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ロシアゲートのスティール文書 衝撃の”トンデモ情報源”

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【ロシアと世界を見る目】文書根拠に通信傍受申請 FBI不当捜査も明らかに

公開日: 2020/08/10 (ワールド)

トランプ大統領就任式=Reuters トランプ大統領就任式=Reuters

小田 健:ロシアと世界を見る目 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 米国の〝ロシアゲート〟劇を盛り上げる主役を演じた「スティール文書 Steele dossiers」なるものを覚えていらっしゃるだろうか。2016年大統領選でドナルド・トランプ候補がクレムリン(ロシア指導部)と共謀し、ヒラリー・クリントン候補の当選を阻止しようとしたとの仰天情報をもたらした例の文書だ。

 この文書をまとめたのは英国対外情報機関MI6の元エージェント、クリストファー・スティール。彼はロシアに出入り禁止となっていたこともあり、一体、どのようにしてそんな「超機密情報」を入手できたのか長い間疑問だったが、このほど米上院司法委員会のリンジー・グラム委員長(共和党)が公表したFBI(連邦捜査局)の内部文書でその疑問が改めて一掃された。

 改めてというのは、既に司法省の監察総監が昨年12月にまとめた報告で、スティールにあれこれ情報を提供した「主要情報源」*が存在し、その人物が噂話や根も葉もない又聞き情報を伝えていたことが明らかにされているからだ。

 グラム委員長が7月17日に公表した57ページのFBI内部文書は、FBIの捜査班「クロスファイア・ハリケーン」が2017年1月に3回にわたりスティールのこの主要情報源から直接聴取した際の記録だ。その主旨は監察総監報告と同じだが、今回はより具体的にスティールの主要情報源の素性、彼の活動を浮き彫りしている。

 この文書によると、スティールが頼りにした主要情報源は米国在住のロシア人で、彼はロシアの政権内で働いた経験はない。要するに、クレムリンとは何のコネも持たない人物だった。

 そんな人物がどこから情報を入手したかというと、答えはロシアにいる彼のガールフレンドや飲み友達など6人だった。つまり、情報は下部情報源とも言えるロシア人6人→まとめ役の主要情報源→スティールへと上がり、スティール文書に盛り込まれた。

 主要情報源がクレムリンとのコネがなくても、これら6人がクレムリンの裏情報に通じているなら、スティール文書にも説得力があったのだろうが、まったくそうではなかった。

 6人のうち5人はガールフレンドを含めた個人的知り合い。残りの1人は主要情報源に電話を掛けてきたロシア人で、名前もわからないという。

 今回、下部情報源の6人がそれぞれどのような情報を主要情報源に上げたかも明らかになった。

 例えば、スティール文書は、トランプが2013年にモスクワを訪問した際、高級ホテルのリッツ・カールトンに多数の売春婦を呼び、ベッドの上で放尿させたという「ゴールデン・シャワー」事件を記述しているが、この話を主要情報源に伝えたのは6人の中の「ソース2」(FBIによる分類名)。

 ソース2は主要情報源に「噂と推測だ」と断り書きを付けてこのスキャンダルを伝えた。主要情報源は真偽を確認するためホテル幹部に問い合せたところ、確認が取れなかった。主要情報源はその断り書きを付けてスティールに話したのだが、それが真実であると扱われてしまったとFBIに述べた。

 下部情報源6人の中にはFSB(連邦保安庁)と関係を持つ者が2人含まれているが、クレムリンに直接関係するような大物ではない。彼らが伝えた話は酒席での裏付けがない与太話の類いだったという。

 6人の中に1人、主要情報源と知り合いでない人物が含まれる。米国在住のロシア人で、スティール文書が公表された後、電話をかけてきた。トランプ候補とロシアが共謀しているといったスティール文書をなぞった話をしたという。

 主要情報源は、FBIに対し、自分が単なる噂話として伝えた情報をスティールが脚色、誇張して報告に盛り込んであったことに驚いたと総括した。この部分は司法省監査総監報も言及している。

 上院司法委員長がFBI内部文書を公表すると、この主要情報源はいったい誰かという正体捜しが始まり、すぐに特定された。

 司法省監査総監報告も主要情報源の存在に言及しているが、報告にはあまり手がかりがなかった。今回は違った。

 FBI内部文書の公表に当ってグラム委員長は、スティールの会社、つまり英国のオービス・ビジネス・インテリジェンスが契約した人物で、ロシアに居住していない者というにとどまった。しかし、FBI内部文書を精査した事情通がツイッターなどで、それはイーゴリ・ダンチェンコであるとの情報を流し、拡散した。

