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米ロ軍縮また後退 米が領空開放条約から脱退

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【ロシアと世界を見る目】どうなる新START条約更新?

公開日: 2020/05/30 (ワールド)

Reuters Reuters

小田 健:ロシアと世界を見る目 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 米ロ軍縮・軍備管理体制が岐路を迎えている。

 ドナルド・トランプ米大統領は5月21日、上空飛行による軍事監視を認め合うオープン・スカイズOpen Skies条約から脱退すると表明した。ロシアが条約に違反しており、米国の利益にならないからだという。

 脱退によってロシアとの軍事分野でのコミュニケーションの場がまた1つ消える。世界の核兵器の9割以上を保有する米ロの意思疎通のパイプが細り、相互不信が高まることは極めて危険だ。

 オープン・スカイズ条約は2002年1月に発効、北大西洋条約機構(NATO)諸国と旧ワルシャワ条約機構諸国を中心に34カ国が加盟している(日本は入っていない)。この条約によって加盟国同士が領空に航空機を飛ばし、地上を監視することができる。

 ただし、その航空機や搭載するカメラなどについて細かな規制があり、カメラの精度は偵察衛星搭載に比べ劣る。それでも、条約の存在自体が軍事的透明性や予見性の確保や相互信頼の醸成に貢献している。

 トランプ政権は脱退の理由としてロシアによる条約違反を挙げた。ロシアはモスクワやカリーニングラード、チェチニャ、そして南コーカサスのジョージアの一部だったアブハジアと南オセチアへの上空飛行を対象から勝手に外しているという。

 これに対しロシアにはロシアなりの反論があり、米国の脱退を批判している。それでも、ロシアは米国に対抗して脱退するつもりはないようだ。米国の脱退は通告してから6カ月後。その後も条約は他の加盟国によって継続する。欧州諸国が引き続きロシア上空を飛ぶことはできるし、ロシアも欧州諸国を上空から監視できる。

 トランプ大統領が軍事分野での国際的取り決めから脱退するのはこれで3度目だ。まず、2017年にイランの核兵器開発を抑止するための「包括的共同作業計画(JCPOA)」から脱退した。この協定は米ロをはじめ国連安保理常任理事国5カ国とドイツがイランと締結、2016年1月に発効したばかりだった。

 続いて昨年8月には冷戦終結を象徴する米ロ中距離核戦力(INF)全廃条約から脱退した。この条約が失効した影響は極めて大きい。これで核軍縮の歩みは冷水を浴びせられた。

 そして今回、オープン・スカイズ条約からの脱退だ。

 米ロが参加する重要な軍備管理条約で残るは新START条約だけだ。大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)や核弾頭、ローンチャー(ミサイル発射装置)など戦略核兵器に上限を設け、しっかりと査察措置も盛り込んである。2011年2月に発効、INF条約とともにソ連崩壊後の核兵器管理の2大柱だ。だが、この条約は来年2月5日で期限を迎える。

 新START条約がそのまま廃止となるのか、それとも延長できるのか、核軍縮の歴史上重大な節目が近づいている。刻々と時間が迫る中、米ロの正式な交渉は始まっていなかったが、ようやく、それが始まりそうだ。トランプ大統領は先月、交渉を担当する軍備管理大統領特使にマーシャル・ビリングスリーを任命、近く、ロシアのセルゲイ・リャボフ外務次官と協議する見通しだ。

 これまでのところ、ロシアが延長に積極的な姿勢をみせる一方で、トランプ政権からは、単純な延長には与しない、中国が参加しないと意味がないといった声が聞こえる。シンクタンク、米科学者連盟の最新の推定では、中国は既に320発の核弾頭を保有している*。

 だが議論はかみ合いそうにない。

 中国の核戦力は米ロに比べるとかなり小さいが、今後、急速に増強されるとみられる。米国はロシアに対して中国にも交渉に参加するよう促して欲しいと要請するのだろうが、中国が応じる可能性はない。中国問題も新START条約の更新を難しくしている。

 新START条約が延長されなければ、核兵器保有を制限する条約はなくなり、同時に査察体制もなくなる。後は相互不信が高まり、新たな核兵器開発競争が激化するかもしれない。それは偶発核戦争の危険も高める。

 世界はこれまで何度か核戦争の瀬戸際にあった。米ソ両国が1962年のキューバ危機の際、核戦争の一歩手前にあったことはよく知られているが、それだけではない。

 1983年には2度にわたってきわどい事態に直面した。振り返ると本当に冷や汗ものである。

 この年9月、モスクワ郊外のミサイル監視基地が、米国から大陸間弾道弾5基が発射されたとの衛星信号を受け取った。監視班は即刻、軍上層部に報告しなければならない手はずになっているが、当直将校のスタニスラフ・ペトロフ中佐は監視システムが誤作動したと即断し、上に通知しなかった。実際、それは誤った情報だった。システムの不備で高層の雲に反射する太陽光をミサイルと誤認したことがのちにわかった。

 もう1つ危うい状況はその2カ月後に出現した。NATO軍は同年11月、核戦争を想定した「エーブル・アーチャー83」と銘打った軍事演習を実施した。東西関係が悪化する中で、ソ連指導部はこの演習がソ連を核攻撃する隠れ蓑ではないかと疑心暗鬼に陥り、核戦争準備体勢を取ったことが分かっている。

 「ノルウェー・ロケット事件」もよく知られている。1995年1月25日(ノルウェー時間)にノルウェーと米国の科学者チームがノルウェーの西北部にあるアンニョイア発射場からオーロラ観測用のロケット、ブラック・ブラントⅫを打ち上げた。

 ロシア軍のミサイル攻撃警告システムがこれを直ちに察知、核攻撃の可能性が高いと緊急連絡を受けたボリス・エリツィン大統領は、「核のブリーフケース」を作動させ、戦略ミサイル軍は報復攻撃に出るべく臨戦態勢を取った。「核のブリーフケース」が作動したのは初めてだった。

 その直後、ロケットがロシアに向かう軌道を外れつつあることが分かり、最後の命令は出なかった。ロケットは確かに北海に着水、こうして核戦争は回避された。

 核戦争の瀬戸際という事態はこれら以外にも起きている可能性がある。核兵器廃絶は、核兵器保有国の軍事戦略理念からみて現実には無理だが、削減は可能だし、誤った判断を防ぐこともできる。核兵器保有国は核軍縮の努力を重ねるとともに、日頃から情報交換し、連絡を密にして厳格な兵器管理に全精力を傾けなければならない。

 新たな戦略兵器管理への中国の参加は望ましいことには違いないが、今、米ロには、とにかく新START条約の延長で合意する責務がある。

*中国を含めた各国の核兵器保有状況は、米科学者連盟のウェブサイト[https://fas.org/issues/nuclear-weapons/status-world-nuclear-forces/]を参照。
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小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。

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