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本当にウクライナ侵攻か――ウクライナは否定的、米国は煽っている?

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【ロシアと世界を見る眼】露は安全保障上の譲歩狙う作戦? 成功しつつあるのか 

公開日: 2022/02/14 (ワールド)

【ロシアと世界を見る眼】露は安全保障上の譲歩狙う作戦? 成功しつつあるのか 

 ウクライナをめぐる情勢が日ごと緊迫の度合いを増している。米国政府によると、ロシア軍がいつウクライナによる侵攻してもおかしくないという。米メディアには、2月16日侵攻開始説も飛び出した(1)。

 だがその一方で、外交的解決を目指した動きも活発だ。侵攻か、外交的解決か、どちらの可能性が高いのか。

 筆者(小田)は今から約2カ月前の昨年12月6日にこの『ソクラ』のサイトで、ウラジーミル・プーチン大統領が侵攻を決断する可能性は低い旨書いた。既に当時も侵攻があるかどうかがメディアの注目を浴びていた。

 その後、状況は一段と緊迫化している。11日にはジェイク・サリバン米大統領補佐官が北京五輪開催中の侵攻開始の可能性が大だと述べ、ウクライナ在留の米国人に即時退去を求めた。

 それでもというか、この期に及んでも、基本的には2カ月前の判断を変える必要はないと考える。

 もちろん全てはロシア軍最高司令官のプーチンの胸先三寸次第であり、彼の心のうちを聞いたわけではない。しかし、ロシアへの代償の大きさや今後の米ロ交渉の行方を合理的に考慮すれば、意を決し、そう言っておきたい。

 今、侵攻した場合、とにかくロシアは大きな代償を払わなければならない。ジョー・バイデン米大統領は、米軍をウクライナに送ってロシア軍と直接戦うことはしないと言っているので、ウクライナの地で米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍と戦闘しない。それでもウクライナ軍、さらにはパルチザンの抵抗でロシア軍は長期にわたり多数の死傷者を出す。

 それに米欧諸国から強烈な制裁が加わる。ロシア経済は主要輸出産品の原油、天然ガスの値上がりで比較的潤っているといっても、新たな制裁で大きな打撃を受けることは必至だ。いくらロシアでも市民の間に不満が高まるだろう。国際的にも非難囂々となろう。

▽ウクライナのNATO加盟は事実上凍結

 侵攻を命じるには理由(開戦理由casus belli=ケイサスベライ)があるはずだ。プーチンが侵攻を決断するとして、それは何か。

 プーチンはウクライナがNATOに加盟しないよう法的に保証するよう求めている。確かにこのNATO不拡大をプーチンは極めて重視している。この要求に対し、米、NATOは受け入れられないと拒否を回答した。

 でもこれが開戦理由になるとは思えない。なぜなら、ウクライナの近い将来のNATO加盟はありそうにないからだ。

 NATOは集団防衛の軍事同盟だ。その第5条は1加盟国への攻撃はNATO全体への攻撃であるとみなし、他の加盟国が参戦する旨規定している。

 だから既加盟国は、ロシアといつ戦争するかもしれないウクライナを受け入れたいとは思っていない。米国でさえそうだ。戦争に巻き込まれる可能性が高いことを知りながら、加盟を歓迎するわけがない。

 こうして、ウクライナのNATO加盟は長期にわたって事実上凍結されているのだ。

 それにNATO不拡大の法的保証は得られなくても、別の形での事実上の不拡大の方針を勝ち得る道は残されているように思う。

 ロシアが今、NATO不拡大の法的保証を得られないことを理由にウクライナに戦争を仕掛けたとしたら、プーチンは単なる戦争屋a warmongerだろう。

 だが、ロシアに別の潜在的な開戦理由がないわけではない。ウクライナ軍が東部の親ロ派分離勢力が支配するドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州)を制圧しようとして本格攻撃に乗り出す場合だ。

 ロシア語系住民、つまり親ロ派が多数を占めるドンバス地方は2014年のウクライナ政変以来、首都キエフの中央政府に反旗を翻し、すでに「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」の独立を宣言、政府を樹立し統治している。それをロシアが様々な形で支援している。

 ドネツクには230万人、ルガンスクには150万人が暮らしているとみられ、ロシア政府はうち数十万人にロシアのパスポートを発行している。つまり、ロシア政府にしてみると、ドンバスにはロシア市民が多数居住しているということになる。

 ウクライナ政府は2014年からこの分離主義勢力を掃討する作戦を展開、事実上の内戦が始まり、これまでに市民を含めて1万3000人以上が死亡、村が破壊され、大量の難民が発生している。一部はウクライナ国内の別の地方に、一部はロシアに移住した。

 この間、フランス、ドイツが仲介し、ロシア、分離主義勢力とウクライナの間でミンスク合意という和平案が一旦成立したのだが、実行されていない。

 現在、大規模戦闘は起きていないが、時々の砲撃、銃撃は続いている。ロシアは、ウォロジミル・ゼレンスキー大統領がこの膠着状態を打開するため、武力でドンバスを奪還しようと試みるのではないかと懸念している。

