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大揺れベラルーシ、ルカシェンコは持ち堪えるか

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【ロシアと世界を見る眼】ロシアの介入の可能性は小さい 親ロ派からルカシェンコの後継探しか

公開日: 2020/08/19 (ワールド)

プーチン氏とルカシェンコ氏(2012年)=CCbyクレムリン プーチン氏とルカシェンコ氏(2012年)=CCbyクレムリン

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 ベラルーシが大揺れに揺れている。今月9日の大統領選が不正だったと反発する運動がこれまでにない勢いで拡大、26年間統治してきたアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が窮地に立たされている。大衆革命で彼は辞任、追放されるのか、それとも治安部隊を動員し流血の惨事を引き起こすのか、はたまた同盟国ロシアは軍事介入するのか、疑問は尽きない。

 ベラルーシでは過去にも大統領選を機に抗議運動が盛り上がったことがあるが、ルカシェンコ大統領が治安部隊を投入、抑え込んできた。だが、今回は様相が異なる。抗議運動が大規模に、しかも長く続いている。前代未聞の事態だ。

 大統領は16日、トラック製造工場で労働者を前に演説したが、「辞めろ」「帰れ」とヤジを飛ばされ、引き揚げた。同じ日、首都ミンスクでは主催者発表で何と20万人が反ルカシェンコの集会に参加した。一部国営企業はストや時短体制に入った。ただし、ゼネストが起きているわけではない。

 なぜ、今回は様相が異なるか。第1の要因は、不正選挙の度が過ぎたということだろう。選挙前に有力立候補者2人を逮捕、1人を国外避難に追い込んだ。そして開票作業が不正だったとの報告が続出した。

 ルカシェンコの得票率は80%、2位のスベトラーナ・ティハノフスカヤは10%だった。非政府系団体による出口調査が正しいとは限らないが、それによると、ティハノフスカヤが圧勝したはずだった。一方で、開票の不正がなくてもルカシェンコは約6割を得票していたとの専門家の推定もある。

 第2に、抗議運動者の拘束者が6000人を超え、多くは2~3日で釈放されたのだが、拘束中に警察から虐待を受けたとの報告が相次いだ。電気ショックや警棒の殴打による傷跡の映像が流れ、怒りを増幅した。

 第3に、ルカシェンコ大統領の新型コロナウイルス対策への不満も高じていた。感染を恐れることを「精神疾患だ」と述べ、特に対策を取らなかった。サウナに入り、ウォトカを飲んで退治したらどうかと言ったこともある。

 では多くの国民の信頼を失ったルカシェンコ大統領は今後どう出るか。あくまでも政権にしがみつくか、それとも時期を見て退陣するか。情勢は混沌としていてにわかには判断できない。20万人という集会の映像を目にすると退陣は必至と思い込みがちだが、そう軽々には判断しない方がよいだろう。

 ルカシェンコ大統領は強力な治安部隊をしっかりと掌握しているとも言うからだ。治安部隊を投入すれば、大量の血が流れるかもしれないが、支持者もそれなりにいる。抗議運動には特定の有力な指導者がおらず、運動は厳しい取り締りを受け、やがて何もなかったかのように下火になる。一部専門家の間では、その可能性は半分以上あるともいう。

 その一方で、彼は国外、例えばロシアに避難するという見方もある。2014年、ウクライナでは親EU(欧州連合)・反ロシア市民による「マイダン革命」によってビクトル・ヤヌコービッチ大統領は命からがらロシアに逃走した。

 すべてはルカシェンコ大統領にかかっているようだが、彼が自らの進路を決めるにあたって決定的に重要な影響を与えるのはロシアの対応だろう。

 ベラルーシはロシアを含め旧ソ連6カ国で組織する集団安全保障条約機構(CSTO)の加盟国。その一国への侵略は加盟国全体への侵略と受け止め支援するとされる。ルカシェンコは自前の治安部隊、軍では対応できないと判断した場合にはCSTOの規定を応用してウラジーミル・プーチン大統領に支援を求めるかもしれない。

