安倍晋三首相が10月22日から28日までモンゴルと中央アジア5カ国を歴訪している。日本の首相が中央アジア諸国を訪問するのは9年振りで、しかも5カ国すべてを一気に訪問するのは初めて。中央アジアは日本になじみの薄い地域だが、ロシア、中国、米国などによる地政学的ゲームが展開されている。ここに日本が関与を強めることは日本外交の幅を広げる意味で重要だ。
中央アジア5カ国を合わせた面積は約400万平方キロメートルで日本の約10倍強と広大だ。しかし人口は約5,800万人に過ぎない。様々な民族が住むが、最も普及している宗教はイスラム教で、スンニ派が大多数を占める。
5カ国ともソ連の中のいわば一地方だったが、ソ連崩壊で独立した。権威主義あるいは独裁の国が多い。経済的にはまだ発展途上の諸国だ。
その地政学的重要性は北と西にロシア、東に中国、南にアフガニスタン、イラン、パキスタンに囲まれて、原油、天然ガスを中心に豊富な資源が存在していること、さらにはイスラム過激派の脅威を受けていることなどにある。
ここでの主要なプレーヤーはロシアと中国だ。ロシアはロシア圏作りに積極的で、集団安保条約機構(CSTO)やユーラシア経済同盟を設立、中央アジア諸国が参加している。
中国は「一帯一路」構想の一部として「シルク・ロード経済ベルト」を提唱、中央アジアを舞台にしたインフラ整備に乗り出している。設立されたアジアインフラ投資銀行がその資金を提供する。
中ロの利害は時に対立するが、今は関係改善を進め、共同で中央アジア諸国を取り込み、上海協力機構(SCO)を運営、テロ対策、経済協力を進めている。
中央アジアにおける中ロの存在感は顕著だが、中央アジア諸国は大国の思惑を利用しながら経済を発展させようとしており、必ずしも中ロにべったりという感じでもない。独立心は強い。
日本は1997年に橋本竜太郎首相が「対シルクロード地域外交」を提唱してから、本格的な中央アジア外交を開始した。橋本首相はこの演説で、中央アジア5カ国、及びアゼルバイジャン、ジョージア、アルメニアとの関係強化を目指すと強調、政治対話の強化、経済協力、民主化協力を掲げた。
2008年には川口順子外相がタシケントを訪問、以来「中央アジア+日本」と銘打って対話を続けてきた。2006年には麻生太郎外相が「中央アジアを平和と安定の回廊に」にすると述べた。そして今回の安倍首相の歴訪である。
日本が中央アジアから直接原油や天然ガスを輸入することは難しいが、ウランなどほかの資源開発には参加できるし、資源関連のプラント輸出の市場としても期待できる。政府開発援助(ODA)の供与先として重視すべきだろう。
中央アジア諸国は基本的に親日的で、日本が存在感を強めることを歓迎している。日本も中ロの戦略を念頭に置きながら、これまで以上に中央アジア外交を重視し、推進すべきだ。
日本も経済協力で中央アジアへの関与強めよ |
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【ロシアと世界を見る目】中ロが影響力競う地政学的に重要な地域を首相が訪問中
モンゴルのエルベグドルジ大統領と会談する安倍首相=Reuters
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小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。
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