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ベラルーシでロシア民兵33人拘束、大統領選向け「政治劇」か

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【ロシアと世界を見る目】ロシアはベラルーシを失うリスク冒せない

公開日: 2020/08/04 (ワールド)

CC BY ルカシェンコ・ベラルーシ大統領(左)=CC BY /Kremlin.ru

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 旧ソ連の一国でロシアの西に位置するベラルーシの捜査当局が7月29日、ロシア人33人を拘束した。彼らは民間の傭兵組織に所属し、テロ行為や騒乱を準備していた疑いがあるという。
 ベラルーシとロシアは既に「連合国家」なるものを形成、国家統合へ歩んでいるはずだ。彼らがロシア政府の指示で容疑通りの行動を計画し、それが摘発されたとすれば、両国の同盟関係は一気に吹き飛ぶだろう。
 しかし、現地などから伝わる情報では、ロシア政府が陰謀を企てたとは思われない。ロシアはベラルーシが混乱して得ることはなにもない。ウクライナのように大衆革命が起きてロシア圏から離れてしまうことは絶対に避けたいところだ。
 ロシア人33人の拘束の模様をベラルーシの国営放送が報じている。彼らのうち32人は首都ミンスクの郊外のサナトリウムに滞在していた。ほかに同国南部で1人を拘束した。
 ベラルーシの捜査当局によると、33人は通称「ワグナー・グループ」というロシアの傭兵組織に所属する。彼らは7月25日にミンスクに到着、市内のホテルに2日間宿泊した後、郊外のサナトリウムに移動していた。
 ロシアを含めいくつかの国には「民間軍事会社 / Private Military Company」と呼ばれる警備・傭兵会社が存在する。その中の一つがロシアのワグナー・グループで、除隊した兵士の再就職先でもある。ロシア軍参謀本部情報総局(通称GRU。正確な略称はGU)の特殊部隊中佐だったドミトリー・ウトキンが設立した。ウトキンはドイツの作曲家、「ワグナー」を自分のコールサインにしていたことから、メディアは彼の組織をワグナー・グループと呼ぶようになった。
 ロシアの軍事専門家の間では、彼らはワグナー・グループではなく、サンクトペテルブルグに本拠のある「マルス(火星)」という傭兵組織に所属しているとの情報もある。
 ロシアの傭兵組織はシリア、ウクライナ東部、スーダン、モザンビーク、そして最近ではリビアで活動していることが知られており、雇われて各種施設を警備、派遣先の軍部隊を訓練、時に自らも戦闘に参加する。建前は民間企業所属の傭兵だが、事実上、ロシア軍兵士だという指摘もある。 
 ルカシェンコ大統領は、ただちに安全保障会議を招集、「緊急事態だ」と危機感を明らかにし、公明正大に捜査すると述べた。
ベラルーシ安全保障会議のアンドレイ・ラフコフ書記は、テロを実行しようとしたとの容疑に言及し、さらにロシアからは約200人もの要員が入り込んでいる可能性があるとも述べた。捜査は今後も続きそうだ。
 ロシアはどう反応したか。ウラジーミル・プーチン大統領は31日に安保会議を開き、経済政策などの問題とともにこの拘束についても協議した。大統領府や外務省のスポークスマンの声明は、「控え目に言っても当惑を禁じえない」とか、「根拠のない拘束」「友好的な国際関係の枠組から外れている」と指摘、早期釈放を求めた。
 しかし、ロシアの国営メディアを含め、全体として強い調子での非難は避け、慎重に対応しているようにも見受けられる。プーチン大統領自身はコメントしていない。
 ロシア政府の説明では、そもそも彼らの目的地はミンスクでない。ミンスクは長い旅行の乗り換え地だったに過ぎず、彼らはミンスクを経由してトルコのイスタンブールに行き、その後第三国に向かい、そこでエネルギー関連施設の警備の仕事をする予定だった。イスタンブール行きの航空券も持ち合わせていることも明らかにした。
 ロシアの軍事専門家などからは、最終目的地は内戦中のリビアのズワラで、そこにある石油施設を防衛する予定だったとの情報が出ている。
