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プーチン「終身大統領」可能にする憲法改正

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【ロシアと世界を見る眼】大統領権限の制限との英語訳は誤訳だ

公開日: 2020/03/18 (ワールド)

プーチン大統領=Reuters プーチン大統領=Reuters

 ロシアの政治情勢がまたまた驚きの展開をみせている。

 多くの人がウラジーミル・プーチン大統領は今の任期が切れる2024年で退任すると思い込んでいたのだが、そうとは限らなくなった。今年1月から突如始動した憲法改正の動きは、結局のところ、プーチンの「終身大統領」への道が拓かれることに帰着した。

 ただし、彼が実際にその道を歩むかどうかはわからないことにも留意しておきたい。一連のめまぐるしい憲法改正の論議を経て1つはっきりしたのは、プーチンが少なくとも2024年までの4年間、レームダック(退任時期が決まっていて影響力が弱くなる政治家)にはならないということだ。

 プーチン大統領は1月15日の議会向け演説(施政方針演説に相当)で、議会の権限を強化するなどと言って憲法改正を提案した。多くの人に寝耳に水の呼びかけで、なぜ今憲法改正なのか、プーチンは2024年以降どうするつもりか、権力欲の強い人間だから大統領を辞めても別の地位に就いて「院政」を敷くつもりだろうなど、あれこれ揣摩憶測、論議を呼んだ。

 この間、改正案作りは着々と進んだ。議会は直ちに審議に入り、最も注目された大統領の任期を定める条項は、早々と最長で2期12年に制限するとの案が決まった。1993年施行の現憲法では大統領の任期は「連続2期まで」と規定されており、連続しなければ、つまり一旦間を空けるなら、3期以上も可能だ。しかし、改正案では「連続」の文字が削除された。

 これだと、連続しようがしまいが12年以上は大統領であり続けることはできなくなる。プ―チンの2024年退任は確実になったと思われた。この筆者(小田)もそう思い込んだ。

 プーチンは2000年から2008年まで2期連続で大統領を務めた後(当時は1期4年)、憲法を順守して一旦大統領職を退き首相となり、ドミトリー・メドベージェフが後任の大統領に就任した。メドベージェフは1期4年で退陣したが、彼の在任中に憲法を改正し、大統領の任期を1期6年に延長した。

 2012年にプーチンが再登場し、2018年までの1期6年を務め、2018年から2期目に入っていた。こうしてプーチンの今の任期は2024年5月で切れる。

 プーチンの去就についてもっともらしく語られた説は、彼が国家評議会議長などの別の要職に就き「院政」を敷くだった。ところが、今月10日、下院の憲法改正案審議の第3読会(最終読会)で、世界初の女性宇宙飛行士で知られるワレンチナ・テレシコワ議員が演壇に立ち、驚きの提案をぶった。

 大統領の任期制限をまるまるなくすか、任期制限を残すなら現職の大統領の任期については改正憲法の制限の対象から外すべきだと述べた。いずれもプーチンの2024年以降の続投を可能にする案だ。

 審議はいったん休憩。議長からの連絡でプーチン大統領が下院に駆けつけ、憲法裁判所の合憲審査を条件にしながらも後者の案、つまり、今大統領である人物、つまり自分のこれまでの任期は改正憲法では計算されないことにするという案に賛成した。

 プーチンは2024年以降もさらに最長12年は大統領でいられることになった。テレシコワは当然、事前にプーチン大統領と綿密に打ち合わせていたと想像されるが、大半の人が驚いた。

 プーチンは現在、67歳。2024年から2期12年務めるとなると、退任は2036年で、彼は83歳だ。「終身大統領」への道が拓かれたという見方は当然だ。

 こんな裏技があったのか。ロシアでも多くの人はそう受け止めた。プーチンは2024年で自分は退任すると受け止められるような発言を何度か繰り返してきた。だから一部には有権者はバカにされたという反応も生まれている。

 だが、憲法改正案は早速、テレシコワ提案の翌11日に上下両院で承認され、ただちに85の連邦構成行政主体(日本での都道府県に相当)の議会に送られ、全地方議会が承認した。そしてプーチン大統領が14日に改正案に署名し改正案が公表された。

 それをみると確かに、憲法第81条第3項の改正案の中に、大統領の任期は2期までとし、さらに憲法改正が発効した時点で大統領職にある者の任期は計算から除外されるとある。
 
 今後は憲法裁判所の合憲審査を経て、4月22日の全国投票に付され、投票者の過半数の賛成があれば、成立する。提案から施行まで4カ月余りという電光石火の憲法改正となる可能性が極めて高いが、そもそもプーチン大統領が1月に改正を提案した時から、なぜ今憲法改正なのかという基本的な疑問が出ていたことは指摘した。

 2024年の区切りと関係があることは想像できたのだが、2024年以降の続投もありうることが明らかになって、ますます合理的に思えるようになった常識的な見解を紹介したい。今では多くの専門家が取る説でもある。

 憲法改正の主目的は、プーチンがレームダックにならないようにすることだという見方がそれだ。2024年の退陣が決まっていれば、その年が近づくにつれ、プーチン大統領の側近を中心にしたエリート、さらには有力産業人の間でもプーチン後を見据えたごたごた、内紛が起きる可能性が高まる。プーチンはそうならないよう、早々と先手を打ったのだろう。

 プーチンが続投を含めた幅広いオプションを有し、どうでるか分からない以上、プーチンをないがしろにできなくなり、各派閥の勝手な動きを牽制できる。

 では、プーチンは2024年以降どうするのかという疑問へはどう答えられるか。彼は本当に2024年大統領選に再出馬し、新たに2期12年、つまり2036年まで大統領の地位にとどまるつもりなのか。

 テレシコワ提案の後、プーチンの「終身大統領」は決まりだとの観測が流れている。断定しないまでもそう受け取られる見方が実に多い。確かにそうなる可能性は否定できない。だが、プーチンは再出馬するとは1度も言っていない。

 心の内は彼に聞くほかないが、今聞いたとしても彼自身答えられないのかもしれない。2024年にロシアが置かれている状況によると言うのかもしれない。再出馬しない可能性も頭に入れておくべきと考える。プーチンは2024年がかなり近づくまで他人がああだこうだ言うのを楽しむつもりだろう。

 ところで、今回の憲法改正は大統領の任期に関する条項だけが対象ではない。議会の権限の強化を装わせる工夫や、現在の国境の維持、神への言及、ロシア語の地位の強化、同性婚を公認しないこと、大統領以下政府要人や議員の国籍上の規制強化、最低賃金の充実などを盛り込んだ。

 もう1つ忘れてはならない重要なことがある。大統領の権限の強化だ。

 大統領府はプーチン大統領の1月15日の議会向け演説を英訳して発表したが、その中に内閣の組閣や閣僚任命に関する大統領権限の重要な一部を議会に移譲することになったと受け止めざるを得ない下りがある。

 しかし、ロシア語原文を読むとそうではない。大統領府の英訳テキストを読んだ日米欧の多くの記者がロシア語原文を確認せず、英訳の間違いを鵜呑みにして、プーチンは大統領の権限を弱め、議会の権限を強化するよう提案したと報じてしまった。

 14日に発表された憲法改正案では、大統領の権限は議会に対しても裁判所に対しても司法当局に対しても現在よりも強まる。強力な大統領制はプーチニズムの柱であり、彼はそれを憲法改正で一段と鮮明にした。彼がいつ退任するにしても、これが彼の政治的レガシー(遺産)の1つになるのだろう。

小田 健:ロシアと世界を見る目 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

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小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。

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