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幻と化す〝ロシアゲート〟 下院情報委証言の重み

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【ロシアと世界を見る眼】司法省、あのフリン元補佐官の起訴取り下げ

公開日: 2020/05/18 (ワールド)

フリン氏=Gage Skidmore-ShareAlike フリン氏=Gage Skidmore-ShareAlike

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 米国のロシアゲート事件が極めて面白い展開になっている。2016年の米大統領選にロシアが介入し米国の民主主義を危うくしたとされる疑惑は、もともと党派対立を反映した極めて筋の悪い話ではあったが、ここへきて幻に化す様相を見せている。

 今月7日、司法省、つまり検察当局はマイケル・フリンに対する全ての容疑を取り下げると発表した。フリンは2017年1月のドナルド・トランプ政権発足で国家安全保障担当補佐官という要職に就いたが、わずか24日間で辞任した。

 政権発足前の1カ月ほど前にフリンが駐米ロシア大使と対ロ制裁などについて電話で話をしたことを追及され、FBI(連邦捜査局)に対し、そんな話はしていないとウソを言った(虚偽供述)として起訴された。

 フリンもいったんは容疑を認め、司法取引に応じていた。後は量刑の言い渡しを待つだけになっていた。

 ところが、今年に入ってフリンはFBIの圧力と巧みな誘導に乗せられ容疑を認めてしまったと主張し始めた。このため司法省が再捜査、結局、フリンの言い分を全面的に認め、起訴を取り下げた。これには誰もが驚いた。

 司法省が裁判所に提出した申立書では、そもそもFBIがフリンを捜査する正当な理由はなかった。つまり、FBIによる捜査は不当だったという結論だ(FBIは2016年7月から一連の疑惑を捜査、2017年5月からはロバート・モラー特別検察官が捜査を引き継いだ)。

 フリンが一旦容疑を認めたことについて彼の弁護士は、息子への捜査を開始するとの圧力があり、その時は司法取引に応じて保護観察くらいで済むならと思ってしまったなどと説明している。

 フリンはバラク・オバマ政権時代に国防情報局(DIA)長官を務め、退職した後は、コンサルタント業に乗り出した。

 その際、息子を雇っていた。フリンはトルコなどのためにワシントンでロビー活動を展開したが、FBIはフリンがロビーストとして登録していなかったこと(外国エージェント登録法違反)にも目を付け、虚偽供述容疑を認めるよう迫ったという。

 司法省は起訴取り下げの前の4月23日にフリン捜査に関する報告を発表している。それによると、FBIは2017年1月初めの時点で、フリンは何ら罪を犯していないとの判断を固めたが、捜査班の一部から政治色の強い異論が出て、捜査を継続、それがモラー特別検察官に引き継がれた。これが不当捜査だったということになる。

 フリン起訴取り下げの決定には民主党や主要メディアから強い反発が出ている。今の司法長官はウィリアム・バー。彼はトランプ大統領に近い人物とみなされており、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)は「バー司法長官による司法の政治化は止めどない」と非難した。ニューヨーク・タイムズなどの論調も同じだ。

 検察の横暴か、それとも司法への不当介入か、見方は分かれるが、起訴取り下げがロシアゲートを喧伝してきた向きにバケツ何杯分もの冷や水をかけたことは間違いない。フリンはFBIが狙ったトランプ陣営の関係者の中の超大物。そんな人物が無罪放免となってしまった。

 今後、フリンを取り調べた当時の捜査官から司法省幹部に至るまで彼らの責任を追及する声が強まると思われるのだが、一方で、民主党などから擁護論も出るだろう。果たしてどうなるか。

 実は検察による起訴取り下げは今回が初めてではない。日本ではほとんど報じられていないが、司法省は今年3月16日、ロシアのインターネット・リサーチ・エイジェンシー(IRA)というトロール団体(インターネット上で扇動的な情報を流し対立を煽る団体)傘下のコンコード・マネジメント・アンド・コンサルティングに対する起訴を取り下げた。

 モラー特別検察官はIRAの関係者・企業がソーシャル・メディアを通じて2016年大統領選に介入、米国に対する陰謀や詐欺を実行したとして起訴した。だが、その中の1社、コンコードが米国の裁判所に異議を申し立て争う姿勢を示した。その裁判は今年4月に始まる予定だったが、司法省は直前になって起訴を取り下げた。

 司法省の担当検察官は、公判が開かれればIRAグループに対する証拠収集などの捜査手法が公になってしまい、公益にならないからだと理由を説明した。

 しかし、コンコードの弁護士は証拠がないのに起訴したと批判した。米国でも起訴を取り下げることは稀だ。日本でいう単なる不起訴処分とは違う。

 ロシアの被告が米国の裁判所で争うことはないだろうから、曖昧な根拠で被告人を仕立てても問題になることはないと思っていたのだろう。これもモラー特別検察官の失点だ。この時は司法への政治介入という声は上がらなかった。

▽下院情報委証言の衝撃

 フリン起訴取り下げが発表された5月7日にはもう一件、ロシアゲートの瓦解を示す重大な発表があった。衝撃度はフリン起訴取り下げよりもこちらの方が大きい。

 ロシアゲートを議会の立場から調査した下院常設特別情報委員会(HPSCI)はこの日、2017年1月から2018年3月にかけて喚問し非公開で聴聞した57件の膨大な証言記録を公表した。

