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ロシア いまやタリバンと良好 それでも警戒

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【ロシアと世界を見る眼】テロリストと麻薬のロシア圏への輸出を懸念

公開日: 2021/08/19 (ワールド)

カブール空港で避難のカタール航空機に乗り込む米大使館員(2021年8月17日)=Reuters カブール空港で避難のカタール航空機に乗り込む米大使館員(2021年8月17日)=Reuters

 カブールがタリバンに陥落し、ロシアは米国をはじめ北大西洋条約機構(NATO)諸国が軍や自国市民の撤収にあたふたしている様子をみて、ほくそ笑んでいるかのようだ。外交当局者の反応からは「ざまー見ろ」といった感じすら伝わってくる。だが、そんなにのほほんとしていていいわけがない。

 セルゲイ・ラブロフ外相は先月、タリバンを「強い勢力だ」と好意的に評価した。カブール陥落直後には駐アフガニスタン大使のドミトリー・ジルノフが、ロシア大使館はタリバンに守ってもらっていると誇らしげに語り、アフガニスタン担当大統領特使のザミール・カブロフは、崩壊したアシュラフ・ガニ政権よりもタリバンと話がしやすいと述べた。ロシアはタリバンとはうまく立ち回っているようだ。

 だが、ロシアとタリバンの関係がいつも落ち着いていたわけではない。タリバンがアフガニスタンを統治していた1990年代、ロシアはタリバンと対峙する「北方同盟」を支持していたし、2003年にはタリバンをテロリスト集団に指定、活動を禁止している。タリバン禁止は今も変わらない。

 その一方でロシアは2015年頃からタリバンを重視し始め、アフガニスタン政府とタリバンの協議を仲介、ロシア自身もタリバンと接触を続けてきた。7月初めにはタリバンの代表団がモスクワを訪問、ラブロフ外相が会談している。こうした一連の現実的な接触の結果、タリバンへの好意的な評価が生まれているのだろう。

 とは言っても、ロシアはタリバンのアフガニスタン支配を無条件に喜んでいるわけにはいかない。

 カブロフ大統領特使は、16日、ラジオ局「モスクワのこだま」に対し、タリバン政権を承認するかどうかは今後の行動次第だと述べ、ラブロフ外相も17日、記者会見で承認を急がないとの姿勢を明らかにした。ロシアはこの面では、基本的に米国、中国と同じ姿勢だ。

 ラブロフ外相は、タリバンがほかの政治勢力を取り込んで政府を作るかどうか、女性の教育を認めるかなどを見ていくと述べた。だが、ロシアが最も心配している問題はそんなことではないはずだ。

 ロシアにとっての最大の懸念事項は2つある。1つは、タリバンがアフガニスタンに入り込んでいる外国のイスラム過激派の活動を抑え込むかどうか。もう1つは、効果的な麻薬対策を取るかどうかだ。

 ロシアが何よりも困るのは、アフガニスタンからテロリスト集団が旧ソ連の中央アジア諸国に入り込むことだ。

 タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンの3カ国がアフガニスタンと国境を接しており、テロリストが入り込むと、これらの国ばかりでなくロシアも動揺する。ロシアは約1000万人のイスラム教徒(ムスリム)を抱えるムスリム大国でもある。

 ロシアは今回のタリバンへの好意的評価に現われているにように、タリバン自身が国境を越えて勢力を伸長するとは思っていない。だが、タリバン政権下、アフガニスタン国内に入り込んでいる「イスラム国(ISISあるいはISIL)」やアルカイダといった外国のイスラム過激派の動向を強く警戒している。

 ラブロフ外相が7月にモスクワでタリバンの代表団と話し合った際もこの問題を取り上げ、タリバン側はISISを抑え込む旨を約束したとされる。

 米国のドナルド・トランプ政権は2020年2月にタリバンとの交渉で和平や米軍撤退を視野に入れた協定を結んでおり、その際、タリバンはアフガニスタンが米国とその同盟国に脅威を与えるテロリスト集団に利用されないよう保証すると確約した。

 17日、カブール掌握後初めての記者会見したタリバンのスポークスマン、ザビフラー・ムジャヒドもアフガニスタンの領土を他国の利益を害する目的では使わせないと述べた。彼らの言葉からはタリバン政権下ではISISもアルカイダも抑え込む意思があるように思える。

 しかし、当然のことながら本当かと思ってしまう。アフガニスタンでは何事も言葉と実践は別だ。タリバンがアフガニスタンを掌握したといっても、その内部に派閥争いはあるだろうし、統制の取れた統治がすぐに可能だとも思えない。長期の混乱は不可避だろう。

 国連安保理は2011年にアフガニスタンを監視するチームを設立、定期的に報告を出している。昨年5月の報告が外国テロリスト集団について記述している。

 それによると、アフガニスタンにはアルカイダ勢力がとどまっており、その規模は数百人。タリバンの一部はそのアルカイダと緊密な関係にある。タリバンが米国との交渉していた時には定期的にアルカイダに相談していたという。

 一方、ISIS(報告ではISIL-Kと表記)はタリバンだけでなく政府軍からの攻撃を受け弱体化し、その勢力は2200人程度。しかし、再興の機会をうかがっているという。

 もう一つロシアが懸念している問題がアフガニスタン発の麻薬だ。アフガニスタンは今や世界一の麻薬生産地と化し、中央アジア諸国を通じて、ロシアに流入、さらには欧州にも流れている。

 麻薬汚染は実はロシアでも深刻な社会問題になっており、アフガニスタンが混乱することで麻薬の流入が更に増える可能性がる。

 世界の麻薬の動向を調べている国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、アフガニスタン発の阿片とヘロインは世界の80%を占める。米国などもこれまで芥子の栽培の取り締り、麻薬工場の摘発に努力してきたが、効果があがっていない。

 タリバンのスポークスマンは17日の会見で、麻薬産業の撲滅をめざす旨述べたが、UNODCによると、麻薬ビジネスがタリバンの大きな収入源だった。今年5月の米政府機関の推定では、タリバンは収入の6割を麻薬から得ている。そんなタリバンが本当に麻薬撲滅に力を入れるのか、その能力があるのか。

 さて、ロシアはタリバンと良好な関係を持ちたいと思っているようだが、軍事協力の可能性はどうか。将来的に兵器供給などの軍事協力はあり得るだろうが、米国やNATO諸国のようにアフガニスタンに直接派兵することはないだろう。

 ソ連はアフガニスタンが米国の勢力下に入ることを阻止するなどの目的で1979年12月に軍事介入、1989年2月に撤収を完了するまで1万5000人余りの死者を出した。この苦い経験があるから、国情が複雑なアフガニスタンにロシアが再び軍事介入することはないとみる。

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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