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ロシアとポーランド・EU間の亀裂 第二次大戦の開戦要因めぐって

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【ロシアと世界を見る目】ロシアによる対独戦勝記念日、プーチンは「ナチを倒したのはソ連」

公開日: 2020/06/26 (ワールド)

CC BY-SA 対独戦勝記念大パレード(2007年5月9日)=CC BY-SA /Em and Ernie

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 24日、晴れ渡ったモスクワ赤の広場で対独戦勝記念大パレードが挙行された。

 ロシアが毎年5月9日に祝ってきた最大の国家式典だが、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されていた。

 式典ではこれまで同様、兵士の一糸乱れぬ行進が印象的だったが、今回はロシアとポーランドの間で欧州における第2次世界大戦開戦の要因をめぐる「歴史戦」が進行する中での開催だった。

 そこで、ウラジーミル・プーチン大統領がこの問題にどう言及するかに注目して祝辞を聞いた。

 結論から言うと、大戦に関する歴史認識についての長々とした評価はなかった。

 プーチン大統領は「ソ連国民がナチズムとの戦いで重大な役割を果たした」と振り返り、ナチ・ドイツとその同盟諸国は対ソ戦を開始した1941年に兵力の80%以上をソ連戦線に投入したこと、そしてソ連軍が敵軍の600師団以上を打ち破り、航空機、戦車、火砲の75%を破壊したことをその例証として紹介した。

 あっさりした言及ではあったが、赤軍こそがアドルフ・ヒトラーを打倒したとの誇りを感じさせた。同時に、彼の胸の奥には、ポーランド主導で欧州議会が昨年(2019年)9月19日に採択した決議への怒りが渦巻いていたかもしれない。

 プーチン大統領は、昨年12月20日に旧ソ連諸国で構成する独立国家共同体(CIS)首脳会議で、長時間かけ大戦開始に至る経緯などを説いた。さらについ先日、6月19日には同様の趣旨の大論文を発表した。

 プーチン大統領はロシア史全般に詳しく歴史好きで知られ、言及した内容には当時の国際関係の詳細が盛り込まれており、その面目躍如といったところだ。

 欧州議会の決議は大戦開始80周年を機に採択された。この決議は、1939年8月23日調印の独ソ不可侵条約(モロトフ・リベントロップ条約)とその秘密議定書によって大戦が起きたと指摘した。さらに「共産主義ソ連」がこの条約に基づいてポーランドを攻撃、占領、バルト三国を併合したなどと非難した。

 続けて「共産主義者、ナチスそのほかの独裁政権がおかした犯罪への認識を強めることが重要だ」と強調、ソ連をヒトラーのドイツと並べ立てて断罪した。スターリンとヒトラーの2つの全体主義政権が世界征服の目的を共有し、欧州を2つの影響圏に分割したとも指摘した。

 今のロシア指導部が歴史的事実を歪め、ソ連全体主義政権による犯罪を糊塗しようとしているとも言及し、プーチン大統領を強烈に批判した。

プーチンとポーランドの攻防

 プーチン大統領はこれには我慢がならなかった。彼のCIS首脳会議での長広舌と今月の大論文の主張をまとめると次のようになろう。

  ・第2次世界大戦開戦の責任があるとしてソ連をナチ・ドイツと並べて非難する決議は、徹底的に偽善的で政治的動機に基づく。
  ・大戦の引き金となったのは、1938年9月29日調印の対独宥和策を決めた独伊英仏4カ国首脳によるミュンヘン協定(プーチン大統領は「ミュンヘンの裏切り」と表現)だ。(この宥和策でドイツはチェコスロバキアのズデーテン地方を獲得した)
  ・ソ連は英、仏を含めて欧州の集団安全保障体制を作りドイツを抑え込もうとしたが、ポーランドが妨害し、成立しなかった。また、英仏にはソ連とドイツを戦わせようという思惑があった。欧州諸国が集団で努力すれば、1938年にヒトラーを阻止できた。
  ・反ナチ連合が成立しなかったためにソ連はドイツと不可侵条約を結ばざるを得なかった。これをけしからんと非難するが、それまでに英国もポーランド、イタリア、バルト三国なども同様の条約をドイツと結んでおり、ソ連は最後だった。ソ連は自国を守るためすべての手が尽くされた後、調印した。
  ・ポーランドはヒトラーに近親感を抱いていた時期があり、ドイツと一緒にチェコスロバキアの一部を分割した。

 これに対しポーランド政府は、CIS首脳会議後の2019年12月29日とプーチン論文が出た直後にそれぞれ声明を出して反論した。

 2つの声明をまとめると、プーチン論文は西側諸国に対するロシアの情報戦争の一環であり、スターリンとヒトラーが共謀した事実を記憶から消し去ろうとしていると一蹴した。さらにロシアは大戦の歴史を歪め、北大西洋条約機構(NATO)加盟国相互の対立を煽っているなどと指摘、徹底批判した。
 第2次世界大戦の起源についてはこれまでも学者の世界を含め様々に長い間議論され、論争が起きている。今のロシアとポーランドの論争も昨年始まったわけではないが、欧州議会決議の採択が一つの節目となった。

 第2次世界大戦が第1次世界大戦の産物であるという見方では多くの人が一致するだろう。第1次大戦を後始末したベルサイユ条約で連合国側がドイツに過酷な条件を押しつけたため、ドイツ国民の間に復讐心が高まり、それがヒトラーを生んだ。

 認識の違いは、その後の経緯についての評価から生まれる。開戦を決定的にした要因、つまりヒトラーをのさばらせたのは1938年9月のミュンヘンでの宥和政策か、それとも1939年8月の独ソ不可侵条約か。あるいはそもそも二者択一できるような話であるのかどうか。

 第2次世界大戦は人類史上最大の犠牲をもたらした。悲惨な光景がみられたのはソ連もポーランドも、またほかの国も同じだ。しかし、中でもソ連は民間人を含め約2700万人という突出した死者を出した。ソ連国民の7人に1人が死亡した。プーチン大統領は、「ナチスとの戦いでソ連国民が示した祖国愛こそ我が国のエッセンスそのものだ」と強調する。「(戦争の)記憶を愚弄し嘲笑すること、それは卑劣だ」とまで言う(プーチン論文)。

 一方、ポーランド、バルト三国、そのほかの諸国にも対ナチス、あるいは対ソ連で同様の思いがある。従ってこの歴史認識の溝を埋めることは困難だ。これらの国の古代からの歴史も影響を与える。

 近隣諸国同士の関係はしばしばぎくしゃくし、敵対的であることも珍しくない。現代欧州をめぐる国際関係においても、底流には歴史認識の違いが存在することを改めて思い知らされる。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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