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ロシア経済、嵐の前の落ち着き? エネルギー動向がカギだが、不況は必至

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【ロシアと世界をみる眼】経済不振は2024年の大統領選に響くか

公開日: 2022/06/01 (ワールド)

CC BY クレムリン=CC BY /Рустам Абдрахимов

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 米欧日から厳しい制裁を課せられているロシア経済の健闘ぶりが目立っている。通貨ルーブルは為替相場が年初来もっとも上昇した通貨に〝大変身〟したし、石油(原油と石油製品)と天然ガスの輸出額は今年に入って史上最高水準に増え、経常収支は大幅黒字を計上している。市民の消費生活にも大きな混乱は生じていない。

 にわかには信じがたいかもしれないが、少なくとも現状はそのようだ。ウラジーミル・プーチン大統領は3月に早々と西側諸国による「経済的電撃攻撃(ブリッツクリーグ)」は失敗したと述べ余裕を見せている。

 だが、いつまでそんな余裕綽々の態度を取っていられるか。ウクライナ戦争が長引き、戦費がかさんでいるし、米欧日による制裁はロシア経済にこれからじわじわと打撃を与えるだろう。欧州連合(EU)首脳会議は遂に30日、部分的だがロシア石油(原油と石油製品)の輸入を年末までに停止することで合意した。ロシアの今年の国内総生産(GDP)は前年比で二桁減少する可能性が十分ある。

 ロシア経済はこのままでは、長期的にますます西側経済から遠のき、中国を中心とするアジア諸国や中東、中南米、アフリカといった諸国への傾斜を強めるのだろう。しかし、その構造調整がうまく行くとの保証はない。

 ロシア財務省・ロシア銀行(中銀)は5月16日、個人の海外送金を1カ月に1万ドルとしていた上限を5万ドルへと引き上げた。24日には輸出企業に外貨収入の8割をルーブルに強制的に交換させていた規制を緩和、8割を5割に引き下げた。その2日後の26日、今度は政策金利をそれまでの14%から11%へと引き下げた。

 プーチン大統領が2月24日にウクライナ侵攻を決断、西側諸国が新たな経済制裁に踏み切ると、ルーブルが急落、中銀はルーブルを支えるためさまざまな資本取引規制を実施し始めた。その規制を徐々に緩め始めたのだ。ただし規制を全面解除したわけではない。天然ガス代金をルーブルで支払わせることなどは続けている。

 資本取引規制の緩和に踏み切った最大の理由はルーブル相場の回復だ。ルーブルは3月7日にはドルに対して史上最低の1ドル=150ルーブル近くまで下がった。ところが、5月にはいって顕著に回復、一時は57ルーブルをつけた。ここ4年で最高値である。今年に入っての上昇率はほぼ30%に達し、年初来もっとも上昇した通貨となった。信じられないような話だ。

 ルーブルの回復にはいくつかの要因がある。資本取引規制、さらに制裁の影響でロシアの輸入が減り、外貨需要が減っていることが大きく作用している。

 一方で輸出額は、原油と天然ガスの価格上昇に支えられ大幅に増えている。ロシアの貿易統計を発表してきた連邦税関庁は4月から月次の輸出入額の発表を止めたが、貿易相手国の貿易統計を見れば、だいたいわかる。米国の経済情報機関、ブルムバーグによると、ロシアの石油(原油と石油製品)および天然ガスの輸出収入は3月と4月に前年同月を2倍以上上回った。これは史上最高だ。

 世界の原油価格は直近ではロシアのウクライナ侵攻が始まる1月から既に上昇し始め、ロシアもその恩恵を受けている。

 ロシアのウラル原油(正確にはユラルス原油)の価格は、米国が輸入をやめ、欧州企業も自発的に買い控えてきたことから、少し下がり、2月末以降、英国のブレント原油など外国のほかの油種の価格との格差が広がってきた。それでも、3月以降もほぼ80ドル/バレル台にあり、しかも中国やインドなどへの輸出が伸びていることから、十分な輸出収入を確保できている。

 天然ガスの価格も上昇していることから今年春の貿易収支は大幅黒字だ。ロシア銀行(中銀)によると、今年1~4月の経常収支の黒字は貿易黒字を反映し前年同期の3.5倍でソ連崩壊後の最高だ。今のところは資源大国であることが強みになっている。

 しかし、ルーブル高が行き過ぎると輸出競争力が弱まるし、予算の歳入(ルーブル建て)にも打撃がでる。そこで当局はルーブル高の調整に踏み切ったと考えられる。

 ではロシア経済は今後も安泰かというと、決してそんなことはない。ロシア政府内からも厳しい見通しが示されている。

 ロシアが今年、景気後退に突入することは間違いないとみられている。現時点ですでにそうした局面に入ったとも言う。

 今年のGDPの見通しが様々な機関から出されている。まず、ロシア銀行は現時点で、今年は前年に比べ8~10%減(実質)と予測している。経済発展省の中間的シナリオでは、8.8%減。ロシア当局の予測は甘いのではないかと言う人には、世界銀行が4月10日に発表した見通しを紹介すると、11.2%減となっている。

