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プーチンが2016年大統領選でのトランプ支援を自ら決定? 

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【ロシアと世界を見る眼】英紙が「クレムリン内部文書」を暴露、疑わしき点も

公開日: 2021/07/20 (ワールド)

2018年の米ロ首脳会談=Reuters 2018年の米ロ首脳会談=Reuters

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 英紙ガーディアンが先日、2016年の米大統領選へのロシアの介入を示すクレムリン内部文書を入手したと報じた。

 そのマル秘文書によると、同年1月にウラジーミル・プーチン大統領主宰で国家安全保障会議が開かれ、ドナルド・トランプ候補を「全力で」支援することを決めた。プーチン大統領はそれを受け、3つの情報機関の長に具体的手段を検討するよう指示した。

 なかなか興味深い情報だ。ロシア、そして外国のロシア専門家の間で大きな話題になっている。

 クレムリンのマル秘文書が表に出てくることは前代未聞。この文書が本物だとすると、プーチン政権による米大統領選介入が再確認され、さらに介入方針がいつどのような場で決められたかが初めて分かったということになる。だが、いくつか疑問が沸いてくる。どうもすんなりとは受け入れ難い。

 7月15日付けのガーディアンのリューク・ハーディングら3人の記者の署名記事によると、米大統領選でトランプ候補を当選させる作戦は2016年1月22日の国家安全保障会議で決まった。その時の決定を記した「No 32-04\vd」と番号の文書をガーディアンが入手したという。

 2016年1月下旬といえば、確かにトランプが共和党の指名を勝ち取るべく選挙運動を始めていた。

 なぜクレムリンが彼を支援することにしたか。文書には、トランプがクレムリンから見て「最も希望が持てる候補だ」からだと書いてある。

 さらにトランプは「精神的に不安定で、衝動的で…劣等感を持っている」との指摘があり、トランプが当選すれば、米国社会が混乱し、交渉力の弱い大統領となるだろうからロシアの戦略的利益なるとの理由づけがある。なるほど納得できる説明だ。

 こうしてトランプ支援を決め、プーチン大統領は情報機関の長に具体的な支援方法、つまり介入手段を検討し報告するよう指示を出したという。

 クレムリンのサイトを開くと、指摘の通り2016年1月22日に国家安全保障会議が開かれている。プーチン大統領のほか、ドミトリー・メドベージェフ首相、さらに上下両院議長、国防相、外相、情報機関の長ら会議の常任委員が出席した。この日はモルダビア(旧ソ連諸国の1国)情勢と世界の各種市場の動向を討議したとサイトにある。

 この文書が本物だとして、何が新しいかというと、介入を1月22日の安保会議で正式に決めたこと、そしてその動機が明らかになったことだ。

 ロシアが2016年の米大統領選に介入したとか、プーチン大統領が個人的に介入を指示したという指摘は、2017年1月の米情報機関報告を始め米国のいつくかの公的報告にあり、広く知られている。もちろんロシアは全て否定している。

 プーチン大統領自らが介入を指示した点については、米国の報告でも特に具体的な証拠が提示されておらず、状況証拠による判断だったが、この文書が本物だとすると、それを証明する具体的文書が見つかったということになる。

 問題はこの文書の真偽のほどだ。ガーディアンからコメントを求められたドミトリー・ペスコフ大統領報道官は、「壮大なパルプフィクション(低俗小説)だ」と述べた。

 それほどけんもほろろに一蹴してよいのかとも思うが、いくつか指摘しておきたい点がある。

 ガーディアンの記事は、この文書を入手した経緯については何も触れていない。クレムリン内部からの情報漏洩か、それとも別の経路から入手したのか。記事は西側情報機関がこの文書の存在をここ数カ月の間知っていたと書いている。

 この下りから推察すると、英国の情報機関MI6(秘密情報部)由来の情報である可能性もある。ただ、入手先が判明してもその真偽はまた別の話ではあるのかもしれない。

 記事はこの文書(ロシア語)の極一部(18ページと表示がある)だけを掲載している。トランプが精神的に不安定だとか衝動的だなどとの記述がある部分だ。これを読んだロシア紙RBKのイワン・トカチェフ記者は、文章がロシア語としてぎこちないと指摘した。

 句読点の間違い、不自然な言葉遣いなどがあり、学のあるロシア人による文章ではないと推察している。

 また、このガーディアンの記事は“appears,” “suggests,” “apparent,” “seems”といった推定を表わす単語を連発している。つまり「~のようだ」「示唆している」と表記し、断定を巧みに避けている。本物かどうか不安を持っているようでもある。

 この記事を書いた記者は3人で、最初に表記されているのはリューク・ハーディング。彼はロシアによる米大統領選介入関連の記事でいくつか「特ダネ」を書いている。

 2018年11月27日には、トランプ選対本部のポール・マナフォート本部長が2013年から2016年3月にロンドンのエクアドル大使館でウィキリークスの統括者、ジュリアン・アサンジと会っていたと報じた。アサンジは当時、エクアドル大使館に逃げ込み逮捕を免れていた。

 ウィキリークスはその後、米民主党全国委員会のサーバーから流出した幹部職員のeメールを大量に公表、民主党に打撃を与えた。そのウィキリークスとトランプ陣営の首脳が会っていたというのだから、両者の間の陰謀が疑われた。

 ところが、特ダネには信頼できる根拠がなく、今では虚報とみられている。

 ハーディング記者は、また今では怪文書に成り下がっている「スティール文書」などに基づいて2017年に著書を出版、トランプ陣営とロシアとの共謀説を唱えた。スティール文書とは元MI6エージェントのクリストファー・スティールがヒラリー・クリントン候補のためにまとめた報告。その中には事実と認定できない指摘が多く含まれている。

 もちろん過去に疑わしい記事、著書を執筆したからといって、今回の文書が偽物だとは決めつけられない。だが、文書を保有しているのであれば、全文を公表する、あるいその入手経路についてある程度、情報を明らかにする必要があろう。そうすれば、信用度は格段に上がる。

 最後になぜ今頃になってこのような記事が出てきたかという疑問も沸く。文書が漏洩された経緯が分かればはっきりするかもしれない。

 しかし、結局、この種の記事の内容が正しいかどうかは往々にしてすぐには断じられない。文書の真偽は闇の中で終わるかもしれない。そうなれば、書き得とも言える。

 なお、ロシアによる2016年米大統領選介入の話は、いわゆる「ロシアゲート」の構成要素の1つだ。ロシアゲートの本質は、トランプ陣営とロシアが共謀してクリントン候補を敗北させる作戦を展開したという疑惑。

 米政界を大きく揺るがした事件だが、米司法省(FBI、ロバート・モラー特別検察官)、議会、そしてメディアによる捜査、調査でも共謀の存在は証明できなかった。

 ただし、ロシアが共謀なしに勝手に選挙に介入したことは間違いないとされている。その場合でも介入による選挙への影響は、私(小田)は実質的にはほぼ皆無に近かったと思っている。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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