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プーチン氏、あえて改憲国民投票に挑み 求心力を確保 

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【ロシアと世界を見る目】支持率最低の60%を吹き飛ばす、実は支持基盤に亀裂あった?

公開日: 2020/07/06 (ワールド)

【ロシアと世界を見る目】支持率最低の60%を吹き飛ばす、実は支持基盤に亀裂あった?

ロシア憲法改正に関する全国投票が終わった。結果は改正に賛成するが78%、反対が21%。投票率は68%だった。改憲を提起したウラジーミル・プーチン大統領には上出来の結果だろう。

 ソ連崩壊後の1993年、新憲法制定について国民投票が実施された際は、賛成(承認)が58%、反対42%、投票率54%だった。これに比べると相当に大きな差だ。

 プーチン大統領は法的には今回、投票を実施する必要はなかった。ロシアの憲法を改正する場合、改正部分によっては憲法が定める「国民投票」の実施あるいは憲法会議の招集が必要だが、今回の改正は連邦議会、憲法裁判所、地方議会の承認だけで可能だった。

 既に3月までにそうした手続きは完了した。にもかかわらず、プーチン大統領は敢えて全国投票という事実上の「国民投票」を実施した。厳密には今回の投票は憲法に定める国民投票ではなく、法的にはその結果に縛れる必要はなかったのだが、意図した通り、あるいは意図以上の結果が得られ満足しているに違いない。

 それにしても日本から見ると電光石火の改正成就だ。プーチン大統領が憲法改正を提案したのは今年1月15日。その後、矢継ぎ早に連邦議会、憲法裁判所、地方議会の承認を得た。全国投票はいったん4月22日に予定されたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で7月1日に延期されていた(日本でいう期日前期投票は6月25日から実施)。

▽本当に再出馬は既定路線なのか

 今回の憲法改正についてのロシア、そして日本を含めた外国のメディアは、当然のことながら、プーチン大統領が今の任期が切れる2024年以降も大統領として君臨する道が開けたと集中的に言及している。「終身大統領」が決まっているかのような印象を受ける。

 だが、その指摘にはプーチン大統領がなぜこの時期に憲法を改正しようとしたのかという肝心の分析がほとんど伴っておらず、説得力がないと言わざるを得ない。

 分析の一つの手がかりとして、プーチン大統領のつい先日、6月21日の発言を紹介しておきたい(テレビ局「ロシア1」との会見)。

 2024年の再出馬の可能性について問われ、次のように答えている。

 「本当に正直に言う。それ(再出馬の可能性)がなくなれば、自分の経験から分かるのだが、1、2年のうちに、政権のあちらこちらで通常の律動感ある仕事に代わって、後継者候補を捜しまわる動きが始まるだろう。後継者を詮索することなんかよりも、仕事をする必要がある」
 「私はまだ何も決めていない。憲法で認められるなら、その可能性、つまり出馬の可能性を排除しない。まあどうなるか見てみましょう」

 この発言から分かることは、レームダック化の防止だ。レームダック化とはここでは、任期切れが決まっていて指導力に陰りがでることをいう。

 現在2020年7月。プーチン大統領の任期切れは2024年5月。まだ4年近くある。その長期間、言うことを聞かない輩が増えることは避けたい。そこで再出馬もあり得るとの状況を作っておいて、日本で言う「求心力」を保持し続けたいと考えることは不思議ではない。

 さらに、後継者捜しがあちらこちらで始まるという発言に注目したい。その発言からは、後継者争いをきっかけに権力闘争が起きかねないと危惧している様子も垣間見える。

 プーチンは大統領に就任した2000年以来、様々なエリート集団の利権、利害をうまく調整することで21年もの長きにわたって統治してきた。

 ところが、レームダックになると、調整能力が弱まり、権力闘争で国は混乱しかねない。実はロシア政治はそうした利害の異なるエリート集団の微妙なバランスの上に成り立っていることをこの発言はうかがわせる。

 ロシアの新進の政治評論家、タチアナ・スタノヴァヤは、ロシアのエリートを5つの集団に分ける。プーチンのボディガードなどお付きの者、旧友・側近・オリガルヒ、政府内で政策立案にあたるテクノクラート、現体制を擁護する保守イデオローグ、そして連邦および地方の政府で政策の実行にあたる人たちだ。

 スタノヴァヤは、このうち特に現体制擁護の保守イデオローグとテクノクラートの間のきしみが目立ち始めている指摘する(Tatiana Stanovaya, February 11, 2020, CarnegieMoscow Center)。

 どの国でも指導者の任期は決まっている。したがってレームダック化はどの指導者にも共通するが、プーチン大統領の場合は、それによる混乱、つまり権力闘争の危惧が強いのではないか。

 「プーチン一強」と言っても、ロシアの政治の内実は脆弱であるのかもしれない。だから敢えて全国投票に打って出て、国民の信頼を誇示したかったとみることができる。

 こうしてみると2024年までの残りの任期中にエリートの利害調整をうまく管理し、後継者を絞ることができれば、再出馬の必要はなくなる。

 今は事実上の終身大統領説が有力だ。しかし、権力の座に汲々としないといった類いの彼の近年の発言も考慮して、敢えて予測すれば、上記のような条件は付くが、再出馬しない可能性も十分あると思えてくる。