 拘束されたロシア人は新型コロナウイルス感染拡大の影響でロシアの空港からの便を利用できないので、ミンスク経由にならざるを得なかったという。また、ミンスクではイスタンブール行きの航空便に乗る予定だったが、何らかの理由で予約した便が飛ばず、数日間滞在せざるを得なかったという説明もある。
 そもそも彼らの行動はロシア当局の秘密工作員らしくない。極秘の使命をおびているのであれば、32人といった団体で行動するのではなく、少人数に分かれるはずだ。ミンスクでは迷彩服を着て移動、サナトリウムでは一切飲酒せず、従業員の注意を引いた。
ロシアにとってベラルーシは同じ東スラブ族の1国(他にはウクライナがある)。言語も極めて近いし、何よりもロシアと北大西洋条約機構(NATO)諸国の間という戦略的に極めて重要な位置にある。ウクライナがロシアから離れていった以上、絶対にベラルーシ
を失うわけにはいかない。
 両国は1999年12月に「連合国家」を樹立しており、国家統合へ踏み出した。ベラルーシはロシアにとって旧ソ連諸国の中で最も親密な友好国であるはずだ。実際、ロシアのレーダー基地を受け入れているし、軍の合同演習も実施している。
 一方で、2004年には天然ガス事業をめぐり、2009年には酪農品の貿易をめぐり激しく対立、今年1月にはロシアがベラルーシへの割引価格での原油の輸出を一時停止するという事態が起きている。
 両国はいわば愛憎劇を繰り返してきたのだが、これまでは何とか収拾してきた。ロシアのその交渉相手は一貫してルカシェンコ大統領だった。ロシアにとってルカシェンコは時々言うことを聞かなくなるが、ロシア圏にとどまる選択を下した指導者だ。
 ベラルーシの政治の舞台から彼が退場しては、これまでのような同盟関係が維持できなくなるかもしれないと考えれば、ロシアには彼の再選を阻止しなければならない理由は見当たらない。ロシアは今回も事態を大事に至らないうちに収めたいのだろう。だから、批判も控え目だ。
 ロシアがテロを準備していたという説が成立しにくいとなると、ベラルーシ側に何らかの思惑があったということになる。それが何であるか、あれこれ憶測が飛んでいるが、まずはベラルーシが今大統領選挙戦の真っ只中にあることを考慮しなければならない。
 ルカシェンコ大統領はプーチン大統領を上まわる26年の長きにわたり政権を維持し、さらに6期目を務めるべく再選をめざしている。現状では当選は間違いないとみられるが、今回は選挙に対する強権的手法への反発がいつも以上に強く、票が伸び悩むとの見方も出ている。
 ルカシェンコ候補には有力な対立候補が3人いた。インターネットのサイトを通じて支持層を広げてきたセルゲイ・ティハノフスキー、元銀行家のビクトル・ババリコ、元外交官のバレリー・ツェプカロだ。
 ところが、ティハノフスキーは5月末に警官への暴行容疑で、ババリコも6月に詐欺容疑で相次いで逮捕された。残るツェプカロは逮捕を恐れ、7月に子供2人を連れて出国した。
 最近になって、ティハノフスキーの妻、スベトラーナが夫に代わって選挙戦に参入し、台風の目となっている。30日にはミンスクで6万人を超えるという反ルカシェンコ集会が開かれた。ここ10年で最大規模だ。
 こうした流れを見てルカシェンコ大統領は選挙目当てのパフォーマンスを演じたことが考えられる。
 ルカシェンコ大統領には、すでに指摘したように、ロシアはベラルーシを西側に追いやるような強い対抗措置は取れないとの読みもあるのかもしれない。それに拘束した33人はロシア当局の人間ではない。あくまで民間人である。ロシア当局と33人は別だと切り離して扱う道も残されている。
 ルカシェンコのパフォーマンス説が今のところ最も合理的に思えるが、別途、真逆のような見方も紹介しておきたい。拘束劇はベラルーシの治安当局による反ルカシェンコ行動だというのだ。ロシアと一応仲良くやってきたルカシェンコが再選されては、国に未来はなくなると判断し、ロシアがひどい国であると印象付け、親西側路線に舵を切ろうとして行動したという。深読みしすぎのように思えるが、頭の片隅には入れておきたい。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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