12月5日、G7とEU、オーストラリアはロシア産原油のスポット価格の上限を60ドル/バレルに設定する対ロ追加制裁を発動した。海運、金融、保険、再保険会社などに対して、これを上回る価格での取り引きに応じないように義務づける。

主要国では、新型コロナ下で金融が大幅に緩和されていた。
主要国がアフターコロナへ向かってエネルギー需給が逼迫するなかで、ロシアをめぐる地政学リスクが原油の先物価格を押し上げた。西側による禁輸は需給をいっそう逼迫させた。それが逆に、ロシアの収入を増やす結果になっていた。
ロシア政府は、好業績の国有ロスネフチの配当収入や、天然ガスの採掘税を引き上げるなどして戦費の増大をまかなった。足りない分は国民福祉基金(外貨準備とは別に財務省が保有する基金)を取り崩して財源にした。2022年の財政赤字はGDPのわずか2%以下に収まるだろう(制裁に対するロシア経済に耐性については、本連載第15回で書いた通り)。
たしかに、ロシア経済を叩くには、石油収入を抑え込めばよい。
だが現実には、ロシア産ウラルブレント油は、制裁発動前の12月1日時点ですでに70ドル/バレルを割り込んで、69.5ドルで取り引きされていた。しかも、中国やインド向けには一段のディスカウントが適用されている。他方、チュメニ油田の採算分岐点は30-40ドル/バレルと推察される。上限価格の効果を疑問視する向きも少なくない。
それにもかかわらず、なぜ60ドル/バレルなのか?
ロシアが対抗して輸出を絞れば、油価は跳ね上がるだろう。この冬、西側はいっそうのインフレに襲われよう。
それを避けるためには、サウジアラビアの協力が必要だ。OPECが増産に動けば、油価の急騰は避けられる。アメリカにその期待があったにちがいない。
ところが、OPECは減産基調を維持している。
制裁は、上限価格としては効果を欠く形で発動された。
OPECは値崩れをおそれて増産へ動こうとはしない。2年前の「マイナス油価ショック」はいまだ記憶に新しい。それにOPECは、そもそもロシアに対する制裁そのものに消極的だ。
この戦争がはじまる前、世界の関心は地球温暖化の防止に集まった。国際社会は一致団結して脱炭素化へ向かって舵を切ろうとしていた。それは、長きにわたってつづいた「石油の世紀」のたそがれを意味した。ロシアとOPECは、同じ産油国として危機意識をともにする。ロシアも関与するOPECプラスの逆襲と言えまいか。