 一連の記録の中で最も注目されるのはサイバーセキュリティ会社、クラウドストライクのショーン・ヘンリー社長の証言(2017年12月5日)。

 ここで、なぜクラウドストライクの社長が同委員会に呼ばれたのか説明しておきたい。

 そもそもロシアゲートは、ロシア情報機関が2016年米大統領選期間中に民主党全国委員会(DNC)にサイバー攻撃を仕掛け、幹部のeメールを大量に盗んだというクラウドストライクの分析がきっかけで始まった。DNCが2016年4月にサーバーへのサイバー攻撃に気付き、クラウドストライクに調査を依頼していた。

 クラウドストライクの調査結果はワシントン・ポスト紙が2016年6月14日に報じ、クラウドストライク自身も翌日、発表した。

 その後、盗まれたeメールがどのような経緯をたどったかは不明だが、機密情報を公開するサイト、ウィキリークスなどにたどり着き、6月から順次公表され、大騒ぎとなった。ただし、この頃はトランプ陣営とロシアの共謀の疑惑はまだ浮上していなかった。

 モラー特別検察官は2017年5月から昨年3月までかけてロシアゲート関連の様々な疑惑の捜査を終え、その最終報告が昨年4月18日に発表された。報告にはDNCサーバーからのeメール盗難について、ロシア情報機関がハックしたようだappearsと記述してある。

 またモラー特別検察官は既に2018年7月にハッキング容疑でロシア軍参謀本部情報総局(GRUまたはGU)の12人を特定し起訴している。

 このハッキングという告発はクラウドストライクの分析に基づいていると思われる。なぜなら、不思議なことにFBIはDNCのサーバーを直接は調べていないからだ。

 FBIのジェームズ・コミー長官はDNCサーバーへのアクセスを要請したが、断られたと述べている(2017年1月10日、上院情報委員会証言)。DNCサーバーを調べたのはクラウドストライクだけだ。ほかの会社が調べたとの話はこれまで浮上していない。

 つまりFBIやモラー特別検察官が採用したロシアによるハッキング情報は、クラウドストライクが源泉だ。

 ところが、その当のクラウドストライクのヘンリー社長は何と下院情報委で、ロシアのハッカーがDNCのサーバーからデータを抜き取ったとの具体的証拠はないと述べていた。

 ヘンリー社長の証言はだらだらとして少しわかりにくい点もあるが、要するに、彼はロシアによるハックがあったという「状況証拠」はあるが、はっきりとした証拠があるわけではないと述べた(この記事の末尾に証言のさわりの部分を原文で紹介した)。これではクラウドストライクは推定や想像で犯人を特定したことになる。

 もちろん、クラウドストライクの「状況証拠」に基づく推定が正しい可能性もゼロではないので、ロシアによるハッキング説を完全には否定できないのかもしれない。しかし、いかにも旗色が悪い。

 ところでDNCのサーバーから大量のeメールが盗まれ、ウィキリークスなどがそれらを公表したことは事実だ。ロシアによるハックがなかった場合、どのようにしてそれが流出したかが問題となる。米国の情報機関で働いていたサイバーセキュリティ専門家らで構成するVIPSという民間グループの説明を紹介しておきたい。

 このグループは、DNCサーバーのeメールがインターネットを使ったハックではなく、サーバーが存在する現場で外部記憶装置にコピーされたと分析している。その場合、だれがコピーしたか。DNC内部の職員という説もあるが、不明だ。

 ロシアゲートの疑惑は3本柱からなる。第1に、トランプ陣営とロシアが共謀し民主党のヒラリー・クリントン候補を敗北に追いやった。

 第2に、ロシアがDNCのサーバーをハックしeメールを盗み出した(それをウィキリークスなどに渡しクリントン候補に打撃を与えた)。第3に、ロシアがクリントン候補に打撃を与える与太情報をソーシャル・メディアに流した。

 このうち共謀についてはモラー特別検察官が22カ月に及ぶ捜査を踏まえ、共謀はなかったとの結論を出している。これでロシアゲートというストーリー(ナレーティブとも言う)は半分以上瓦解したが、今回の証言公表で、第2の柱も瓦解寸前だ。何しろ、明確な証拠がないのだから。残るはソーシャル・メディアの利用だが、これは日頃から各国でネット上に飛び交うガセ情報とたいして相違ない。

 バー司法長官はちょうど1年前、ジョン・ダーラム検事にFBIが共謀疑惑の捜査に着手した経緯について調査するよう指示を出した。その報告がこれから出る予定だ。

 またFBIをやり玉にあげる可能性がある。そうなると再び不当な結論だとか、否当然だといった議論で盛り上がるだろう。ロシアゲートの最終章はまだ先だ。

 一連のロシアゲート関連の出来事を追ってきて思うのは、これが米国の党派政治、政争の産物であるということだ。ところが日本ではニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNN、MSNBCといったトランプ嫌いの視点で参戦する米国メディアの報道を鵜呑みにした記事が目立つ。

 ロシアゲートは米国の政治、さらには米ロ関係にも大きな影響を与える事件で、その成り行きには大いに注目すべきだが、トランプ大統領を好きであっても嫌いであっても高みの見物がよいだろう。

*ヘンリー社長の証言原文
“There’s not evidence that they were actually exfiltrated. There’s circumstantial evidence but no evidence that they were actually exfiltrated.” (exfiltratedとは、moved electonically という意味)
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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