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「殺人者」発言で揺れる米ロ関係――ロシア側反発は穏やか

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【ロシアと世界をみる眼】決定的悪化は回避 改善の兆しはゼロ

公開日: 2021/03/22 (ワールド)

Reuters Reuters

 ジョー・バイデン米国大統領の「殺人者」発言が波紋を広げている。この発言は確かに衝撃的ではある。しかし、発言が飛び出した経緯、これに対するウラジーミル・プーチン政権の反応を見ると、これをきっかけに米ロ関係が決定的に悪化することはないと思われる。もちろん冷え込んでいくことは避けられない。

 バイデン大統領は16日、ABCニュースのキャスター、ジョージ・ステファノーポロスとの会見で、「彼(プーチン大統領)は殺人者a killerと思うか」と聞かれ、「うーん、そう思うUh-huh. I do.」と答えた。こうして、バイデンはプーチンを殺人者と呼んだというニュースが駆け巡った。

 米ロ関係は特に2014年のウクライナ危機以降、一貫して悪い状態にある。それにしても「殺人者」とは穏やかではない。

 バイデン大統領はなぜ、このような大胆な発言をしたのか、会見の詳細を点検すると、彼がプーチン大統領を「殺人者」だと告発したくてうずうずしていたわけではないことが浮かびあがってくる。

 質問者は米国の新型コロナ感染対策など内政外交さまざまな問題について大統領に問いただした。その中の一部が対ロシア外交だった。

 バイデン大統領は会見の中で、副大統領時代の2011年にモスクワでプーチン(当時首相)と会った際、「あなたには魂a soulがない」と言ってやったと、その時の会話を紹介した。質問者は恐らく、プーチンは魂のない人間であるのだから、殺人者ではないのかと聞いたのだろう。バイデン大統領は一瞬戸惑ったのか、「うーん」と言いながら、肯定した。

 つまり、少なくともこの会見では、バイデン大統領はみずから率先して「プーチンは殺人者だ」と言おうと待ち構えていたわけではない。もちろん、日頃からの思いがついポロッと出てしまった可能性はある。

 それにしても質問も受け答えもそもそも「殺人者」を論じるという感じではなかった。

 プーチンが殺人者であると問うなら、その質問を支える具体的な材料をもう少し示すのが聞き手のジャーナリストとしての常識だろうが、それがなかった。また、質問者はバイデン大統領が「そう思う」と答えたのだから、「すわ重大発言だ」と受け止め、もっと突っ込んで、どうしてそう思うのかなどと質問をたたみかけるべきところだが、それもしなかった。

 バイデン大統領の答え方もおかしい。殺人者であることを肯定しておきながら、そう判断している理由は素通りした。少なくとも2018年に英国で起きた元ロシア情報機関エージェント、セルゲイ・スクリーパリへの毒殺未遂事件、さらには昨年のロシアの反政府活動家、アレクセイ・ナヴァリヌイへの同様の事件などに触れてしかるべきだった。そうすれば、発言に少しは重みがついただろう。

 こうして「殺人者」が出てくるやり取りは、それが本来持つ重大な告発ではなく、軽い会話の中の一コマに過ぎない印象を与え、現実味が薄く、バーチャルな感じがする。

 ロシアはそんな経緯を踏まえてかどうか、公式には強烈に非難することを控えているようだ。さすがにアナトーリー・アントノフ駐米大使を一時帰国させることを決めた。大使召還は1998年にビル・クリントン大統領がイラク爆撃を命じた時以来のようで、異例の対応ではある。

 だが、それを17日に発表したマリア・ザハロワ外務省報道官は、殺人者発言に抗議しての大使召還だとは言わず、単に「今後の対米関係について協議するため」と説明した。それどころか、米国の出方次第では関係改善の意思があると述べた。決定的な関係悪化は避けたいと考えているようでもある。

