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レオパルト2戦車供与は長期戦覚悟の証拠

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【ロシアと世界を見る眼】NATOが「参戦」の様相強まる

公開日: 2023/01/30 (ワールド)

レオパルト2=ccbyBundeswehr‐Fotos レオパルト2=ccbyBundeswehr‐Fotos

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 米国とドイツなど欧州諸国が戦車をウクライナに供与することを決め、米欧の対ウクライナ軍事支援は新しい段階を迎えた。長期戦を見据えた決定であり、戦争は何年も続くかもしれない。

 昨年2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して以来、米欧諸国は段階を踏んでウクライナに軍事支援を供与してきた。対戦車ミサイルのジャベリン、携帯式防空ミサイルのスティンガー、そしてハイマース(M142 高機動ロケット砲システム)、地対空ミサイルのパトリオットと続き、今度は主力戦車だ。

 残るは戦闘機と長距離ミサイルのATACMS(エイタクムス)。戦争のエスカレーションを懸念して控えてきたのだが、戦闘機については舞台裏で協議が進んでいるともいう。今後も新たな軍事援助の供与とロシアの反発が繰り返されるのだろう。

 ドイツ政府は25日、同国が誇るレオパルト2 / Leopard 2*戦車をウクライナに供与することを決めた。とりあえず14両を供与する。ポーランドなどすでにレオパルト2を保有している国がウクライナにそれらを供与することも承認した。ドイツほかの欧州諸国から届けられるレオパルト2は約80両になると現時点で見積もられている。

 ドイツ製のレオパルト2は1979年に実戦配備され、これまでに4つの型式が製造されている。細かな仕様の説明は各紙に任せるとして、射撃能力、機動性、防御性に優れ、使い勝手がよく、軍事の世界で高く評価されている。欧州諸国やカナダなど19カ国で3500両以上が配備されていると言われる。

 この戦車をドイツのほか、ポーランド、スペイン、ノルウェー、オランダ、フィンランドなどが手持ちの中から供与する見通し。

 別途、英国は今月、自前のチャレンジャー2戦車14両の供与を決定、フランスも主力戦車のレクレールの供与を検討している。

 一方、ジョー・バイデン米大統領はドイツの新方針発表と同じ25日に最新鋭のM1エイブラムズ戦車31両をウクライナに送ると発表した。

 こうして米欧が主力戦車の供与で足並みをそろえた。

 ドイツのオラフ・ショルツ首相は従来、ウクライナからレオパルト2供与の強い要請を受け、ポーランドなどからも供与するようにとの強い圧力に晒されながらも慎重だった。

 戦争のエスカレーションを招くのではないかと懸念、さらにドイツの軍事援助が突出するとの印象を国内に与えたくなかったようだ。

 ショルツ首相は今回の決断に際して米国と緊密に協議、米国が最新鋭のエイブラムズ戦車の供与に踏み切ることを条件にしていたと伝えられている。

 バイデン政権はつい先週までエイブラムズ戦車の供与を強く渋っていた。あまりにハイテク過ぎて保守修理が難しく、操作技術の習得に時間がかかる。燃費効率が悪く、燃料の補給が簡単ではないといった理由を挙げていた。

 このため、米独間では厳しいやり取りがあったが、バイデン大統領はNATOの結束を重視し、エイブラムズの供与を受け入れたという。

 戦争のエスカレーションの危険、つまりロシア軍が首都キーウの官庁街を狙うとか、ウクライナの隣国ポーランド内の戦車の輸送基地を攻撃する可能性、さらには戦場核の使用といったエスカレーションの可能性については、米国とドイツの首脳は高くないと判断したのであろう。

 ドミトリー・ペスコフ・ロシア大統領報道官は25日、米独はそれら戦車の能力を技術的に過大評価していると一蹴した。ロシアの戦力に自信があり、戦車の供与をあまり重大視していないようでもある。

