関係は順調に滑り出し、今後は改善の一途をたどると思うかもしれない。だが、バイデン政権下の米ロ関係は、今の水準を超えることはないと見ておくべきだ。バイデン政権の外交、安全保障担当閣僚も議員たちも超党派で極めて厳しい対ロ認識を持っている。対ロ制裁が強化されることはあっても、緩和や解除は当面ない。

 バイデン大統領は同盟国との関係重視を強調している。トランプ政権が傷を付けた米欧関係を修復するだろう。これはロシアに対して、以前よりも米欧が一致して圧力をかけることを意味する。ロシアは警戒しているだろう。

 ラブロフ外相はEUのボレル代表には厳しい言葉を浴びせたが、バイデン政権に対しては、それを控えている。新政権の発足早々、関係改善の芽を摘むようなことをしたくないとの思いからだろうが、いずれそれが吹き出すかもしれない。

 ロシアと米欧との関係は、気候変動や国際テロリズム、核不拡散、さらには新型コロナウイルス感染などグローバルな問題への対策で協力することで、摩擦が高じて発火しないよう何とかうまく管理できれば、御の字、つまり最良とみるべきだ。

 こうしてロシア外交はユーラシア重視の路線を強める。特に対中接近が一段と目立つようになるだろう。ロシアには中国のジュニアパートナーにはならないとの意識があるようだが、その思いとは別にますます中国依存を強める。米欧諸国には、中ロ接近の問題を重視して対ロ関係を考えるべきだとの声もあるが、主流にはなっていない。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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