 そうなれば、1956年にソ連軍がハンガリーの民主化運動に介入した動乱が再現される。しかし、CSTOの支援は外国による侵略が前提とされており、一国内の内部紛争を前提としていない。

 2010年4月、キルギスタンでの政変の際、CSTOが行動すべきかどうか議論されたが、CSTOは動かなかった。

 しかし、CSTOとは関係なくルカシェンコがプーチンに部隊の派遣を求めることはありうる。その場合、ロシアは応じるか。

 ルカシェンコは15日にプーチンと電話会談、その結果、ロシアが治安維持のため協力してくれることになったと明らかにした。だが、ロシア側の発表にはそうした下りはない。

 ロシアが軍事介入をするのかどうか、この重大な問いに対して、多くの専門家の意見は否定的だ。この筆者(小田)もロシアがハンガリー動乱を再現することはないだろうとみる。

 まず、なによりもそれはロシアに利益とならないからだ。軍事介入すれば、世界中から非難を浴び、今以上に厳しい制裁を科されることになる。いくら中国経済との関係を深めても、新型コロナウイルスで疲弊している現状をさらに悪化させしてしまう。

 それに、そもそもプーチン大統領はルカシェンコ大統領の行動に手を焼いてきた。彼を重宝してきた面があることは事実だが、ことここに及んでは、何が何でも彼を続投させようとは思っていないだろう。

 ロシアとベラルーシはすでに1999年に「連合国家Union State」を設立した。両国はその条約に基づいて統合を進めているはずなのだが、ルカシェンコ大統領は優柔不断で、連合国家とは名ばかりで実が伴わない。業を煮やしたプーチン大統領はベラルーシへの原油の値引きを止めるなど強硬措置も講じてきた。

 最近ではルカシェンコ大統領がロシア人の傭兵33人を拘束し、ロシアがベラルーシを混乱に陥れようとしたと批判した事件が起きた。ベラルーシ当局は14日にこれらロシア人を釈放したが、ロシアでは政治家やメディアの間で不快感の表明が相次いだ。

 ベラルーシはロシアとポーランドの間に位置する戦略的に極めて重要な位置にある。ウクライナがロシアから離れてしまった今、ベラルーシをロシア圏に留めることは地政学的に最重要課題の1つだ。ベラルーシが北大西洋条約機構(NATO)に加盟することは致命的な痛手となる。

 プーチン大統領としては、弱体化したルカシェンコ大統領が続投しロシア依存を強め、ロシアとの統合をさらに進めてくれることが最良であろうが、ベラルーシがロシア圏から離れないという一線を守ってくれるなら、ルカシェンコ大統領でなくても構わないと考えているだろう。

 抗議運動の要求事項は簡単にまとめると3点ある。ルカシェンコ大統領の辞任、政治犯の釈放、そして選挙のやり直しだ。

 ロシアには幸いなことに、反ロ運動が盛り上がっているわけではない。2014年のウクライナの場合は、親EUか親ロかという地政学的選択が問題の核心だったが、ベラルーシではそれは問題となっていない。

 ベラルーシという国名は「白いロシア」を意味する。なぜ「白」なのかはいくつか説があるが、いずれにせよ、自分たちはロシア人と極めて近いと思っている人が多い。ベラルーシの人たちは基本的に親ロだ。ウクライナと違う。

 抗議運動の象徴的存在となっているティハノフスカヤは現在、隣国のリトアニアに逃れているが、反ロ的なアピールを出したことはない。

 だからといってプーチン大統領が指をくわえてベラルーシ情勢の展開を傍観していることはないだろう。

 プーチン大統領は18日、ドイツのアンジェラ・メルケル首相、フランスのエマヌエル・マクロン大統領とそれぞれ電話で会談、メルケル首相には、「外部からの内政干渉は危機拡大につながり、容認できない」と主張した。一方、マクロン大統領に対しては、混乱の「早期解決」が望ましいとの立場を確認した。

 プーチン大統領は西側諸国が抗議運動を煽らないよう求め、その一方でポスト・ルカシェンコをにらんで、ロシア離れしないとの一線を守ってくれる政治家に目星を付け、ロシアとの関係の重要性を説いていくのだろう。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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