 戦争がいつまで続くか、戦費がどのくらい必要になってくるか、米欧日の追加制裁がどうなるかなどによって今後、見通しは変わるだろうが、現時点ではロシア経済は10%前後縮小するとみられる。

 世銀の見通しを紹介すると、ロシアはこれから「深刻な景気後退」に突入し、その後2年間、景気回復の見込みはない。貧困層が増え、国内需要が縮小、企業倒産、投資減、失業増、実質賃金の減少に見舞われる。

 ルーブルは既に指摘したように、資本取引規制と原油高に支えられており、こうした要因が解消すれば、大崩れとなり、国内インフレがさらに亢進する。

 そのインフレだが、4月の消費者物価は前年同月比で17.8%上がった。すでにここ20年で最高水準にある。世銀は年末にはさらに同22%に上昇するとみている。

 ただし、国民の消費生活はこれまでのところ、特に混乱しているわけではない。物価全体はほかの米欧諸国に比べても上昇率が高いが、食料品価格は比較的安定し、食料品店の棚は充実しているという。砂糖不足が表面化した時期もあったが、今はブラジルからの輸入でほぼ解消した。女性用衛生品、紙など一部不足しているが、そう目立たない。レストランやバー、カフェなどは通常通り営業している。

 ハンバーガーのマクドナルドやコーヒーショップのスターバックス、さらには高級化粧品点、高級衣料品店がロシアから撤退し、新車販売も激減しているが、国民が艱難辛苦に耐えているという感じはない。

 しかし、市民は今後、ロシアが戦争当事国であることを否が応でも認識せざるを得なくなるかもしれない。

 アントン・シルアノフ財務相が今、心配しているのは戦費の確保だ。政府は加えて国民生活の不満を抑えるため、年金や児童手当の増額、低所得労働者への所得補填のための資金も必要としている。2022年の連邦予算は黒字を予定して作られたが、赤字になることは避けがたい。

 政府は国債を発行して手当てすることはないという。ここで、「国富基金(国民福祉基金とも訳されている)」が登場する。石油と天然ガスの価格が一定水準を超えた場合に徴集する税金を原資とする特別会計のような基金。年金財政が困難に陥った時など、まさかの時のためにこつこつと貯めてきた。今年は予算赤字を補填するため、この基金に手をつけざるをえない。

 西側諸国による前代未聞の制裁がロシア企業活動に与える影響で最も深刻な問題は、技術力の低下だ。油田・ガス田開発から自動車や航空機、通信機器、高度兵器の生産、また半導体チップの確保に至るまで外国企業に大きく依存してきた。

 半導体チップについては、ロシアはほぼ全面的に世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)に依存してきた。そのTSMCが制裁に加わっている。ロシアのマイクロプロセッサー製造を担うMCST社は通信会社や軍、情報機関向けに製品を提供しているが、チップ不足で混乱しているという。

 技術力の低下を懸念する声はロシア当局内でも上がっており、ロシア中銀の幹部、キリル・トレマソフは、このままではロシア企業は外国企業と競争できなくなり、技術小国になると述べた。

 ロシア経済の大きな特徴は、エネルギーに依存していることだ。ロシアの輸出全体に占める原油、石油製品、天然ガスの割合は近年、5割を占め、これに石炭を加えると6割に達する。これら資源への課税で得られる税収は国家予算の3~5割を占めてきた。

 したがって、今後もロシア経済の行方はこれら資源の輸出動向に大きく左右される。EUが30日に決めた石油の部分的禁輸は、ロシアがEUに輸出している石油の3分の2が減ることを意味するとシャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は説明した。

 ロシアの昨年のEU諸国への原油輸出は310万b/dだったから、単純に計算してロシアは来年以降、200万b/d市場を失う。インドや中国などへの輸出を増やせたとしても、200万b/dを埋め合わせることはできないと多くの石油アナリストは指摘する。ロシア原油の生産減、輸出減は必至と思える。ただし、その規模については不確定要因が多く、はっきりとは見通せない。

 いずれにせよ、ロシア経済は今年後半から苦境に追い込まれていく。問題はそれでプーチン大統領に対する国民の不満が高まり、彼を退陣に追い込むことができるかどうかだ。筆者は、少なくとも短期的にはその可能性はほとんどないとみている。今の彼の支持率は80%を超える。

 では中長期的にはどうか。戦死者が増え、国民生活が苦しくなれば、プーチン批判が高まることはありうる。だが、それが退陣につながるかどうか。

 プーチン大統領の前任者のボリス・エリツィン大統領は健康不安もあったが、経済の極端な不振が影響して退陣せざるを得なかった。支持率は一桁にまで下がっていた。プーチンも退陣して欲しいとの希望、期待はともかく、そこまで彼が不人気になるとは今は思えない。

 ロシアは2024年に大統領選を迎える。プーチンは出馬しようと思えば出馬できるが、どう決断するかわからない。退陣がありうるとすれば、その時の不出馬宣言によってではないだろうか。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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