 米欧の優秀な戦車の投入は戦局を大きく変えるのか、変えないのか、西側の軍事専門家はどうみているのか。彼らも控え目のようだ。

 レオパルト2やエイブラムズがウクライナ軍の戦力を高めることは間違いない。だが、問題はどの程度かだ。それはまず、いつ、どのくらいの数の戦車をウクライナ軍が駆使できるかにかかっている。

 レオパルト2は操縦しやすいと言っても、訓練には数週間、場合によっては数カ月かかる。ドイツ国防省によると、6週間をめどに直ちに訓練を始め、第1四半期の終わり、つまり3月末までにはウクライナに引き渡すという。ただし、それは14両にとどまる。

 ほかの欧州諸国の戦車がいつ、どのような形でウクライナに届くのかは現時点では明確ではない。計約80両のレオパルト2がウクライナに実戦配備されるまでには、長い時間を要するのだろう。

 米国のエイブラムズ戦車に至っては、訓練時間や兵站の整備などを考慮すると、実際に引き渡せるのは1年後だという見方もある。

 それに戦車もほかの重兵器同様、本体を運び込めば、継続的に使い続けられるわけではなく、保守修理、燃料補給などの体制の構築が重要だ。レオパルト2はそうした課題を比較的克服しやすいというが、予想されているロシア軍の春の攻勢に間に合うのかどうか。ロシア軍は戦車の配備が本格化する前にウクライナ軍を叩いておこうとするかもしれない。

 多くの軍事専門家は、戦車だけで戦局が大きく変わることはないだろうとの見解を取る。

 NATOの欧州連合軍最高司令官のクリストファー・カボリ陸軍大将は、すべての兵器システムのバランスが取れていて初めて戦車も機能を発揮できると指摘する。つまり戦車とほかの火砲、歩兵戦闘車両、対空システムを組み合わせる必要がある。

 米軍退役将校で現在CSIS(国際戦略研究所、ワシントンDC)研究員のマーク・カンシアンは、ウクライナが得られる戦車の数が限られるだろうことも考えて、戦車だけでロシア軍に苦戦を強いることは難しいとみる。

 それに戦車は万能の兵器ではなく、空からの攻撃を受けやすいし、対戦車歩兵部隊の攻撃も受ける。

 ウクライナ戦争は昨年2月24日のロシア軍の侵攻開始以来、紆余曲折の末、現在はドンバス地方の西側でほぼ膠着状態にある。ウクライナ軍は戦車の投入で前線を東に押し戻したいと考えている。米欧はその作戦を主力戦車の投入で後押しすることにした。長期戦を考えていることは間違いない。

 ウラジーミル・プーチン大統領は、これまでNATO諸国が軍事支援を追加するたびに、この戦争はウクライナを舞台にしたNATOとの戦争だとの認識を明らかにしてきた。これはロシアがNATO諸国を攻撃することもあり得るという警告だろう。昨年10月27日、内外のロシア研究者や国際政治学者が参加したフォーラム「バルダイ討論クラブ」での発言がその例だ。

 似たような発言は他の高官からも聞こえてくる。

 セルゲイ・ラブロフ外相は今月23日、訪問先の南アフリカ共和国で、ロシアと西側諸国の対立は「ほとんど真の」紛争になったと述べた。

 NATO諸国ではNATOの兵士がウクライナ戦争に直接参戦していないから、ロシアがNATO諸国を直接攻撃することはないと思われているかもしれない。しかし、ロシアの認識は異なるようでもある。戦争がエスカレートする可能性が徐々に高まる中で、和平は無理にしても停戦をめざした接触くらいは持ってほしいと思う。

 *Leopard 2 はドイツ語では「レオパルト・ツヴォー」と発音。英語では「レパド・ツー」だ。日本では「レオパルト・ツー」と発音されており、これはドイツ語と英語の発音が混同していて、厳密には間違い。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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