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独露間のパイプライン 米制裁のなか今年末完成か

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【ロシアと世界をみる眼】バイデンの対露外交占う試金石に

公開日: 2020/12/14 (ワールド)

【ロシアと世界をみる眼】バイデンの対露外交占う試金石に

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 ロシアとドイツを結ぶ新たな天然ガス・パイプライン「ノルドストリーム2」事業が風雲急を告げている。

 パイプラインの敷設工事はここ1年間止まったままだった。事業に反対する米政府が昨年末、敷設を担当する企業に制裁することを決め、その企業が制裁を恐れ、作業をやめたからだ。しかし、ロシアが独自に自国の作業船を手配、工事再開のめどがついた。年末までに完工できるともいう。

 この事業には米国だけでなく、EU(欧州連合)域内の一部の国も反対の声をあげている。事業の行方は米独、米欧、さらにEU域内の関係にも影響を与え、地政学的観点から大いに注目される。

 ノルドストリーム2は、ロシア北西部のウスチルガからバルト海底を通ってドイツ北東部のグライフスヴァルドに至る約1200kmのパイプライン。年間輸送能力550億立方㍍。

 既に稼働している「ノルドストリーム(ノルドストリーム1とも呼ばれる)」とほぼ平行して走り、ロシアからドイツへの輸送能力は合わせて1100億立方㍍へと倍増する。ドイツに陸揚げされた天然ガスはドイツから他の諸国にも供給される。

 建設費はおよそ100億ドルというから巨大事業だ。ロシアのガスプロムが半分を持ち、仏エンジー、オーストリアOMV、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル、独ユニパー、独ウィンターシャルDeaが残りを出し、2018年5月に着工した。

 当初計画では、今年半ばには完成、稼働する予定だったが、米政府が2019年12月にパイプラインを敷設している企業に制裁を科すことを決め、敷設を担当していたスイスのオールシーズ社が制裁を恐れ撤退、工事は休止していた。

 この事業は米国、そしてEU域内でも強い反対に晒されてきた。域内ではチェコ共和国、リトアニア、ラトビア、エストニア、ポーランド、スロバキア、ルーマニアといった旧ソ連構成国や旧ソ連圏諸国が反対している。

 反対の理由としては、まず、ロシアが2014年にクリミアを併合、ウクライナ東部の紛争にも関与し続けている以上、ロシアの利益になることは許されないという懲罰姿勢を挙げられる。

 さらに、ロシアのエネルギーに今以上に依存することは、欧州の安全保障上、問題だという声も強い。確かにEU加盟国が域外から輸入する天然ガスの約40%はロシア産だ(2018年)。原油輸入のロシア依存度も同様に30%、石炭は42%と高い。

 なるほど懸念ももっともだと思えてくる。だが、反対の声の裏には、個別の国のあからさまな利害関係も見え隠れする。

 エネルギー専門家によると、米国が反対する大きな理由は、米国産LNG(液化天然ガス)の欧州への輸出が妨げられるからだ。

 また、強硬反対派の一角、ポーランドは、天然ガスの利用が増えると、ポーランド産石炭に対する域内の需要が減ることを恐れているとも言う。

 米国の強い反対には、ウクライナからの働きかけが影響していることも分かっている。ロシアはウクライナを通るパイプライン経由でも欧州に天然ガスを輸出、ウクライナは膨大な通過料をロシアから得ている。その額、年間30億ドルといわれる。ウクライナの国家予算(歳入)は約400億ドルというから、その収入があるかないかはウクライナ経済に大きく影響する。

 その上、この新パイプラインの稼働は、ウクライナの天然ガス確保にも重大な影響を及ぼしかねない。ウクライナはクリミア併合などに抗議して2015年から形の上ではロシアからの天然ガス輸入をやめた。「形の上では」という意味は次のように説明できる。

 ウクライナはパイプラインでスロバキアやポーランドに送られる天然ガスの一部をこれらの国の同意を得て、つまり合法的に、抜き取っている。要するに、スロバキアやポーランドがロシアから天然ガスを多く買い、その一部をウクライナに回すという取引が成立している。「バーチャル・リバース(仮想的逆輸出)」と言われる。

 ロシアがウクライナ経由のガス供給を削減、あるいはゼロにすれば、この取引は難しくなる。

 一方で、ロシアにしてみると、ウクライナとの関係がまったく安定しない中で、天然ガスの輸送がいつ妨害されるかという不安がある。ロシアがウクライナ経由の輸送をいずれなくしたいと考えたとしても不思議ではない。

 こうした事情があるから、ウクライナはノルドストリーム2の稼働を阻止するため、米国で共和党のテッド・クルーズ上院議員らに対ロ制裁を求めるロビー活動を展開してきた。

 EU加盟国の中ではバルト三国や旧ソ連圏諸国が強く反対する一方で、ドイツ、フランスを始め多くの国は事業に賛成してきた。

 今年8月末、ロシアの反体制活動家、アレクセイ・ナヴァルヌイがロシアでノビチョクと思われる毒物で襲われるという事件が起き、これがノルドストリーム2の工事にどう影響するかが注目された。

 ドイツ政府はロシア政府に対し、ロシアでの徹底捜査を求めた。しかし、なしのつぶてで、事件の真相はまだ藪の中。当然ドイツにも他の欧州の国でもロシア批判が高まり、ドイツ国内ではノルドストリーム2を断念すべきだとの声も盛り上がった。

 アンジェラ・メルケル首相もナヴァルヌイ事件へのロシアの対応を厳しく批判してきた。しかし、結局、ノルドストリーム2については、継続方針を変えていない。これは商業案件だというのがメルケル首相の認識のようだ。

 ドイツ、そしてほかの欧州諸国も、地球温暖化の進行を遅らせるために、また脱原子力発電のためにも、天然ガスの安定確保は重要だと考えている。米国産LNGも同じガスだから、ドイツはそれを買ったらよいではないかとも思えるのだが、値段が高い。

 では、ドイツなどはロシア産エネルギーへの依存度が上がることをどう考えているのか。もちろん、過度の依存への警戒はある。しかし、ロシアが政治的理由で天然ガスや原油の対欧輸出を止めたことはない。かつてウクライナに天然ガスを売っていた際、供給を止めたことがあるが、ウクライナがガス代金を払わなかったからだ。ロシアにしてみると、ただでガスを供給するいわれはないということだった。

 ノルドストリーム2は残り80㎞の区間にパイプを敷けば完成する。海底パイプライン敷設には特殊な技術が必要で、オールシーズ社が撤退した後、ロシアは日本海岸のナホトカにから自国の敷設船、アカデミーク・チェルスキー号をバルト海に移動、改修、再装備して工事再開をめざしてきた。今月初めには同号とその支援船舶が現場海域に入ったという。

 こうした動きに対抗して米議会は制裁対象企業を広げる法案の審議を進め、さらについ先日も駐独臨時大使がドイツ紙に登場して事業反対を訴えた。ノルドストリーム2反対は米国の超党派の声であり、制裁強化法案は国防支出権限法案に盛り込まれる形で、おそらく成立するだろう。

 ジョー・バイデン次期大統領もこの件では、ドナルド・トランプ大統領とそう違った対応をみせるとは思われない。彼の対ロ姿勢は基本的に厳しい。

 だが、バイデンは一方で、冷却化した対欧関係を修復したいと考えているとも言う。ノルドストリーム2に反対しながらも、欧州との関係を改善する知恵を出せるのかどうか、バイデンの対欧外交の焦点の一つだ。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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