 そして、ダンチェンコの弁護士なる人物がニューヨーク・タイムズに主要情報源がダンチェンコであることを認め、7月25日付けで報じられた。

 ダンチェンコは1978年ウクライナ生まれの42歳。クレムリンで仕事した経歴はなく、仕事の舞台は主に米国だったようだ。

 ロシアでの高校生時代に米議会図書館のプログラムで留学、その後、ケンタッキー州ルイビル大やジョージタウン大で勉強した。

 ニューヨーク・タイムズはロシア人弁護士と紹介、2005年から2010年にかけてワシントンの民主党系著名シンクタンク、ブルッキングズ研究所の研究員だった。同研究所ではトランプ政権の国家安全保障会議(NSC)のロシア担当だったフィオナ・ヒルと共同論文をまとめている。アルコールが好きらしく、これまでにワシントンなどで2度、泥酔で警察のお世話になっている。現在の仕事は不明。

 ロシアゲートの核心であるトランプ陣営とロシアの共謀疑惑については、司法省のロバート・モラー特別検察官のチームが2年近くもかけ捜査し2019年5月、共謀はなかったとの結論を出している。その時点でスティール文書の主張はすでに破綻していたのだが、今回、その破綻の程度が思われていた以上にひどいことが浮き彫りになった。噂話、又聞きばかりで、虚偽が多く、クレムリン内部からの直接情報は皆無といってよい。

 スティールはワシントンの調査会社、フュージョンGPSからトランプ陣営とロシアとの関係についての調査を受注、報告をまとめた。その元をたどると、クリントン陣営に行き着く。つまりスティールはクリントン陣営のためにトランプのスキャンダルを集めていたということになる。

 スティールは2016年6月から12月にかけて順次17回にわたって発注先に報告を送り、16万8000ドル(2016年の平均レートで約1800万円)の報酬を受け取った。1本100万円あまりということになる。本物の機密情報であれば、それほど大きな額でないのかもしれないが、衝撃度は超弩級だった。トランプ陣営とクレムリンの間に「広範な共謀が存在」していると断定していたからだ。

 最後に今回のFBI内部文書の公表で、FBIの不当捜査が改めて確認されたことを指摘しておきたい。

 FBIは2016年10月、2017年1月、4月、6月の4回にわたり、トランプ陣営の外交担当顧問だったカーター・ペイジの通信を傍受する申請を連邦外国情報監視裁判所(FISC)に提出、承認を得ている。

 申請にあたっては傍受の正当な理由を説明しなければならないが、FBIはスティール文書を根拠に申請した。

 今回、公表されたFBI内部文書によると、すでに指摘したように、FBIは2017年1月にスティールの主要情報源(つまりダンチェンコ)に聴取、スティール文書がいい加減なシロモノであることを掌握した。にもかかわらず、その後、同年4月と6月にもスティール文書を根拠にペイジの通信傍受の承認を得た。結局、FBIは2016年10月から2017年9月まで11カ月間、ペイジの通信を傍受した。

 グラム委員長は今回、公表にあたって声明を出し、FBIによる2回の傍受申請は司法権の不当な行使にあたると指摘した。今後、当時のFBI首脳の責任を問う局面が出現するかもしれない。

 米国では大統領選が進行中だ。FBI内部文書の公表も共和党出身の委員長が断行し、トランプ大統領の再選を後押しする目的があるのではと推察される。しかし、党派政治が色濃く反映した公表であったとしても、明らかにされた事実は事実として伝えなければならない。

 司法省では現在、ウィリアム・バー長官の指示の下、ジョン・ダラム検事がFBIのロシアゲート捜査を総ざらいして調べている。その結果は、11月の投票日前にも発表され、民主党に打撃を与える可能性が十分ある。トランプ陣営は不利な選挙情勢を挽回する起死回生策として期待しているのかもしれない。ロシアゲートは米国の激烈な党派対立の中でまだまだ存在感を出している。

 *主要情報源 a Primary Sub-sourceと表記されている。正確な訳は「主要下請け情報源」だが、これは発注主(フュージョンGPS)にとってスティールが第1次情報源であるからだ。ダンチェンコはスティールにとっての主要情報源であり、ここではそのように訳した。
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小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。

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