 仮にウクライナ軍がそのような行動に出れば、ロシア軍は自国民保護などを名目に介入するだろう。

 バイデン政権はこの点に注目してか、ロシアがドンバスへの侵攻を正当化するため、ウクライナ軍による攻撃をみせかけるビデオを作成しようとしていると言い始めた。つまりロシアによる「偽旗(にせはた)a false flag」の陰謀があるというのだ。

 今月3日、米国務省のネド・プライス報道官が会見で、米情報機関がそうした情報を得ていると述べた。米AP通信のマット・リー記者が何度も証拠を示すよう迫ったのに対し、報道官は米情報機関の情報だから信用しろというばかりだった(2)。

 こうして偽旗の陰謀の真偽は不明だが、ドンバスが発火点になりうることはわかる。

 ロシア軍のウクライナ侵攻が間近に迫っているという予測は実は、ここ数年、繰り返しメディアに登場してきた。今回は昨年11月初めごろから目立ち始めた。11月21日には米国の軍事情報専門紙のミリタリー・タイムズThe Military Timesが、ウクライナ防衛情報長官のキリロ・ブダノフ准将の話として、ロシア軍が2022年1月末か2月初めにウクライナに侵攻すると報じて(3)、一段と盛り上がった。

 年が明けると、今度はバイデン大統領自身が1月19日の記者会見で、「よくわからないが」と前置きした後で、時期を特定せず、「彼(プーチン大統領)は入り込むmove inと思う」と述べた。

 バイデン大統領はさらに同27日にゼレンスキー大統領と電話会談した際には、ロシア軍が2月に侵攻する可能性が非常に高いと繰り返した。

 既に2月初めは過ぎ、ブダノフ准将の予測は外れたが、バイデンの予測が的中する可能性は残されている。なにしろ米国の大統領が言うのだから、まず間違いないと誰もが思うだろう。

 だが、このところ相次ぐバイデン大統領、あるいはほかの米政府高官、軍人首脳によるこうした侵攻不可避という見通しにはそれを裏付ける具体的な証拠はほとんど伴っていない。もちろん米軍情報機関の提供する様々な機密情報を持ち合わせているのだろうが、それは伏せられている。国境近辺にロシア軍兵士がたくさんいるというだけだ。 

 米欧、そして日本のメディアでもよく、ウクライナとの国境周辺のロシア軍部隊の配備状況を示す衛星写真が登場する。実はこれらは米当局の公式発表のものではなく、米国の民間会社、マクサー・テクノロジーズMaxar Technologiesが撮影した写真だ。

 たしかにこれらの写真をみると、ロシア軍部隊が増強されてきたように思われる。これに米政府関係者からの10万人以上とか12万5000人が配備されているという情報が重ね合わされ、侵攻間近との印象が醸し出される。

 ▽ウクライナ側は緊迫化を否定

 ところが、なんとウクライナ政府はこうした米公式情報を無視するかのように、侵攻はありそうにないと言い始めた。

 ゼレンスキーは1月28日の記者会見で、「(ウクライナとの国境地帯でロシア軍は)以前に比べ増強されていない。確かに兵員数は増えたが、それは2021年初めのことだ」と述べ、今の状況はその時に比べ緊迫化しているとは思わないと付け加えた。つまり、ロシア軍部隊は昨年初めに増強されたが、それ以降は同じ水準にあると言うのだ。

 サリバン米大統領補佐官の11日の発言が伝えられた後もゼレンスキーは、侵攻間近という情報でパニックに陥ってはならないと反応、「確固たる証拠をみる必要がある」と記者団に述べた。そのような証拠は見ていないということだろう。

 今月10日からは20日までの予定で、ベラルーシでロシア軍とベラルーシ軍との合同演習が始まった。ウクライナ政府はさぞ警戒を強めるだろうと思っていたら、オレクシー・ダニロフ国家安全保障防衛委員会書記はこの演習について、1月24日の英BBCとの会見で、「ロシア軍が演習するのはいつものことで、それが不愉快かと聞かれればその通りだが、我々にとってはニュースではない」と答えた。

 いったいどうなっているのか。バイデン政権はロシア軍が攻めるのは必至と言い、当のウクライナのゼレンスキー政権は今、そんな状況にないというのだ。米、ウクライナの間の危機意識には大きな違いがある。

 ゼレンスキーは、発言の節々から、脅威が切迫していると言い過ぎると対外貿易や外国からの投資に支障が出ることを恐れていることがうかがわれる。だが、それにしてもこの食い違いはどうしたことだろう。

 ウクライナが鈍感なのか、米国が煽っているのか。

 こうした見解の違いは、米欧、あるいはウクライナの民間の軍事専門家にもみられる。

 ここではウクライナの有力シンクタンクの見解を紹介しておこう。

 キエフにある防衛戦略センターの3人の研究員が1月23日時点の状況として指摘したところでは、ロシア軍部隊12万7000人がウクライナらとの国境地帯、ドンバス、クリミアに配備されているが、その数は昨年4月から増えていない。

 ウクライナに全面侵攻するには数十万人の兵力が必要で、それに比べると少なすぎると主張、さらに2022年を通じても大規模攻撃をしかけてくることはないだろうとの見通しを示した(4)。