 プーチン大統領が憲法改正に踏み切った動機として、レームダック化防止のほかに、もう1つ挙げておきたい。現行の1993年憲法がボリス・エリツィン大統領時代に制定され、エリツィンの遺産であるとすれば、プーチンも自分の遺産を作っておきたいと考えたのではないか。

 われわれの関心はプーチン大統領の任期の事実上の撤廃に集中的に向けられているが、国家主権の重視、ロシアの歴史や伝統への配慮、神への言及、結婚は男女によるとの規定など保守的考えを反映したプーチン憲法を作っておきたかったのだろう。

▽日系各紙はプーチン批判ばかりだが

 それにしても今回も日本の各紙のプーチン批判は徹底している。もちろんニューヨーク・タイムズやCNNも同じだ。

 プーチン大統領はますます独裁的な国家主義に傾く、2036年までの政権続投に道を開くとの意図を隠し国民の愛国心をくすぐった、プーチン大統領は国民の権利よりも体制存続を最優先した、帝国の再興をめざしている--などなど。

 プーチンはとてつもなく悪い独裁者のように思えてくる。だが、素朴な疑問が沸いてくる。そんなひどい人物が提案する憲法改正をなぜ78%もの有権者が支持したのか。それについての詳しい分析もあまり見当たらない。

 考えられる理由は大きく分けて2つしかないだろう。1つは、自由で公正な投票が実施されず、結果も操作されたという説、もう1つは、単純に有権者が改正案を高く評価し賛成したという説だ。

 ロシアの選挙や各種投票は不正だとの批判によく晒される。2011年12月の下院選挙ではあからさまな不正があったと多くの市民が怒り、翌年初めにかけモスクワなどで大規模抗議集会が相次いだ。この時はプーチン大統領も焦ったと思われる。

 今回も政府に批判的なNGOのゴーラス(声という意味)が、各地で不正があったと発表している。政府機関や国営企業で上司から賛成票を投じるよう働き掛けがあったという。

 当局がテレビや看板を通じて大々的に賛成を訴えた。一部地域では投票率を上げるため自動車や住宅が当るというクジまで実施したとの話も伝わっている。一方で反対派は当局から差別的に扱われたという。

 また、選挙分析の専門家というセルゲイ・シピルキンは、賛成票が最大で2200万票水増しされた可能性があるとメディアに述べた。ただし、それでも65%が賛成票を投じたことになるとの計算を明らかにした。

 投票を監督した中央選挙委員会は、不正があったとの報告はないと述べている。だが、これまでの例から判断すると、指摘されるような異常な動きはおそらくゼロではなかったのだろう。

 問題はそれが全体の結果を左右するほどの規模だったかどうかだ。それを判断する1つの有力な手段は、世論調査機関による事前の調査と照合することだ。

 ロシアは「独裁国家」にしては珍しく、政治問題についても様々な世論調査が実施されている。それら事前の調査は改正が承認されるだろうことを示していた。

 国営のVTSIOM(ロシア世論研究センター)が5月22日に実施した調査では、賛成61%、反対22%だった。だがこの調査機関は国営だから、操作されているのではないかとの疑問がつきまとう。

 そこで政府とは関係のない独立した民間のレバダセンターによる調査はどうだったというと、既に期日前投票が始まっていた6月27~28日の聞き取りで、賛成68%、反対17%だった。

 レバダセンターの結果も操作されたのかもしれないが、さすがにそうした指摘は見当たらない。

 次に、国民は素直にプーチン提案を受け入れたという説について考えてみたい。当然、政権側の強引な宣伝工作に多くの国民が洗脳され、あるいは踊らされて賛成票を投じたという主張が出てくるだろう。確かに当局側の活発な宣伝に乗った人がいただろうことは考えられる。

 ロシアには当局の言いなりになっていた共産党独裁のソ連時代という過去がある。だが、ロシア社会はソ連崩壊前の「ペレストロイカ」時代以降、変化してきたことも事実だ。

 単純に「独裁」「独裁」と騒ぐのではなく、これまでの社会の変化の中身を分析する必要がある。

 ロシア国民の多数が自分の頭でものを考えず、権力の言いなりになる性癖を持つという見方は、彼らを愚弄することにつながりかねないので注意したい。

 それに今回、反対票が21%あったことは注目に値する。
 世論調査のレバダセンターによると、プーチン大統領の支持率は3月以降、60%前後とこれまでの最低水準に下がっている。確かに2014年にクリミアを併合した直後の8割越えから見ると、かなり落ちた。

 支持率低下の中での投票で78%の賛成を得るのは不思議な感じがする。しかし最低水準だと言っても60%(6月)だ。プーチン大統領が国民から見放されているとは言い難いだろう。

 プーチン大統領は少なくとも2024年5月までは現職にとどまると思われる。今回の全国投票で国民の一応の信任は得た。日本もほかの国もその現実の中で対ロ外交を工夫して展開しなければならない。

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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