 肝心のプーチン大統領は18日、クリミア併合7周年を祝う場でバイデン発言について問われ、米国指導者の先住アメリカ人への仕打ち、広島と長崎への原爆投下、米国内での黒人差別などに言及した。

 また別途、同日、国営テレビ記者に対し、公開された形で早急にバイデン大統領と話し合ってみたいと述べた。仮に公開討論が実現すれば、どちらがキラーであるか教えてやり、バイデン大統領を容易に言い負かせると自信を持っているかのような余裕ある対応だ。

 プーチン大統領は国営テレビ記者にさらに、バイデン大統領が健康であるように祈っているとも述べた。これは皮肉でもなんでもないとも付け加えたが、うがった見方をすれば、昨年の選挙運動期間中に浮上したバイデン大統領の認知症疑惑に遠回しに触れたかったのかもしれない。

 こうしてバイデン発言を声高に直接非難することを避けている様子がうかがえる。ただし、不愉快であることは伝わってくる。

 ロシア政府の公式反応は総じて抑制気味と言えよう。だが、議員は違う。

 コンスタンチン・コサチョフ上院国際問題委員長は18日、フェースブックで、バイデン発言を「非礼」と一蹴、これでバイデン政権が従来と異なる対ロ政策を取るとの期待が一気にしぼんだと強調した。さらに、米国は世界のどこかで12分ごとに1発爆弾を落としており、その結果、2001年からこれまでに50万人以上が死んでいると指摘、「バイデさん、なにかコメントはありますか」と問うた。

 バイデン大統領は政権発足早々、米ロの戦略核兵器の削減を取り決めた新START条約の5年延長でプーチン大統領と合意した。バイデン政権下の米ロ関係は順調に滑り出したと言える。

 だが、米国の対ロ認識は、トランプ政権時代も、その前のオバマ政権時代も、そして今も超党派で厳しい。バイデン大統領やアントニ・ブリンケン国務長官らの外交関連演説を聞くと、関係改善への意思は伝わってこない。

 バイデン政権にとっての第一の安全保障・外交課題は、18日のアラスカでの対中外交担当の高官会談の開催にみられたように、中国への対応であることは理解できたとしても、対中外交にロシアを利用しようという発想そのものがない。

 バイデン政権下の米ロ関係は発足直後がピークで、あとは決定的悪化はないにしても、とにかく冷却化が続くとみておくべきだ。

 バイデン大統領はABCニュースとの会見で、新たな対ロ制裁を検討していることも明らかにした。ロシア政府機関がプーチン大統領の承認の下、2020年米大統領選挙に影響を与える情報工作を展開したとの米情報機関報告を受けて実施する。

 この報告は米国家情報会議(NIC)が中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)などの情報機関の捜査をまとめ、今月15日に公表した。それによると、ロシア情報機関が昨年の大統領選でバイデン候補、民主党を中傷し、トランプ候補(大統領)を応援したという。ただし、報告は選挙へ影響を与えることと、選挙への介入を区別し、介入はなかったと指摘している。

 再確認しておくが、これは2016年ではなく、2020年の話だ。2016年の大統領選ほどではないにしても、昨年もロシアによる情報工作があったというのだ。

 ここで言う中傷とは、オバマ政権時代にウクライナ政策を担当していたバイデン(当時副大統領)と彼の次男、ハンター・バイデンがウクライナで不正な行動に手を染めていたとの情報の拡散を指すが、例によって米情報機関はロシア情報機関が動いていたとの具体的な証拠を明らかにしていない。 

 バイデン政権はすでに今月2日、ナヴァリヌイへの神経剤使用、逮捕、投獄などに抗議してアレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安庁(FSB)長官などロシア政権幹部7人への資産凍結などの制裁を実施している。

 今後は、2020年米大統領選での情報工作を受けての制裁に加え、これも昨年発生した米政府への大規模サイバー攻撃事件(ソーラーウィンズ・ハック事件)への制裁も検討されている。米国による制裁攻勢は今後も続く。

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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