 こうした危機感を鎮めるような見解が存在することはあまり知られていない。

 日本のメディアの解説員もテレビに登場する大学の先生ら専門家もそうした慎重な見方があることに触れないからだ。知らないか、あるいは知っていても触れたくないのか。危機感が薄れてしまっては、紙面や番組の価値が下がると思っているのかもしれない。

 ▽米国からの丁寧な回答

 とはいえ、ロシア軍部隊が10万人以上とか12万数千人という規模でウクライナとの国境周辺(マクサーの衛星写真では国境から200キロ以上離れた駐屯地も「周辺」に含まれる)に存在していることは間違いない。これらの兵員の相当数は2021年以前から存在していた常駐部隊に所属しており、昨年初め以降からの純増分ではないものの、大規模部隊が配備されている。

 ロシア国防省は軍事機密保持の観点からか、これら部隊の規模について発表していないが、10万人などといった数字に反論もしていないので、当たらずとも遠からずだと思われる。ロシア軍の兵員数は約100万人とされているので、そのうちの10分の1以上をウクライナとの国境周辺に配備していることになる。

 ロシアはなぜ大規模部隊をこの一帯に配備しているのか。当然、ウクライナに侵攻するためだという答えがありうる。さらには、ウクライナ軍がドンバス地方の制圧作戦に乗り出さないよう牽制しているという見方もあるだろう。

 だが、ここでは、ロシアが欧州の新しい安全保障体制を作る交渉に米欧を引っ張り出すための材料にしているという見解に注目しておきたい。

 そうだとすればそうだとすれば、ロシアの作戦は成功しつつある。

 ロシア外務省は昨年12月17日、米国とNATOのそれぞれに対し、NATOを現状以上に拡大しない、つまりウクライナを加盟国として受け入れないと法的に約束することなどを要求、そのための条約案を発表、送付し、回答を求めた。

 米、NATOは回答を年明けの1月26日に伝えた。米、NATOともNATO不拡大を条約の形で約束することはできないなどと回答、これがゼロ回答であるかのように報じられた。

 だが、回答を分析すると、そうではないことがわかる。

 米、NATO、ロシアの当事者は回答を公表していないが、スペインのエルパイス紙が2月2日、その内容をすっぱ抜いた(5)。それによると、確かに米、NATOともNATO加盟に関する門戸開放政策を変えないと明言した。

 だが、米国の回答にはロシアが突きつけたほかの様々な要求への配慮を示す表現がいくつか盛り込まれている。相互に関心のある安全保障問題についてロシアと交渉する用意があると述べ、軍事についての透明性の確保、信頼醸成措置をつくるよう交渉すると意欲を示している。

 ロシアにとってはチャンス到来のはずだ。

 だからプーチン大統領は米、NATOからの回答にロシアの基本的な懸念が無視されていると不満を述べながらも、これを一蹴しなかった。

 12日の電話による米ロ首脳会談について、米ホワイトハウスの説明では、バイデンが制裁強化をちらつかせ強い調子で侵攻に警告したとされ、ぎすぎすしていたように思える。

 一方、ロシアのユーリー・ウシャコフ大統領補佐官によると、会談は「バランスが取れていて、実務的だった」という。侵攻直前の会談だったようには思えない。

 フランスのエマヌエル・マクロン大統領が7日に訪ロ、ドイツのオーラフ・ショルツ首相は15日に訪問する。こうした欧州諸国の外交努力も続いている。そう簡単に緊張が収まるとも思えないが、危機感の煽動だけに流される必要はない。

 

(注)

1. Alexander Ward and Quint Forgey, “Putin could attack Ukraine on Feb. 16, Biden told allies,” Politico, February 11, 2022. [https://www.politico.com/newsletters/national-security-daily/2022/02/11/putin-could-attack-ukraine-on-feb-16-biden-told-allies-00008344]

2. US Department of State, Department Press Briefing (excerpt), February 3, 2022. [https://www.state.gov/briefings/department-press-briefing-february-3-2022/]

3. Howard Altman, “Russia preparing to attack Ukraine by late January: Ukraine defense intelligence agency chief,” The Military Times, November 21, 2021. [https://www.militarytimes.com/flashpoints/2021/11/20/russia-preparing-to-attack-ukraine-by-late-january-ukraine-defense-intelligence-agency-chief/]

4. Center for Defense Strategies, “Center for Defense Strategies: How likely is large-scale war in Ukraine?” The Kyiv Independent, January 24, 2022/. [https://kyivindependent.com/national/center-for-defense-strategies-how-probable-is-large-scale-war-in-ukraine-analysis/]

 5. Hibai Artide Aza and Miguel Gonzalez, “US offered disarmament measures to Russia in exchange for deescalation of military threat in Ukraine,” El Pais, February 2, 2022. [https://english.elpais.com/usa/2022-02-02/us-offers-disarmament-measures-to-russia-in-exchange-for-a-deescalation-of-military-threat-in-ukraine.html]

小田 健:ロシアと世界を見る目 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

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小田 健:ロシアと世界を見る目(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。

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